2024年04月08日

米雇用統計(24年3月)-雇用者数は前月を上回ったほか、市場予想を大幅に上回り、堅調な労働市場を確認

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回った一方、失業率は市場予想に一致

4月5日、米国労働統計局(BLS)は3月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+30.3万人の増加1(前月改定値:+27.0万人)と+27.5万人から小幅下方修正された前月を上回ったほか、低下を見込んだ市場予想の+21.4万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.8%(前月:3.9%、市場予想:3.8%)と前月から▲0.1%ポイント低下、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.7%(前月:62.5%、市場予想:62.6%)と前月から+0.2%ポイント上昇したほか、市場予想も上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数、失業率、労働参加率が揃って改善

非農業部門雇用者数は3月が前月を上回ったほか、後述するように過去2ヵ月分が+2.2万人上方修正された。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+27.6万人と23年10-12月期の同+21.2万人を大幅に上回ったほか、23年通期の同+25.1万人も上回っており、足元で雇用増加ペースが加速している状況を示した。

また、家計調査でも労働参加率が4ヵ月ぶりに上昇に転じる中で失業率が低下しており、労働需給が引続き逼迫していることが示された。もっとも、労働参加率の改善にみられるように労働供給が回復していることは賃金上昇圧力を抑制することが期待される。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月改定値:+0.2%、市場予想:+0.3%)と+0.1%から小幅上方修正された前月を上回った一方、市場予想に一致した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+4.1%(前月:+4.3%、市場予想:+4.1%)とこちらは前月から低下、市場予想に一致した(図表1)。これで前年同月比は24年1月の+4.4%から2ヵ月連続の低下となった。

このようにみると、3月の雇用統計は非農業部門雇用者数の増加ペースが足元で加速する一方、労働参加率の上昇にみられるように労働供給の改善を伴いつつ失業率が低下するなど、労働市場が堅調を維持していることを確認する結果となった。また、FRBによる金融政策をみる上で注目される時間当たり賃金については前年同月比で低下基調が持続しているものの、労働需給の逼迫が続いていることを背景に物価目標の2%と整合的な3%台半ばの水準を上回る状況が続いている。

3.事業所調査の詳細:建設、娯楽・宿泊、政府部門などで雇用の伸びが加速

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+19.0万人(前月:+19.0万人)と前月並みの伸びとなった(図表2)。

民間サービス部門の中では、小売業が前月比+1.8万人(前月:+2.3万人)、運輸・倉庫が+0.1万人(前月:+2.3万人)、専門・ビジネスサービスが+0.7万人(前月:+1.7万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、医療・社会扶助サービスが+8.1万人(前月:+8.5万人)と前月並みの伸びを維持したほか、娯楽・宿泊が+4.9万人(前月:+4.3万人)と前月から伸びが加速した。さらに、卸売業が+0.9万人(前月:▲0.3万人)と前月からプラスに転じるなどマチマチの結果となった。

財生産部門は前月比+4.2万人(前月:+1.7万人)とこちらは前月から伸びが加速した。製造業が横這い(前月:▲1.0万人)と前月のマイナスから横這いに転じたほか、建設業が+3.9万人(前月:+2.6万人)と前月から伸びが加速した。

政府部門は前月比+7.1万人(前月:+6.3万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.9万人(前月:+1.0万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した一方、州・地方政府が+6.2万人(前月:+5.3万人)と前月から伸びが加速して政府部門全体を押し上げた。
前月(2月)と前々月(1月)の雇用増加数(改定値)は前月が+27.0万人(改定前:+27.5万人)と▲0.5万人下方修正された一方、前々月が+25.6万人(改定前:+22.9万人)と+2.7万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+2.2万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って4月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+18.4万人(前月改定値:+15.5万人、市場予想:+15.0万人)と+14.0万人から小幅上方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが加速した雇用統計と整合的な動きとなった。
 
3月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.69ドル(前月:34.57ドル)となり、前月から+12セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.3時間)とこちらは前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,193.34ドル(前月:1,185.75ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は4ヵ月ぶりに上昇

家計調査のうち、3月の労働力人口は前月対比で+46.9万人(前月:+15.0万人)と前月から大幅に伸びが加速した。内訳を見ると、失業者数が▲2.9万人(前月:+33.4万人)と前月から僅かながらマイナスに転じた一方、就業者数が+49.8万人(前月:▲18.4万人)と前月から大幅なプラスに転じて全体を押し上げた。非労働力人口は▲29.6万人(前月:+2.0万人)と前月から大幅なマイナスに転じた。これらの結果、労働参加率は62.7%と前月から+0.2%ポイントの上昇となり、4ヵ月ぶりに上昇に転じた(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は3月が83.4%(前月:83.5%)と前月から▲0.1%ポイント低下した。男女の内訳は、男性が89.2%(前月:89.3%)と前月から▲0.1%ポイント低下した一方、女性が77.7%(前月:77.7%)と前月から横這いとなった。

失業率は3月が3.8%と前月から▲0.1%ポイント低下したが、23年8月から3.7%~3.9%の狭いレンジでの推移が続いている(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
3月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は124.6万人(前月:120.3万人)と前月から+4.3万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.5%(前月:18.7%)と前月から+0.8%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は21.6週(前月:20.9週)と前月から+0.7週長期化した。

最後に、周辺労働力人口(159.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(430.8万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、3月が7.3%(前月:7.3%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.5%ポイント(前月:+3.4%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年04月08日「経済・金融フラッシュ」)

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