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2024年度トリプル改定を読み解く(中)-重視された医療・介護連携と急性期見直し、政策誘導の傾向鮮明に

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
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4――医療・介護連携の全体像
以下、(1)急性期医療、高齢者救急、(2)入退院支援や看取り、外来、在宅など――の2つに関して、医療・介護連携に関わる改定内容の概略や狙いを考察する。
5 2024年7月1日『週刊社会保障』No.3274における厚生労働省医療課長の眞鍋氏に対するインタビューを参照。
5――急性期医療、高齢者救急の改定内容
急性期医療、高齢者救急のうち、2024年度改定の最も大きな注目として、「地域包括医療病棟」(3,050点、1点は10円、以下は同じ)という診療報酬の区分が創設された点を指摘できる。これは医療資源投入量のミスマッチを解消することで、医療機関の機能分化を図るとともに、早期の在宅復帰支援を図る狙いが込められている。先に触れた意見交換会のテーマで言うと、3つ目に該当する。
もう少し細かく説明すると、高齢化で軽度・中度の高齢者の救急搬送が増えている中、誤嚥性肺炎など医療資源投入量の少ない疾患でも、救急病院に搬送されており、リハビリテーションを十分に受けられず、要介護状態が悪化しているケースが多い。新型コロナウイルスへの対応でも、重症化した高齢者が高度急性期病院に入院した後、十分なリハビリテーションを受けられず、状態が悪化して自宅に戻るケースが散見された。
そこで、地域包括医療病棟では、▽救急患者の受け入れ、▽リハビリテーション、栄養管理の提供、▽退院に向けた意思決定支援、▽在宅復帰支援――などを包括的に提供することが意識されている。これらの意図については、施設基準の内容や診療報酬の設計で読み取れる。例えば、施設基準では、患者10人に対して看護師1人を配置している点(いわゆる10対1基準)とか、リハビリテーション職や管理栄養士の配置、平均在院日数が21日以内である点などが定められている。
このほか、診療報酬でも定額で支払われる「包括払い」と、診療行為や施設基準に応じて支払われる「出来高払い」が組み合わされており、入院基本料などは包括払いとして設定されている一方、入院日から14日を限度として算定できる「初期加算」(1日当たり150点)、計画策定から14日を限度に算定できる「リハビリテーション・栄養・口腔連携加算」(1日当たり80点)などの加算も設けられた。これらの施設基準や加算を通じて、可能な限り、早い段階で治療やリハビリテーション・栄養・口腔ケアを集中的に実施したい意図が見えて来る。
次に、高齢者救急の関係では、高齢者施設と「協力医療機関」の連携強化に向けた改正が目を引いた。しかも、これは診療報酬と介護報酬の両面でテコ入れが図られている点で、正に同時改定の賜物であり、先に触れた意見交換会のテーマで言うと、4つ目に相当する。
ここで言う協力医療機関とは、既に制度化されている仕組みである。具体的には、介護保険施設の運営基準では、救急時の搬送などで協力を仰ぐ「協力医療機関」を定めることになっている。
しかし、詳しい内容は規定されておらず、両者の連携が取れているとは言えない。例えば、厚生労働省の委託調査6によると、特養と協力医療機関の連携について、「緊急時の対応あり」は23.2%にとどまったのに対し、「緊急時の対応なし」と答えた比率は69.6%に及んだ。
さらに、同じ調査では連携内容を尋ねる質問も設定されており、図表3の通り、「入所者の診療(外来)の受け入れ」が78.8%、「入所者の入院の受け入れ」は60.6%、「死亡診断」は32.8%だったが、「緊急の場合の対応(配置医師に代わりオンコール対応)」は17.4%にとどまった。
こうした要件を満たす医療機関と連携した場合、1カ月100単位を得られる「協力医療機関連携加算」も新設された(2025年度以降は50単位、1単位は原則として10円、以下は同じ)。
この関係では、特定施設入居者生活介護(いわゆる有料老人ホーム)や認知症対応型共同生活介護(いわゆる認知症グループホーム)についても、協力医療機関の指定が努力義務とされた。
さらに、介護報酬改定では、特養に配置されている医師の急変時対応などを評価する「配置医師緊急時対応加算」(1回当たり早朝・夜間650単位、同深夜1,300単位)が見直された。これは入居者の急変時に駆け付けられる体制を整備するため、2018年度改定で創設された加算であり、現在は早朝・夜間、深夜だけ算定できるが、2024年度改定では日中でも勤務時間外であれば、1回当たり325単位の算定が認められることになった。国の委託調査7では、同加算を取得している施設は5.9%にとどまっており、テコ入れ策が講じられた形だ。
一方、診療報酬改定でも「協力対象施設入所者入院加算」(往診は600点、それ以外は200点)、「介護保険施設等連携往診加算」(200点)が創設された。このうち、前者では、介護保険施設の入所者が急変した際、協力医療機関として指定されている医療機関が入院を受け入れた場合に取得できるようになっており、介護施設との定期的なカンファレンス開催などが要件となっている。
さらに、後者は介護保険施設の入所者に対し、協力医療機関の医師が往診を行った場合に受け取れる加算であり、前者と後者ともに高齢者の救急医療に関して、医療機関と介護施設の連携を図ることに力点が置かれている。
以上のような内容を総合すると、高齢者施設と医療機関の連携強化に関して、診療報酬と介護報酬の両面で、テコ入れが図られたことになる。これらの制度改正の意図については、協力医療機関の対象からも読み取れる。
具体的には、協力医療機関を担うことが望ましいとされた医療機関として、「地域包括ケア病棟」「在宅療養支援病院(在支病)」「在宅療養支援診療所(在支診)」「在宅療養後方支援病院」が列挙されている。
このうち、地域包括ケア病棟とは一般的に「急性期を経過した患者の受け入れ」「在宅で療養中の患者の受け入れ」「在宅復帰支援」の3つの役割を持つとされる病棟であり、在宅医療を受けている患者や介護施設からの高齢者受け入れが重視されている。さらに、在支病と在支診は在宅医療を中心に提供する医療機関、在宅療養後方支援病院は急変時の在宅患者受け入れを担うことが期待されている。いずれも日頃から在宅医療や医療・介護連携に取り組んでいる医療機関であり、これらの医療機関と介護施設の連携を深めようとしていると言える。
実際、厚生労働省幹部は「介護保険施設が医療の視点を含めたケアマネジメントをするためには、普段から相談に乗ってくれる医療機関と連携していることが大切」と強調するとともに、医療機関サイドとしても、「訪問診療や往診をし、必要な場合には入院を受け入れる」という「面倒見のよい医療機関」が求められると述べている8。
さらに、医療業界から「連携を通じたスムーズな入院受け入れも浸透していく」9という声が出ているほか、介護業界団体からも「これまでも医療機関と契約して入所者の健康管理などを担ってもらう取り組みをしてきたが、形式的になっていた面も否定できない。今改定を機に実質的な連携を実現できれば介護施設としての機能向上が期待される」10との期待も出ている。
6 PwCコンサルティング合同会社(2023)『特別養護老人ホームと医療機関の協力体制に関する調査研究事業報告書』(老人保健事業推進費等補助金)を参照。回答した特養は1,148施設。
7 同上を参照。
8 2024年7月1日『週刊社会保障』No.3274における厚生労働省医療課長の眞鍋氏に対するインタビューを参照。
9 2024年5月号『日経ヘルスケア』における全日本病院会の猪口雄二会長のインタビューを参照。
10 同上における全国老人福祉施設協議会の小泉立志副会長のインタビューを参照。
6――入退院支援、看取取りや在宅、外来などの改定内容
次に、入退院支援や看取り、外来、在宅などでも、医療・介護連携の強化が図られた。このうち、入退院支援に関しては、在宅ケアを受けていた高齢者が入院した際、ケアマネジャーから医療機関に対する情報提供が円滑に進むようにするため、「入院時情報連携加算Ⅰ」が改正された。具体的には、改正前には利用者の入院から3日以内に提供した場合、1カ月200単位を受け取れたが、2024年度改正を経て、「入院した日」の情報提供が課された。さらに、報酬単価も200単位から250単位に引き上げられた。
4日以上7日以内の情報提供を対象としていた「入院時情報連携加算II」についても、「入院した翌日または翌々日」に短縮化されるとともに、報酬が1カ月100単位から200単位に引き上げられた。
看取り対応の強化では、介護保険の訪問入浴介護と短期入所生活介護に関して、64単位の「看取り連携体制加算」が創設された(前者は1回当たり、後者は1日当たり算定可能)。
訪問介護の「特定事業所加算」でも、細かく5つに分かれた類型のうち、一部の類型については、「医療機関や訪問看護ステーションの看護師との連携で24時間連絡できる体制を確保」「必要に応じて訪問介護を実施できる体制の整備、看取り期における対応方針の策定、看取りに関する職員研修の実施」「看取り期の利用者に対する対応実績が1人以上」などの要件が加えられた。
外来に関しては、かかりつけ医機能を評価する「地域包括診療科」「地域包括診療加算」が見直された。いずれも元々、高血圧や糖尿病など慢性疾患の患者に対する継続的かつ全人的な医療を評価するため、2014年度に創設された制度。今回の見直しのうち、医療・介護連携に関わる部分としては、ケアマネジャーからの相談に対応する旨が算定要件と施設基準に明記されるとともに、担当医が多職種連携の場である「サービス担当者会議」「地域ケア会議」に出席することも求められるようになった。地域包括診療加算に関しては、加算額も引き上げられた。
さらに、24時間での在宅医療体制の構築する観点に立ち、在支病や在支診が他の医療機関の在宅患者に対し、往診を実施した場合に取得できる「往診時医療情報連携加算」(200点)が創設された。このほか、通院が困難な利用者に対して医師などが医学的な観点で在宅ケアを指導する居宅療養管理指導では、医療用麻薬を使っている患者に対する指導を実施することを評価する「医療用麻薬持続注射療法加算」(1回250単位)などが創設された。
(2024年07月29日「基礎研レポート」)
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03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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