2024年02月19日

アメリカの商業用不動産向け融資~延滞率上昇は懸念材料、しかしより重要なのは個別行の状況~

金融研究部 客員研究員 小林 正宏

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■要旨
 
  1. アメリカの商業用不動産(Commercial Real Estate、以下「CRE」と略)市場の苦境は続いており、特にリモートワークの影響等でオフィス市場は低迷している。米CRE向け融資の延滞率は上昇しており、FRB(連邦準備制度理事会)が2022年3月から急激な利上げを行った影響もあり、コロナ禍の2020年の水準を超えている。
     
  2. アメリカでは住宅ローンは30年固定が一般的で、利上げ前の低金利のうちに金利をロックした多くの債務者が利上げの影響を受けないことがしばしば指摘される。一方、CREは融資期間が短く、満期に借り換えでロールオーバーするケースが多く、リファイナンスの可否が重要になる。そこに、審査基準の厳格化と、借換時の金利の上昇がダブルでヒットしたことが、住宅市場とは異なる。
     
  3. CREへの与信は大手銀行よりも中小銀行の方が集中度が高い。2023年第3四半期時点でCRE向け融資の総資産に占める比率は総資産2,500憶ドルを超える大銀行14行では6%だが、その次の区分である100憶~2,500憶ドルの規模の銀行142行では18.8%と3倍に跳ね上がる。昨今話題になっているNew York Community Bancorp, Inc.(NYCB)で多くを占めているのは集合住宅向け融資(Multi-family)であり、テレワークで苦境が報じられているオフィス向けではない。その意味でも、マクロ的な動向よりも地域別、更には個別行の状況がより重要になる。とはいえ、どこにどう波及するかを予見することは困難であり、全体の動向を注視し続ける必要は残るだろう。
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金融研究部   客員研究員

小林 正宏 (こばやし まさひろ)

研究・専門分野
国内外の住宅・住宅金融市場

経歴
  • 【職歴】
     1988年 住宅金融公庫入社
     1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
     1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
     2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
     2022年 住宅金融支援機構 審議役
     2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
          7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)

    【加入団体等】
    ・日本不動産学会 正会員
    ・資産評価政策学会 正会員
    ・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師

    【著書等】
    ・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
    ・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
    ・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
    ・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など

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