2024年09月06日

東京オフィス市場は賃料の底打ちが明確に。物流市場は空室率高止まり-不動産クォータリー・レビュー2024年第2四半期

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.330]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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日本経済は一進一退の状態にある。2024年4-6月期の実質GDPは2四半期ぶりのプラス成長となった。住宅市場では価格の上昇と新築供給の減少が続いている。東京オフィス市場は空室率が低下し、賃料については上昇している。東京23区のマンション賃料は全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。ホテル市場は2019年対比でも延べ宿泊者数の増加が続いている。物流市場は、首都圏の空室率が高止まりしている。第2四半期の東証REIT指数は▲4.0%下落した。

1―経済動向と住宅市場

4-6月期の実質GDP(1次速報)は前期比年率+3.1%となった。1-3月期の大幅な落ち込みの反動の側面が強く、景気は一進一退の状態にある。

4-6月期の鉱工業生産指数は前期比+2.9%と2四半期ぶりの増産となった[図表1]。業種別では、不正問題の影響で落ち込んだ自動車が前期比+11.7%の大幅増産となったほか、電子部品・デバイスが同+4.3%と高い伸びとなった。
[図表1]鉱工業生産(前月比)
住宅市場では、価格上昇が続いている。2024年4-6月期の新設住宅着工戸数は前年同期比+0.5%と5四半期ぶりの増加、首都圏のマンション新規発売戸数は▲24.4%と3四半期連続の減少、中古マンションの成約件数は+6.3%と4四半期連続の増加となった。

また、6月の首都圏の中古マンション価格は前年比+5.8%上昇した[図表2]。
[図表2]不動研住宅価格指数(首都圏中高マンション)

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2024年第1四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「80」(前回79)となり、調査開始以降、初めて全ての地区が上昇となった[図表3]。同レポートでは、「住宅地では利便性や住環境に優れた地区におけるマンション需要が堅調であること。商業地では店舗需要の回復傾向が継続しオフィス需要も底堅く推移し上昇傾向が継続した」としている。
[図表3]全国の地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1|オフィス
三鬼商事によると、2024年6月の東京都心5区の空室率は5.15%( 前月比▲0.33%)、平均募集賃料(月坪)は5カ月連続で上昇し19,979円となった。ただし、他の主要都市をみると、空室率は新規供給の影響で横浜(8.58%)と仙台(6.34%)が高い水準にある。また、2024年は大阪と福岡で大型の供給が控えており今後の動向を注視したい[図表4]。一方、募集賃料は全ての都市で前年比プラスを維持している。
[図表4]主要都市のオフィス空室率
東京の成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(第2四半期)」によると、26,791円(前期比+5.6%)と3期連続で上昇し、空室率は5.7%(前期比+0.1%)に上昇した[図表5]。

東京オフィス市場では賃料の底打ちが明確になっているものの、来年にオフィスの大量供給を控えるなか需要拡大の持続性が試されることになる。
[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2|賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。2024年第1四半期は前年比でシングルタイプが+4.7%、コンパクトタイプが+4.4%、ファミリータイプが+0.6%となった[図表6]。

総務省によると、4-6月の東京23区の転入超過数は約5.5万人となり2019年同期対比で3%増加した。都市部への人口流入に伴う需要の高まりを背景に賃料が上昇している。
[図表6]東京23区のマンション賃料
3|商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費の好調な伸びを受けて施設売上が増加している。商業動態統計などによると、2024年4-6月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+12.1%、スーパーが+1.7%、コンビニエンスストアが+0.9%となった。ホテル市場は、日本人の宿泊需要に頭打ち感がみられるもののインバウンド需要が牽引し宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回って推移している。宿泊旅行統計調査によると、4-6月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で+6%増加し、このうち日本人が▲2%、外国人が+35%となった[図表7]。
[図表7]延べ宿泊者数の推移(2019年同月比、202年1月~2024年6月)
また、CBREの調査によると、首都圏の大型物流施設の空室率(2024年6月末)は9.7%となった[図表8]。約3年続いた空室率の上昇傾向は今期で頭打ちとなる見通しであるが、空室面積が64.2万坪と過去最高水準にあるため空室率低下のペースは緩やかとなる見込みである。
[図表8]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2024年第1四半期の東証REIT指数は3月末比▲4.0%下落した[図表9]。引き続き、金利上昇への警戒感が強いなか、需給面ではMSCI指数の銘柄入れ替え(5月末)に絡んだ海外投資家の売り圧力やREIT公募投信(上場ETFを除く)からの資金流出など需給環境が悪化し、上期末にかけて弱含みで推移した。
[図表9]東証REIT指数の推移(2023年12月末=100)
J-REITによる第2四半期の物件取得額は2,381億円(前年同期比▲0.7%)、 上期累計(1-6月)では7,473億円(同+23%)となった。アセットタイプ別では、オフィスビル(30%)・住宅(27%)・物流施設(21%)・ホテル(10%)・商業施設(6%)・底地ほか(6%)となり、住宅は昨年1年間の取得実績を既に上回っている。

市場規模を確認すると、上場銘柄数は58社で昨年末から変わらず、市場時価総額は14.8兆円(昨年末比▲4%)、運用資産額(取得額ベース)は23.1兆円(同+1%)となった。また、業績面では、市場全体の1口当たり予想分配金は昨年末比+4%増加、1口当たりNAVは+1%増加し、いずれも過去最高を更新した。一方、Jリートによる投資法人債の発行利率は24年上期平均で1.33%(23年平均0.81%)と大幅に上昇している。今後は借入コスト上昇に伴う分配金への影響に留意する必要がありそうだ。

(2024年09月06日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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