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- 地域イベントの現実と課題-渋谷のハロウィンをイベントとして運営できるか-
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コラム
2025年10月29日
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要旨
渋谷のハロウィンは若者を中心に人気が高い一方、騒音やごみ、治安悪化などの問題が深刻化している。主催者不在の群集現象であるため、正式なイベント化を求める声もあるが、警備・清掃・法的対応など課題は多く、行政主導にも限界がある。筆者は、地域への負担や安全対策の複雑さを踏まえ、安易なイベント化は望ましくなく、地域全体での慎重な議論と合意形成が必要である。
ハロウィンにおける渋谷の騒動は、近年大きな注目を集めている。2010年代初頭から仮装の場として定着し、現在は毎年1万人以上が訪れる。若年層を中心に人気が高く、SNSの拡散によって海外からの注目も高まっている。しかし、その一方で、騒音やごみ、治安悪化など具体的な課題が毎年指摘されており、2023年には渋谷区長がホームページで「【注意】渋谷はハロウィンイベントの会場ではありません」とのメッセージを発表し、雑踏事故やトラブル回避のため、ハロウィン期間中は渋谷駅周辺に来ないでほしい、と訴える事態となった。問題となっている渋谷のハロウィンの騒動は区や商店街が主催する公式イベントではなく、駅周辺の路上に人々が自発的に集まる現象であり、主催者不在の群集形成である。こうした状況を背景に、2024年10月には渋谷区が条例を改正し、午後6時から翌朝5時までの公共空間での路上飲酒を通年で禁止する制度が施行された。禁止エリアも拡大され、今後のハロウィンや年末イベントなど繁忙期を含めた恒常的な人流対策が制度化された。2025年10月の本日現在、ハロウィン期間中の仮囲いや来街自粛要請などの具体的な追加策はまだ発表されていないが、前年同様の対応が検討される可能性が高い。こうした現状に対し、「主催者を置き,正式なイベントとして利益を生む仕組みにすべきだ」という意見も一部で見られるが、筆者はその実現は容易ではないと考える。筆者自身も名古屋の商店街でのイベント運営にボランティアスタッフとして携わった経験があり、そこで地域イベント運営の難しさを痛感したことが背景にある。
地域で行われるイベントは、地域活性化や非日常体験の提供、来訪者同士の交流促進といった大きな効果を持つ。他方で、住民全員が必ずしも歓迎するわけではなく、騒音やごみの散乱、交通規制による不便への不満が上がることも少なくない。筆者が関わったイベントは来場者の出展者や地域の方からマナーが比較的良いと評価されるものであったが、それでも主催者側はイベント期間を通してごみ回収や清掃の徹底、私有地への立ち入り防止の見守り、そして事前・事後の住民への丁寧な説明などを行っていた。それにも拘らず、すべての住民の満足を得るのは難しく、地域住民やボランティアにかかる負担は大きい。渋谷のハロウィン規模を想定すれば、その負担はさらに増すことは明らかである。
一方で、行政がイベント運営を主導する場合も課題は多い。警備や運営スタッフの確保、施設使用料などのコストは多額であり、税金投入には住民の理解と合意が必要である。また行政主体のイベントは、住民の主体的関与が薄れ、地域らしさを失う懸念もあるため、イベントへの行政関与度合いについては、企画の段階において慎重な判断が求められる。
渋谷のハロウィンを現在のような規制中心の対応から、主催者を置き、正式なイベントとして運営する場合、課題はさらに複雑化する。渋谷は観光客や来街者が集中する都市であり、SNSの影響で予期せぬ人流が生じやすい場所である。そのため警備や交通規制、清掃体制の強化、入場制限や動線設計など綿密な計画が不可欠となる。さらに、道路使用許可、騒音規制、消防法など多くの法的要件への対応も必要となり、運営の難易度は格段に高くなる。
こうした運営上・法的課題を踏まえると、渋谷のハロウィンを安易に正式イベント化することは、地域社会の負担を大きくし、むしろ地域住民との軋轢が増え、逆効果を生むおそれがある。筆者の経験からも、住民やボランティアの負担を軽減しつつ誰もが楽しめる場を作るのは容易ではない。
渋谷のハロウィンを正式なイベントとする是非は、地域社会全体で議論し、合意形成を重ねて決定すべきである。しかし現実的には、規模の大きさや安全対策の複雑性、地域への負担を考慮すれば、安易なイベント化は望ましくない。
(2025年10月29日「研究員の眼」)
03-3512-1817
経歴
- 【職歴】
2022年 名古屋工業大学大学院 工学研究科 博士(工学)
2022年 ニッセイ基礎研究所 入社
【加入団体等】
・土木学会
・日本都市計画学会
・日本計画行政学会
島田 壮一郎のレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
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