2024年09月26日

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1.はじめに

東京都心部Aクラスビル1の空室率は、コロナ禍を受けて大きく上昇したが、2024年に入り低下基調に転じている。成約賃料は需給バランスの改善に伴い底打ちし、上昇に転じている。本稿では、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2028年までの賃料と空室率の予測を行う。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。

2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
東京都心部Aクラスビルの空室率は、2020年第4四半期以降、上昇基調で推移していたが、2024年に入り低下し、2024年第2四半期は5.7%(前期比+0.1ppt、前年同期比▲0.2ppt)となった。

Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス2)は、2023年第4四半期以降、上昇に転じ、2024年第2四半期は26,791円(前期比+5.6%、前年同期比+4.4%)となった(図表-1)。
図表-1 都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
Bクラスビル及びCクラスビルについては、空室率が改善し、成約賃料は回復に向かっている。2024年第2四半期の空室率はBクラスビルで3.8%(前期比▲0.2ppt、前年同期比▲0.7ppt)、Cクラスビルで4.1%(前期比▲0.3ppt、前年同期比▲0.3ppt)となり(図表-2)、成約賃料はBクラスビルで19,305円(前期比▲3.1%、前年同期比+4.1%)、Cクラスビルで18,503円(前期比+0.6%、前年同期比+10.9%)となった(図表-3、図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル3」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続していたが、現在は「空室率低下・賃料上昇」局面に向かいつつある(図表-5)。
図表-2 東京都心部の空室率/図表-3 東京都心部の成約賃料
図表-4 東京都心部の成約賃料(前年同期比)/図表-5 東京都心部Aクラスビルの循環図
 
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2024年8月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(32.2%)」で、次いで「千代田区(29.0%)」、「中央区(17.7%)」、「新宿区(12.4%)」、「渋谷区(8.7%)」の順となっている(図表-6)。

「賃貸可能面積」は、「千代田区」(前年同月比▲0.9万坪)、「中央区」(同▲0.5万坪)、「新宿区」(同▲0.1万坪)で減少する一方、「港区」(同+1.7万坪)と「渋谷区」(同+4.7万坪)で増加し、合計+4.9万坪となった。これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「港区」(同+9.7万坪)、「渋谷区」(同+4.6万坪)等、すべての区で増加し、合計+17.8万坪となった(図表-7)。この結果、空室面積は、東京ビジネス地区全体で▲12.9万坪の減少となった。
図表-6 東京ビジネス地区の区別オフィス面積構成比(2024年8月)/図表-7 東京ビジネス地区の区別オフィス需給面積増分(2024年8月)
エリア別の空室率(2024年8月時点)を確認すると、「千代田区2.7%」(前年同月比▲1.1ppt)、「渋谷区4.1%」(同▲0.1ppt)、「新宿区4.5%」(同▲0.9ppt)、「中央区5.9%」(同▲1.2ppt)、「港区6.3%」(同▲3.2ppt)となり、全ての区で低下した(図表-8左図)。

募集賃料は、「港区(前年同月比▲0.2%)」が下落した一方、「中央区(同+0.8%)」、「千代田区(同+1.4%)」、「新宿区(同+2.9%)」、「渋谷区(同+8.0%)」は上昇した(図表-8右図)。
図表-8 東京ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)
2-3.企業のオフィス環境整備の方針等を踏まえた、今後のオフィス需要を考える
以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「テレワークの普及がオフィス需要に及ぼす影響」、(3)「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。
(1) オフィスワーカー数の動向
総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は、増加傾向で推移しており、2024年第2四半期は843.5万人(前年同期比+1.7万人)となった(図表-9・左図)。

就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が133、「学術研究,専門・技術サービス業」が121、となり、全体(107)を上回るペースで増加している(図表-9・右図)。
図表-9 東京都の就業者数
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業) は、2020年第2四半期に▲15.7ポイント低下した後、回復が続いている。2024年第2四半期は+24.1となり、コロナ禍前の水準(+20.3)を大きく上回った(図表-10)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2024年第2四半期は「製造業」が+15.1、「非製造業」が+28.2となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、人手不足感がより強いと言える。
図表-10 従業員数判断BSI(関東地方)

(2024年09月26日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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