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「持ち家か、賃貸か」。法的視点から「住まい」を考える(5)~「所有権」の制限:「共有」は原則、共有者全員の同意が必要

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子
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1―「所有権」の制限、「共有」について解説する
初回のレポートでは、持ち家の購入、すなわち不動産の「所有権」を取り上げた。続く第2回から第4回のレポートでは、「所有権」に対する制限(図表1)のうち、「権利の濫用」・「相隣関係」・「公法上の制限」について解説した1。
本稿では、引き続き「所有権」に対する制限のうち、「共有」について解説したい。
1 渡邊布味子『「持ち家か、賃貸か」。法的視点から「住まい」を考える』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼)
(1)所有権、(2)所有権の制限:権利の濫用、(3)所有権の制限:相隣関係、(4)所有権の制限:公法上の制限
2―「共有」 は、原則として「共有者全員の同意」が必要
共有者は持分に応じて「使用」「収益」「処分」の権利を有するが、単独所有と比べると、その行使には一定の制限が伴う。「共有」は、民法では「使用」・「変更」・「分割請求」について以下のとおり規定されている。
2 マンションの所有形態である「区分所有」については、別稿で取り上げたい。
3 「もちぶん」と読む。
各共有者は不動産全体について持分に応じて「使用」することができる。ただし、他の共有者を不当に害してはならない。例えば、兄弟2人が相続した一戸建て住宅で、兄が一時的に庭を駐車場として使用することは認められる。しかし、共有者間で協議が整う前に兄家族が住宅に居住を始めることは、弟の利益を不当に害する行為にあたる。
4 自分の持分は売却できる。
5 例えば、1,000万円の不動産の持分価格の過半数は500万円である。つまり、共有者の人数でなく保有する価値に応じ、持分1/2を持つAは、持分1/4をそれぞれ持つBとCが反対しても、自分の持分だけで管理行為を行うことができる。
「共有」は永続的に維持されるものではなく、各共有者はいつでも「分割」を請求できる。方法としては、土地や建物を物理的に分割して持分に応じて割り当てる「現物分割」、一部の共有者が不動産を取得し他の共有者に金銭で精算する「代償分割」、不動産を売却しその代金を共有者間で分ける「換価分割」がある。
一戸建て住宅の場合、玄関、風呂、キッチン、トイレなどの設備は一つで、1世帯しか住めないことも多いため、持分に応じて「使用」「収益」「処分」することは難しい。もともと同居していた家族間で相続が生じ、これまで通り住み続ける場合や、維持・保全のために必要な場合を除き、原則として「何をするにも共有者全員の同意が必要」である。
「共有」は、共有者間の関係が良好で意見が一致している場合は特段問題ない。しかし、意見がひとたび対立すると、非常に厄介な所有形態だと言える。相続や売買を契機に共有者の数が増えたり、第三者が加わったりすると、利害の対立から意見調整が難しくなる。広大な土地であれば「現物分割」によって解決できるが、一戸建て住宅のように物理的に分割できない不動産では、意見が対立すると不動産の活用が停滞する。売却を試みても、共有者全員の合意がなければ実現せず、いずれ資産価値が低下し「負動産」となることもありえる。
このように、「共有」は公平に財産を分け合う仕組みである一方、共有者間の意見対立が生じれば、不動産の「使用」「収益」「処分」が著しく制限される。共有する不動産を巡って将来の争いが想定される場合は、早期に協議を行い、単独所有とするか、共有者全員の合意で売却するなどの対策を講じることが望ましい。
3―共有者同士は意思疎通を図れる関係性を維持することが大切
次回は「所有権」の制限のうち、「所有者等の管理責任」について述べることとしたい。
(2025年09月25日「研究員の眼」)
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03-3512-1853
- 【職歴】
2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
2006年 総合不動産会社に入社
2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員
渡邊 布味子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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