- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- 米国商業用不動産は調整も二極化。今後はリファイナンスに注視
2024年01月09日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
米国の商業用不動産市場はコロナ禍前から長引く低金利環境のなか加熱感が強まっていたが、いよいよピークアウトした。2022年以降の米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な利上げを受け、商業用不動産価格は下落に転じ、2022年7月のピークから2023年10月まで▲10%下落した1。依然としてリーマンショック前の水準を大きく上回っているが、今後どこまで調整が深まるかが焦点となっている。
商業用不動産は市場全体として調整しているが、セクター間の二極化が顕著である。2023年第3四半期のセクター別のトータルリターンは前年比で、ホテル+12.0%、商業施設▲1.4%、物流施設▲5.3%、賃貸住宅▲7.6%、オフィス▲17.1%と、ホテルはコロナ禍からの回復に伴い堅調に推移する一方、オフィスは大幅なマイナスを記録している(図表1)。ただし、米国では不動産市場の多様化が進んでおり、オフィスセクターが実物不動産に占める割合は23%、REITに占める割合は5.5%にとどまる2。そのため、オフィス市場が低迷しても、商業用不動産が全体として危機的な状況に陥ることはないとの楽観論もある。
商業用不動産は市場全体として調整しているが、セクター間の二極化が顕著である。2023年第3四半期のセクター別のトータルリターンは前年比で、ホテル+12.0%、商業施設▲1.4%、物流施設▲5.3%、賃貸住宅▲7.6%、オフィス▲17.1%と、ホテルはコロナ禍からの回復に伴い堅調に推移する一方、オフィスは大幅なマイナスを記録している(図表1)。ただし、米国では不動産市場の多様化が進んでおり、オフィスセクターが実物不動産に占める割合は23%、REITに占める割合は5.5%にとどまる2。そのため、オフィス市場が低迷しても、商業用不動産が全体として危機的な状況に陥ることはないとの楽観論もある。
しかし、金利上昇と在宅勤務普及の二重苦に直面し、オフィス市場は深刻な状況に陥っている。テレワークに適したIT企業が集積するサンフランシスコでは、オフィス空室率が2019年第4四半期の3.7%から2023年第3四半期の34.0%に急上昇した3。
米国では在宅勤務が浸透し、ハイブリッドな働き方が主流になっている。マンハッタンでは、一部でオフィス回帰が進み、フルリモートで働く人の割合は2022年4月の28%から2023年9月の6%まで減少した(図表2)。しかし、フル出社した人は8%から12%に増加したに過ぎず、コロナ禍前の働き方に戻っているわけではない。週3日出社した人が17%から44%に増加したように、ハイブリッドな働き方が定着しつつある。今後もコロナ禍前の働き方に戻る可能性は低く、新たな成長ドライバーが現れない限り、オフィス需要の早期回復は難しいだろう。
米国では在宅勤務が浸透し、ハイブリッドな働き方が主流になっている。マンハッタンでは、一部でオフィス回帰が進み、フルリモートで働く人の割合は2022年4月の28%から2023年9月の6%まで減少した(図表2)。しかし、フル出社した人は8%から12%に増加したに過ぎず、コロナ禍前の働き方に戻っているわけではない。週3日出社した人が17%から44%に増加したように、ハイブリッドな働き方が定着しつつある。今後もコロナ禍前の働き方に戻る可能性は低く、新たな成長ドライバーが現れない限り、オフィス需要の早期回復は難しいだろう。
現在のオフィス市場の苦境は、コロナ禍前に見られた「Amazon Effect」と類似した構図である。Amazon Effectは、eコマースの台頭により米国などで小売業の廃業や商業施設の閉鎖が進んだ現象で、2010年代前半から徐々に顕在化した。現在の「Zoom Effect」も、デジタル化の長期的なトレンドによる商業用不動産の需要縮小という点で共通している。また、デジタル化の影響が明確になる前から、新規供給の過剰が課題視されていたことも両者に共通している。商業施設市場がAmazon Effectから回復するのに10年程度を要したことを踏まえると、オフィス市場の低迷も長期化する可能性がある。
尚、オフィス市場のなかでも二極化が進んでいる。「Flight to Quality(質への逃避)」の動きにより、築年が浅く、グレードの高いビルのオフィス需要が高まる一方で、老朽化・陳腐化したオフィスは苦戦している。マンハッタンの市況全体は低迷しているが、トロフィーオフィスと呼ばれる最上位のビルは高稼働を維持し、賃料も安定している。しかし、築50年以上のビルがオフィスストックの60%以上を占め、これらのオフィス需要回復は未だ不透明である4。
今後の焦点は商業用不動産のリファイナンスが滞りなく行われるかになる。現在はドライパウダー(投資待機資金)が高水準にあり、リーマンショック時の教訓から貸し手が「Pretend and Extend(目をつぶって返済期限を延長)」しているため、資金繰りに窮して不動産の投げ売りを強いられる例はまだ多くない。しかし、米FRBによる大幅な利上げにより、借入金利は急上昇し、米シリコンバレーバンクの破綻で顕在化した中小銀行の経営問題も依然として残っている。そのため、苦境が続くオフィス市場を中心に、商業用不動産は金融危機の潜在的な火種になりうるリスクとして、今後も注視が必要であろう。
1 MSCI Real Capital Analytics
2 実物不動産はNCREIF Property Indexのオフィス割合、REITはMSCI US REIT Indexのオフィス割合
3 CBRE,“San Francisco Office Figures Q3 2023, 9 October 2023.
4 Colliers,“The Future of Office - 2023”, 27 January 2023.
尚、オフィス市場のなかでも二極化が進んでいる。「Flight to Quality(質への逃避)」の動きにより、築年が浅く、グレードの高いビルのオフィス需要が高まる一方で、老朽化・陳腐化したオフィスは苦戦している。マンハッタンの市況全体は低迷しているが、トロフィーオフィスと呼ばれる最上位のビルは高稼働を維持し、賃料も安定している。しかし、築50年以上のビルがオフィスストックの60%以上を占め、これらのオフィス需要回復は未だ不透明である4。
今後の焦点は商業用不動産のリファイナンスが滞りなく行われるかになる。現在はドライパウダー(投資待機資金)が高水準にあり、リーマンショック時の教訓から貸し手が「Pretend and Extend(目をつぶって返済期限を延長)」しているため、資金繰りに窮して不動産の投げ売りを強いられる例はまだ多くない。しかし、米FRBによる大幅な利上げにより、借入金利は急上昇し、米シリコンバレーバンクの破綻で顕在化した中小銀行の経営問題も依然として残っている。そのため、苦境が続くオフィス市場を中心に、商業用不動産は金融危機の潜在的な火種になりうるリスクとして、今後も注視が必要であろう。
1 MSCI Real Capital Analytics
2 実物不動産はNCREIF Property Indexのオフィス割合、REITはMSCI US REIT Indexのオフィス割合
3 CBRE,“San Francisco Office Figures Q3 2023, 9 October 2023.
4 Colliers,“The Future of Office - 2023”, 27 January 2023.
(2024年01月09日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1778
経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
佐久間 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/07 | ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期 | 佐久間 誠 | 基礎研マンスリー |
2025/02/26 | 成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年下期)-「オフィス拡張移転DI」の動向 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/02/14 | Japan Real Estate Market Quarterly Review-Fourth Quarter 2024 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/02/12 | ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
新着記事
-
2025年03月21日
東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに -
2025年03月21日
勤務間インターバル制度は日本に定着するのか?~労働時間の適正化と「働きたい人が働ける環境」のバランスを考える~ -
2025年03月21日
医療DXの現状 -
2025年03月21日
英国雇用関連統計(25年2月)-給与(中央値)伸び率は5.0%まで低下 -
2025年03月21日
宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【米国商業用不動産は調整も二極化。今後はリファイナンスに注視】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
米国商業用不動産は調整も二極化。今後はリファイナンスに注視のレポート Topへ