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- 今年上期のJリート市場は▲1.7%下落。株式市場とのパフォーマンス格差が広がる~米国オフィス市場の低迷も上値を抑える要因に~
コラム
2023年07月05日
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続いて、市場規模を確認すると、上場銘柄数は61社から60社に減少、市場時価総額は15.7兆円(昨年末比▲1%)、運用資産額(取得額ベース)は22.3兆円(同+2%)となった(図表2)。また、Jリートによる物件取得額は6,072億円(前年同期比+29%)となり、大きく落ち込んだ昨年から回復が見られた。アセットタイプ別の取得割合は、多い順に、オフィスビル(35%)、物流施設(32%)、住宅(16%)、商業施設(10%)、ホテル(6%)、底地ほか(1%)であった。一方、業績面では、ホテル収益の回復や不動産売却益の計上などがプラスに寄与し、市場全体の1口当たり予想分配金は昨年末比+3%増加、1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)も不動産価格の上昇を反映し+1%増加と堅調であった。この結果、6月末時点のバリュエーションは、分配金利回りが4.1%(昨年末比+0.2%)、10年国債利回りに対するイールドスプレッドが3.7%(同+0.2%)、NAV倍率が0.93倍(同▲0.03倍)となり、半年前の2022年末時点と比べてJリート市場の割安感が高まっている。
ところで、Jリート市場が株式市場の上昇にキャッチアップできない要因の1つに、米国リート市場で高まるオフィス悲観論の影響が挙げられる。現在、米国のオフィスセクターは、(1)空室率上昇、(2)借入金利上昇、(3)融資厳格化という、3つの「圧力」に直面している。なかでも、コロナ禍を契機に広がったリモートワークに伴うオフィス需要の減少、いわゆる「Zoom Effect」が深刻化しており、主要都市のオフィス空室率は軒並み2ケタを超えて上昇している。こうした厳しい事業環境のもと、米国リート市場のオフィス指数はコロナ禍前の2019年末対比で5割を超える下落率となり、リーマンショック後に付けた2009年以来の安値水準に沈む(図表3)。
一方、日本のオフィスセクターは今のところ、3つの「圧力」は軽微だと言える。東京のオフィス空室率は6%台と米国と比べて相対的に低い水準にあり、借入金利は低く、融資環境も落ち着きをみせている。しかし、グローバル投資家がオフィスセクターを回避する動きを強めるなか、Jリート市場でもオフィス指数は2019年末対比で2割以上下落し、市場全体の重荷となっている。セクター別のNAV倍率を比較すると、オフィスセクターは0.87倍と最も低く割安な水準にあるものの(図表4)、海外勢を中心に投資を見送る姿勢が続く。
いずれにしても、Jリート市場の上昇には、保有資産ベースで4割を占めるオフィスセクターの回復が欠かせない。今後は、国内のオフィス市況の見極めに加えて、米国オフィス市場に対する投資家のセンチメント改善がカギを握ることになりそうだ2。
いずれにしても、Jリート市場の上昇には、保有資産ベースで4割を占めるオフィスセクターの回復が欠かせない。今後は、国内のオフィス市況の見極めに加えて、米国オフィス市場に対する投資家のセンチメント改善がカギを握ることになりそうだ2。
1 投資部門別売買動向(2023年1月~5月)では、海外投資家は国内株式(現物+先物)を6.6兆円買い越した一方、Jリートを▲674億円売り越した。
2 米国リート市場のオフィス指数は6月に+9.3%上昇し底打ちの機運も見られる。US-REITのSL Green Realty(SLG)は保有するオフィスビル「245 Park Avenue」(持分49.9%)を森トラストの米国法人に約10.5億ドルで売却。SLGの株価は発表後2日間で30%上昇した。(日本経済新聞夕刊6月28日)
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年07月05日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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