2020年10月05日

Jリート市場の「コングロマリット・ディスカウント」を考える

金融研究部 不動産調査室長   岩佐 浩人

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今回のコロナ禍を受けて、Jリート(不動産投資信託)市場で生じた事象の1つに、複数のアセットタイプに投資する総合型リートの市場評価が低下する、いわゆる「コングロマリット・ディスカウント(以下、CD)」の拡大が挙げられる。

「CD」とは、異なる分野の事業を抱える複合企業(コングロマリット)の時価総額が、事業ごとの価値の総和を下回る状態にあることを言う(図表1)。

一般に、事業の多角化は企業全体の業績変動を小さくするメリットが期待できる。一方で、(1)好調な事業とそうでない事業が混在する場合、不振事業が足を引っ張り好調な事業の評価が企業価値に反映されにくい、(2)事業間のシナジー効果が小さい場合、経営資源の非効率な配分や専門性に劣る経営判断などにより経営効率が悪化するといったデメリットが指摘される。

さらに、投資家サイドの要因として、(3)複合企業の全体像が外部からは見えにくく評価が難しい、(4)投資家は複合企業ではなく専業企業への分散投資を選好するといった理由から、複合企業の評価において「CD」が生じやすい傾向にあるようだ。
図表1:コングロマリット・ディスカウント(CD)
それでは、総合型リートについて、各アセットタイプを事業部門とみなして、バリュエーション指標の1つであるNAV倍率(リートの解散価値を表わすNAVに対する時価総額の倍率)を用いて、「CD」の変動を確認したい。

まず、昨年末時点の総合型リートの(1)NAV は5.0兆円、(2)時価総額は5.8兆円、特定アセットに投資する特化型リートのNAV 倍率を適用した(3)修正時価総額は6.0兆円、「CD((2)÷(3)-1)」は▲3%となった。ビフォーコロナでは、総合型リートは「CD」の状態にあったもののNAV 倍率((2)÷(1))は1.17倍で、市場から高い評価を受けていたと言える(図表2)。

次に、8 月時点の総合型リートの(1)NAV は5.2兆円、(2)時価総額は4.2兆円、(3)修正時価総額は4.8兆円となった。この結果、「CD」は▲3%から▲13%へと拡大し、NAV 倍率も1.17倍から0.82倍へと大きく低下している。
図表2:総合型リートのコングロマリット・ディスカウント
このように、総合型リートの「CD」が拡大した理由は、前述の(1)「不振事業が足を引っ張り好調な事業の評価が企業価値に反映されにくい」が該当しそうだ。以前は全てのアセットでNAV倍率が1倍を超えていたが、現在はホテル(0.7倍)や商業(0.7倍)が低下し、収益の悪化が懸念されている(図表3)。今後「CD」が解消されず、NAV 倍率1倍割れが常態化した場合、エクイティ資金の調達が難しくなるほか、将来、敵対的合併提案を受けるリスクも高まる。

ただし、総合型リートは、幅広いアセットに投資し柔軟なポートフォリオの組み換えが可能であり強みでもある。「CD」解消に向けた各リートの経営手腕が注目される。
図表3:アセットタイプ別のNAV倍率(特化型リート)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

(2020年10月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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