2024年04月22日

のり弁×冷凍食品-消費の交差点(5)

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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4――「冷凍ご飯は美味しくない」問題

パナソニック株式会社が行った「炊飯習慣調査9」によれば、炊飯したごはんをその都度食べきる人は約3割しかおらず、約4割冷凍保存すると回答している。そして、ごはんを冷凍保存すると回答した人に「冷凍保存したごはんはおいしくなくなると感じるか」聞いたところ、いつも感じる、ときどき感じるの計が5割を超えている。
図4 炊飯したご飯の保存方法は(複数回答:N=800)
図5 冷凍保存したごはんは美味しくなくなると感じますか (N=356)
ご飯は冷めることでデンプンの老化が進み、水分が抜けて風味が損なわれ、パサパサの状態になる。 そのため、冷めた状態のご飯を冷凍すると、すでに風味の落ちたご飯を冷凍することとなり、解凍して食べても炊き立てと比較するとおいしくないと評価されてしまうわけだ。逆に、白米を炊きあがった状態で冷凍すると、解凍時に米飯から水分が抜けて、蝋のように硬くてボソボソとした食感になる白蝋化と呼ばれる現象が起こる。冷凍保存中に冷凍庫内のにおいがご飯に移ることも問題だ。

例えば家庭用冷蔵庫の冷凍室においては、その多くがエアーブラスト方式(空気凍結)と呼ばれる凍結技術を採用している。名称から分かるように、冷やした空気を吹き込むことで、冷凍室内の温度を下げ、冷凍する技術だ。エアーブラスト方式には、食材の形を保ったまま一度に多くの食品を凍結させることが可能というメリットがあるが、乾燥した冷気を高速で食材に吹き付け冷凍を行うため、食品表面の水分が奪われやすいといったデメリットがある10。家庭レベルの冷凍技法と、業務レベルの冷凍技法に差はあるだろうが、従来の冷凍技術では白米の「うま味」が失われてしまうという認識は変わらないようだ11

しかし、株式会社菱豊フリーズシステムズが生み出した最新の急速凍結技術『プロトン凍結』は、冷凍時にできる氷の結晶の粒が小さいため、解凍時に細胞が破壊されにくく、調理したてのような状態が保たれるという。前述した通り、白米や酢飯は、冷凍によるダメージで白蝋化してしまうが、プロトン凍結であれば、握りずしの状態でもできたての味が再現可能だというのだ。実際に前述したオリジンの「冷凍のり弁当」よりも以前に発売された、「ほっかほっか亭冷凍のり弁当」(2022年3月発売)を製造する藤本食品株式会社12は、2020年からプロトン凍結機を導入し、冷凍弁当を販売している。技術の進歩により、品質を保ちながらの白米の冷凍が実現したことにより、弁当を始めとした「白米を冷凍した商品」が少しずつ市場に現れ始めたわけだ。
 
9 パナソニック株式会社「お米は買い置き&ごはんはまとめ炊き:炊飯習慣を調査】購入後お米を2週間以上かけて消費する人が約9割、常温保存をしてお米は「乾燥」状態に!?/まとめ炊きをする人は約7割」2021/04/07 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000465.000024101.html 
10 株式会社コガサン「【エアブラスト方式とブライン方式】一般的な急速冷凍の凍結方式の違い」https://3d-freezer.com/3d-freezing-lab/word_houshiki
11 言い換えればチャーハンやピラフなど味がついている状態ならば白米そのものの風味はさほど気にならなく、市場に受け入れられてきたと言えるのではないだろうか。それゆえ、チャーハンとおかず、ピラフとパスタといったように調理された白米のプレートは以前より存在していたことは留意したい。
12 藤本食品株式会社ホームページ https://www.fujimotofoods.co.jp/products/frozen.html

5――冷凍のり弁当の市場性

5――冷凍のり弁当の市場性

一方、本レポートを通して初めて弁当の冷凍食品があることを認知した読者も少なくないのではないだろうか。それは、日本の冷食市場は、お弁当のおかずや夕飯の一品として購入されることが多くい「惣菜」が中心であり、そのまま食べることができたり、簡単な調理で完結する「中食」と呼ばれるジャンルだからだ。

今後、冷凍弁当市場では、スーパーマーケットでは低価格販売という強みを、コンビニでは全国約5.7万店舗のコンビニチェーンを活かし、代わる代わる新商品を開発することで「ラインナップに飽きない」ジャンルとして進んでいくことだろう。

一方で、出来立てを重視する層はそれなりに存在すると思われ、前述した「オリジン弁当」や「ほっかほっか亭」といったその場で調理してくれる弁当屋や、牛丼チェーンやハンバーガーショップなどのテイクアウト市場がしっかりと根付いている現状を考えると、冷凍弁当市場が一気に進展するのは難しいと筆者は考える。

とはいえ冷凍弁当の「ストック」としての需要は大きいと思われる。冷凍宅配弁当を販売するナッシュ(nosh)は、2024年2月にサービスを開始(2018年)して以来、累計で8,000万食以上を突破した13。2023年10月から4ヶ月で7,000万食から8,000万食に到達し、現在平均して月間250万食以上宅配されている。マルハニチロ株式会社が行った「冷凍食品に関する調査 202114」において「将来的に、どのような冷凍食品があったらいいなと思うか」という問いに対して「お弁当がそのまま冷凍食品になっているもの」という回答が最も多かったという。共働き世帯やシニアの少人数世帯の増加に伴って調理に対するタイパ意識が強くなる中で、それこそTVディナーのように手間をかけずに、何種類もおかずを用意する必要なく、ご飯すらも炊かなくて済む冷凍弁当をストックしておくことが、“時間がないとき”、“何もやる気になれないけど食べなくてはいけないとき”の救世主になる日になることだろう。したがって、冷凍弁当市場の成長スピードは、こういった社会環境・就労環境の変化のスピードに比例すると思われる。
 
13 ナッシュ株式会社ホームページ「冷凍宅配弁当の「ナッシュ」 累計販売食数8,000万食突破」2024/02/15 https://nosh.jp/company/news/117562
14 マルハニチロ株式会社「冷凍食品に関する調査 2021」
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/research/019.html
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2024年04月22日「基礎研レター」)

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