2024年05月02日

米FOMC(24年5月)-予想通り、6会合連続で政策金利を据え置き。量的引締めペースの減速を決定

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:6会合連続政策金利を据え置き、量的引締めペースの減速を決定

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が4月30日-5月1日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を6会合連続となる5.25-5.5%で据え置いた。量的引締め政策では財務省証券の月間償還上限額を従前の600億ドルから250億ドルに引下げ、保有証券の縮小ペースを減速させた。

今回発表された声明文では景気判断部分でインフレについて「ここ数ヵ月は委員会の物価目標2%に向けた進展がみられない」との表現を追加し、足元でインフレが想定より上振れしている状況を示した。一方、ガイダンス部分では「委員会はインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引き下げることは適切でないと考えている」との記述が維持され、次の政策金利変更は利下げである方針が確認された。

今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

2.金融政策の評価:利下げ開始時期は前回3月会合での想定から大幅な後ズレを示唆

政策金利の据え置きは予想通りであった。また、声明文の金融政策ガイダンスが維持されたのも予想通りであった。一方、年初からのインフレ上振れを受けて声明文で「物価目標2%に向けた進展がみられない」との表現を追加して、インフレが利下げ条件を満たす時期が後ズレする可能性を明確に示した。

パウエル議長の記者会見では、足元でインフレが上振れていることに対して、今後は再びインフレが低下するとの見通しを示す一方、その自信は以前より低下していることを示した。また、インフレ率が持続可能なペースで目標の2%へ移行していると十分に確証を得るためには、以前想定していたよりも時間がかかるとの見解を示し、利上げ開始時期が前回3月会合で想定された時期から先送りされる可能性を示唆した。一方、利上げの可能性に関しては、利上げの条件として現在の政策スタンスがインフレ率を継続的に2%まで低下させるのに十分でないという説得力のある証拠が必要として、その可能性は低いことを示した。

当研究所は本日のFOMC会合を受けて利下げ開始時期を従来の6月から12月に変更する。足元でインフレが加速しているほか、家賃や賃金上昇率が高止まっている中、今後のインフレ低下ペースは緩やかに留まることから、インフレがFRBの利下げ条件を満たすのは今年後半の遅い時期とみられるためだ。今年の利下げ回数は1回に留まろう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを5.25-5.5%に維持することを決定(変更なし)
  • 加えて、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(前回あった「以前発表した計画通り」”as described in its previously announced plan”の表現を削除)
  • 委員会は6月より、財務省証券の月間償還上限額を600億ドルから250億ドルに引下げることで、保有証券の縮小ペースを減速させる(今回追加)
  • 委員会はエージェンシー債およびエージェンシーの住宅ローン担保証券の月間償還上限額を350億ドルに維持し、その全額を財務省証券に再投資する(今回追加)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(変更なし)
  • 委員会はインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引き下げることは適切でないと考えている(変更なし)
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している(前回の「拡大している」”has been expanding”から「拡大を続けている」”has continued to expand”に小幅な表現変更)
  • 雇用の増加は依然として力強く、失業率は低水準を維持している(変更なし)
  • インフレ率はこの1年で緩和したが、依然高止まりしている(変更なし)
  • ここ数ヵ月は委員会の物価目標2%に向けた進展がみられない(今回追加)
 
(景気見通し)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に向けたリスクは、この1年でより良いバランスに移行していると判断している(前回の「良いバランスに移行しつつある」”are moving into better balance”から「この1年でより良いバランスに移行している」”have moved toward better balance over the past year”に小幅な表現変更)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はインフレリスクに引き続き高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 本日FOMCは、政策金利の据え置きとペースは緩やかながら保有証券の削減を継続することを決定した。金融政策の制限的なスタンスは、経済活動とインフレに下方圧力をかけており、雇用とインフレの目標達成に向けたリスクは、この1年でより良いバランスへと向かっている。
    • ここ数ヵ月のインフレ率は、目標である2%へのさらなる進展がみられないことから、インフレリスクには引き続き細心の注意を払っている。
    • 過去1年間の力強い雇用創出は、25歳から54歳までの労働参加率の上昇と、引き続き堅調な移民のペースを反映して、労働供給の増加を伴ってきた。
    • 今年に入って発表されたインフレデータは予想を上回っている。短期的なインフレ期待を示すいくつかの指標はここ数ヵ月で上昇したが、長期的なインフレ期待は、依然として十分に固定されているようにみえる。
    • インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が深まるまでは、フェデラルファンド金利の目標レンジを引下げることは適切でないと考えている。このような確信を得るには、以前の予想よりも時間がかかりそうだ。また、労働市場の予想外の弱含みに対応する用意がある。
    • バランスシートについて、委員会は本日の会合で保有有価証券の減少ペースを緩めることを決定した。具体的には6月1日以降、財務省証券の償還上限を現在の月間600億ドルから月間250億ドルに引下げる。エージェンシー証券の上限を据え置く。この上限を超える資金を財務省証券に再投資する。資金流出のペースを緩めることは、円滑な移行を確実にし、金融市場がストレスに見舞われる可能性を低下させる。
 
  • 主な質疑応答
    • (現在の政策金利水準はインフレ率を2%に戻すのに十分制限的だと考えているか)政策金利は制限的で需要を圧迫していると思う。実際に労働市場の需要サイドは依然として強いものの、求人数はIndeedでもJOLTでも減少している。労働者や企業に対する調査でも雇用が潤沢か、労働者は豊富か、などの回答割合はパンデミック前の水準に低下した。また、金利上昇が住宅や投資分野の重石になっている。
    • (ボウマン理事が利上げの可能性に言及したが、利上げのリスクに対する考えは? 利上げを検討するのはどのような状況の変化がある時か)政策金利を引上げる可能性は低いと思う。我々の焦点はいつまで制限的な政策を続けるかということだ。利上げをするには現在の政策スタンスがインフレ率を継続的に2%まで低下させるのに十分でないという説得力のある証拠が必要だ。
    • (今回は前会合で言及した「金利がこのサイクルのピークに達している」や、「今年後半に利下げを行うのが適切かも知れない」に触れられていないが、FRBは緩和バイアスを下げたのか)我々が利下げを決めるかどうかは、入ってくるデータ、見通しがどのように進展するか、リスクのバランスなどに左右される。我々はデータを総合的に判断する。利下げを検討するのはインフレ率が2%へと持続的に低下しているという確信が深まることか、労働市場が予想外に弱くなることだ。いずれにせよデータ次第だ。
    • (インフレ率が持続的に2%台まで下がっているという確信を得るには時間が必要だと言ったが、今年中に3回利下げできるのか)我々はそのようには考えていない。我々が言ったのは、我々はより確信をもつ必要があるということだ。第1四半期には進展がみられなかったため、確信を持つにはより時間がかかるだろうということだ。それが何時になるかは分からない。
    • (第1四半期のインフレデータで一時的なもの、一時的でなかったものは何か。今後数ヵ月、数四半期の見通しはどうか)12月以降に何が起こったかと言うと、財と非住宅サービスのインフレも予想より高かったことだ。我々は今年中にインフレが再び低下するだろうと予想している。しかし、今までのデータをみる限り、その自信は以前より薄れている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年05月02日「経済・金融フラッシュ」)

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