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- コロナ禍を経たインバウンドの変化-携帯位置情報データによるJR山手線30駅の分析
コラム
2023年12月19日
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2022年10月の政府による観光目的の個人旅行の入国再開から1年が経過し、インバウンド観光客の回復が順調に進展している。2023年10月の訪日外客数は251万6,500人に達し、2019年同月の数字を0.8%上回る結果となった。
ただし、訪日客の国別割合は大きく変化している。中国からの訪日客が2019年同月比▲64.9%と低迷しているため、コロナ禍前には訪日外客数の30%を占めたが、現在は10%に低下した。一方で、韓国・台湾・シンガポールなどのアジア諸国や米国・ドイツなどの欧米諸国からの訪日客数が過去最高を記録したことで、全体に占める割合が増加している。
また、東京での行き先にも変化が見られる。従来はインバウンド観光客の足取りを辿るのは困難だったが、最近は携帯位置情報データなどのオルタナティブデータの活用により分析が可能になっている。そこで、東京におけるインバウンド観光客の動向を把握するため、KDDIの「KDDI Location Analyzer(以下KLA)」を活用して、分析を行った。具体的には、JR山手線30駅について、各駅を中心に半径500mの範囲内の1日あたりのインバウンド来訪者数を集計した1,2。
2023年11月のJR山手線30駅のインバウンド来訪者数について駅別に見ると、最も多かったのは、新宿(100千人)で、次いで東京(60千人)、渋谷(54千人)、秋葉原(52千人)、上野(42千人)となった(図1)。2019年11月のデータを確認すると、新宿(98千人)の訪問者は変わらずトップだったが、その他の駅の順位は変動しており、2位以降は、上野(47千人)、御徒町(43千人)、秋葉原(41千人)、東京(40千人)だった。
ただし、訪日客の国別割合は大きく変化している。中国からの訪日客が2019年同月比▲64.9%と低迷しているため、コロナ禍前には訪日外客数の30%を占めたが、現在は10%に低下した。一方で、韓国・台湾・シンガポールなどのアジア諸国や米国・ドイツなどの欧米諸国からの訪日客数が過去最高を記録したことで、全体に占める割合が増加している。
また、東京での行き先にも変化が見られる。従来はインバウンド観光客の足取りを辿るのは困難だったが、最近は携帯位置情報データなどのオルタナティブデータの活用により分析が可能になっている。そこで、東京におけるインバウンド観光客の動向を把握するため、KDDIの「KDDI Location Analyzer(以下KLA)」を活用して、分析を行った。具体的には、JR山手線30駅について、各駅を中心に半径500mの範囲内の1日あたりのインバウンド来訪者数を集計した1,2。
2023年11月のJR山手線30駅のインバウンド来訪者数について駅別に見ると、最も多かったのは、新宿(100千人)で、次いで東京(60千人)、渋谷(54千人)、秋葉原(52千人)、上野(42千人)となった(図1)。2019年11月のデータを確認すると、新宿(98千人)の訪問者は変わらずトップだったが、その他の駅の順位は変動しており、2位以降は、上野(47千人)、御徒町(43千人)、秋葉原(41千人)、東京(40千人)だった。
このようにインバウンド観光客は再び勢いを取り戻しつつあるものの、その行き先には変化が見られる。新宿は依然として高い人気を保っており、東京や渋谷、秋葉原などのエリアが以前よりも注目を集めているようだ。対照的に、上野や原宿などの一部エリアでは人気に陰りが見られる。
今回の分析は限られた地域での分析ではあるが、インバウンド観光客は、観光産業やホテル市場などにとって重要なチャンスであり成長ドライバーでもある一方、人気を失うなどのリスクも大きいことが、認識できるのではないだろうか。また、旅行業に限らず、こうした変動性の大きいセクターを分析する上で、携帯位置情報データなどのオルタナティブデータは極めて有用である。携帯位置情報データの高度な活用により、日次や週次など高頻度の分析、日中や夜間などの時間帯別の分析、さらには国籍別の分析など、多角的なアプローチで分析することも可能である3。これらの新たなデータ源の活用は、コロナ禍がもたらした市場の変化を把握するためにも、市場分析や戦略策定において重要な役割を果たすと期待される。
1 KLA は、株式会社ナビタイムジャパンが提供する訪日外国人向け経路検索・多言語観光案内アプリ「Japan Travel by NAVITIME」から利用者の同意を得て取得したインバウンド GPS データと属性アンケートのデータを活用している。20の国と地域からの訪日外国人について、2019年4~12月、2022年11月以降の人流データを取得することができる。
2 2023年11月のJR山手線30駅のインバウンド来訪者数の合計は572千人と、2019年同月比+9.5%となった。
3 これらの分析は次稿以降で取り上げる予定である。
今回の分析は限られた地域での分析ではあるが、インバウンド観光客は、観光産業やホテル市場などにとって重要なチャンスであり成長ドライバーでもある一方、人気を失うなどのリスクも大きいことが、認識できるのではないだろうか。また、旅行業に限らず、こうした変動性の大きいセクターを分析する上で、携帯位置情報データなどのオルタナティブデータは極めて有用である。携帯位置情報データの高度な活用により、日次や週次など高頻度の分析、日中や夜間などの時間帯別の分析、さらには国籍別の分析など、多角的なアプローチで分析することも可能である3。これらの新たなデータ源の活用は、コロナ禍がもたらした市場の変化を把握するためにも、市場分析や戦略策定において重要な役割を果たすと期待される。
1 KLA は、株式会社ナビタイムジャパンが提供する訪日外国人向け経路検索・多言語観光案内アプリ「Japan Travel by NAVITIME」から利用者の同意を得て取得したインバウンド GPS データと属性アンケートのデータを活用している。20の国と地域からの訪日外国人について、2019年4~12月、2022年11月以降の人流データを取得することができる。
2 2023年11月のJR山手線30駅のインバウンド来訪者数の合計は572千人と、2019年同月比+9.5%となった。
3 これらの分析は次稿以降で取り上げる予定である。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年12月19日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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