コラム
2020年08月28日

Jリート市場で拡大するセクター間のバリュエーション格差~アフターコロナに向けて。格差は収束するか?~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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新型コロナウイルス感染の第2波を受けて、ウィズコロナの期間の長期化が懸念されるなか、Jリート(不動産投資信託)市場ではセクター間のバリュエーション格差が拡大しています。
 
Jリート市場のバリュエーション指標の1つであるNAV倍率1をアセットタイプ別に比較すると、物流(1.4倍)と住宅(1.0倍)が目安となる1倍を超える一方で、ホテル(0.5倍)や商業(0.7倍)、オフィス(0.8倍)は1倍を下回る水準が常態化しています(図表1)。
 
ビフォーコロナの昨年末時点では、アセットタイプ別のNAV倍率は概ね「1.1~1.2倍」の範囲に収まり、これほどの格差は生じていませんでした。しかし、足もとではコロナ禍の影響が相対的に小さい物流・住宅セクターへの選好が高まる一方で、ホテル・商業・オフィスセクターの時価総額は理論上の解散価値に相当するNAVを下回る割安な評価となっています。
図表1:アセットタイプ別にみたNAV倍率
こうしたセクター間のバリュエーション格差は、個別銘柄にも及んでいます。先月には、物流特化型REITの日本プロロジスリート投資法人(NPR)の時価総額がオフィス特化型REITの日本ビルファンド投資法人(NBF)を一時上回り、時価総額トップの座が初めて入れ替わりました(図表2)。
図表2:NBFとNPRの時価総額
時価総額を「NAV」と「NAVプレミアム」(時価総額-NAV)に分解して比較すると、「NAV」についてはNBFがNPRを45%上回っています。したがって、両者の時価総額の接近は、NAVの将来期待を反映した「NAVプレミアム」の増減によって生じたことになります。
 
確かに、賃貸市況においては、ホテルは人の移動制限を受けて宿泊需要が蒸発し、商業は3密回避のもと都市部の施設を中心に売上が減少しています。また、オフィスも在宅勤務が急速に普及するなか空室率が上昇に転じています2
 
一方、各セクターのNAV倍率が示唆する将来の不動産価格の騰落率は、ホテル(▲31%)・商業(▲20%)・オフィス(▲11%)・住宅(+2%)・物流(+24%)となりますが(図表3)、今のところ、こうした格差が正当化されるような価格の下落は顕在化していません。したがって、セクターによっては現在の投資口価格の下落が行き過ぎ(オーバーシュート)の可能性もあります。
 
いずれにしろ、コロナ禍が収束したアフターコロナの時代では、現在のバリュエーション格差も収束に向かうことになるでしょう。その場合、投資口価格の上昇によって収束するのか、それとも不動産価格の調整によるNAVの下落によって収束するのか、Jリート市場の価格発見機能を測るうえでも注目する必要がありそうです。
図表3:NAV倍率が示唆する将来の不動産価格騰落率(NAV倍率=1倍を前提)
 
1 NAV倍率は、市場時価総額が保有不動産の鑑定評価額をもとに算出されるNAV(Net Asset Value)に対して何倍で評価されているかを表わす指標。株式投資におけるPBR(株価純資産倍率)に相当する。
2 渡邊布味子『新型コロナで住宅市場は更に減速、ホテル・商業は厳しさを増す-不動産クォータリー・レビュー2020年第2四半期』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2020年8月13日)
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2020年08月28日「研究員の眼」)

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