コラム
2023年09月21日

『アレ』で伝わるコミュニケーション-阪神タイガースの『アレ』が意味するもの-

社会研究部 研究員 島田 壮一郎

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2005年以来18年ぶりに阪神タイガースが『アレ』を達成した。前回と同じく岡田監督が率いての『アレ』である。筆者も出身が関西であり、あまり野球を見なくなった今でも嬉しいものである。

さて、上記の文章の意味、『アレ』が何を指すかを理解できたであろうか。ここで言う『アレ』とは『リーグ優勝』を意味するものである。阪神タイガースが優勝したことを知っていれば文章を読むことで理解できるかもしれないが、「阪神・アレ」と並んでいるだけで分かる人も多いのではないか。

2005年以降、優勝から遠ざかっていたが、何度も今年は優勝できそうだと言われる年もあった。2008年は2位に大差をつけて首位を独走していたにも関わらず、最終的には巨人に追い越されリーグ優勝を逃した。また2021年にも好調であったにも関わらず失速し、優勝を逃した。この2つの年の阪神においてインパクトを残しているのが日刊スポーツの出した「Vやねん!タイガース」という雑誌と朝日放送の「阪神優勝してまう!?」と冠した番組であろう。振り返ってみるとこれらが発売・放送された後から失速したような結果になってしまった。このトラウマからどれだけ好調であっても「リーグ優勝」に触れることを避けるというようなノリがあった。2023年のシーズンにおいて阪神の成績が良かったため、リーグ優勝のことを『アレ』と称する流れが盛り上がりを見せた。

ちなみに優勝のことを『アレ』と表現することは岡田監督がオリックスの監督をしていた2010年まで遡る。その年のセ・パ交流戦において、交流戦の優勝について『アレ』と表現したところから始まっている1

さて、「阪神が『アレ』してしまう。」という一文は文章として正確とは言えない。ここで使われている『アレ』は指示代名詞であろう。基本的に指示代名詞はそれが何を指しているかを明確にすることが必要である。しかし、今この文章は多くの人に伝わるであろう。このことはコミュニケーションが言語の意味だけでのやりとりではないということを表わしているのではないか。

コミュニケーションについて図-1のようなモデルで説明されている2
図-1 コミュニケーションモデル(松尾,1999)
コミュニケーションとは単なる言語の意味の理解だけではなく、その主体の背景に基づいた理解が必要であることを示している。具体的には既有知識である「命題的知識」、「スキーマ」と「メンタルモデル」、「手がかり情報」によってメッセージの送受信を行い理解している。先ほどの「阪神が『アレ』してしまう。」という文章が多くの人に理解されるのは、阪神に対する既有知識が多くの人に共有されていることが理由である。このようにコミュニケーションでは言葉の意味よりも既有知識の共有が重要だと言えるかもしれない。

様々な場面においてコミュニケーションが関わってくる。今後もコミュニケーションについての発信を行っていきたい。加えて、『優勝』を達成した阪神が次に『ソレ』を達成し『334』の悪夢から覚めることを応援していこうと思う。

参考文献
1. 喜瀬 雅則. 《発掘秘話》阪神・岡田彰布監督が「優勝」ではなく「アレ」と言い続けた“納得の理由.” 文春オンライン. Published 2023. Accessed September 19, 2023. https://bunshun.jp/articles/-/65734
2.  松尾太加志. コミュニケーションの心理学 認知心理学・社会心理学・認知工学からのアプローチ. ナカニシヤ; 1999.
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社会研究部   研究員

島田 壮一郎 (しまだ そういちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、住民参加、コミュニケーション、合意形成

(2023年09月21日「研究員の眼」)

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