2025年03月07日

ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.336]

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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2024年10-12月期の実質GDPは前期比+0.7%(前期比年率+2.8%)と、3四半期連続のプラス成長となった。住宅市場では、価格上昇が継続するなか、販売状況は停滞傾向にある。東京のオフィス市場は回復基調が強まっている。東京23区のマンション賃料は全ての住居タイプで前年比5%を超える上昇となった。ホテル市場では、延べ宿泊者数がコロナ禍前の水準を上回った。物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の影響を受け、空室率が高止まりしている。第4四半期の東証REIT指数は▲4.2%下落した。

1―経済動向と住宅市場

2024年10-12月期の実質GDPは前期比0.7%(前期比年率2.8%)と、3四半期連続のプラス成長になった。民間消費は物価高と減税効果の一巡により横ばいにとどまったが外需と設備投資がプラスに寄与し成長率を押し上げた。

10-12月期の鉱工業生産指数は前期比+1.3%と2四半期ぶりの増産となった。業種別では、工場の稼働停止の影響で落ち込んでいた自動車や半導体製造装置などの大幅増産から生産用機械が増産となった。

住宅市場では、住宅価格の上昇が続くなか、販売状況などは停滞傾向にある。2024年10-12月の首都圏のマンション新規発売戸数は9,883戸(前年同期比▲3.0%)と減少した。2024年の販売戸数は23,003戸(前年比▲14.4%)と、調査開始の1973年以降で最少となった。一方で、高額物件の供給により、平均価格は東京23区で1億1,181万円(同2.6%)と2年連続で1億円超となった。

2024年10-12月の首都圏の中古マンション成約件数は9,457件(前年同期比+3.6%)となり2四半期ぶりに増加した。2024年11月の首都圏中古マンション住宅価格は前年比+7.5%と、価格上昇が再び加速傾向にある[図表1]。
[図表1]不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇を維持している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2024年第3四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「80」となり、3四半期連続で全ての地区が上昇となった。同レポートでは、「商業地では、再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加もあり、店舗・ホテル需要が堅調であったこと。また、オフィス需要も底堅く推移したことなどから、上昇傾向が継続した」としている。

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2024年第4四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は28,489円(前期比+6.3%)、空室率は5.7%(前期比▲0.7%)となった[図表2]。三幸エステートは、「高価格帯の新築・築浅ビルで成約が進んでいることに加え、引き続き館内増床の事例も多く、足元のオフィス需要は力強さを見せている」としている。
[図表2]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、2024年第3四半期はシングルタイプが前年同期比+5.4%、コンパクトタイプが+5.1%、ファミリータイプが+5.9%と、全ての住居タイプで前年比5%を超える上昇となった[図表3]。
[図表3]東京23区のマンション賃料
2024年の東京23区の転入超過数は+58,804人(前年同期比+9.1%)となった[図表4]。都市部への人口流入が賃料上昇の追い風となっている。
[図表4]東京23区の転入超過数
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費が堅調を維持し、施設売上が増加している。商業動態統計などによると、2024年10-12月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+1.9%、スーパーが+2.2%、コンビニエンスストアが+0.7%となった。

ホテル市場は、インバウンド需要の拡大を背景に一段と明るさを増している。2024年10-12月累計の延べ宿泊者数は2019年同期比で+16.7%増加し、このうち日本人が+6.0%、外国人が+61.0%となった[図表5]。
[図表5]延べ宿泊者数の推移
また、2024年の訪日外客数は、約3,687万人と、過去最高であった2019年を約500万人上回った。

物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の影響を受け、空室率が高止まりしている。首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2024年12月末)は9.8%(前期比▲0.3%)と、2022年第2四半期以来約2年ぶりに低下した[図表6]。今期の新規供給は小幅にとどまったが、来期は再び増加する見込みであり、今後のリーシング動向を注視したい。また、近畿圏の空室率は3.7%( 前期比▲0.3%)に低下した。2025年の新規供給は41万坪と、過去最大だった2017年を4割強上回る見通しだが、足元の内定率は70%に達しており、空室率が大きく上昇することはないとのことである。
[図表6]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2024年第4四半期の東証REIT指数(配当除き)は9月末比▲4.2%下落した。業種別指数では、オフィスが▲3.5%、住宅が▲8.1%、商業・物流等が▲3.8%の下落となった[図表7]。
[図表7]東証REIT指数の推移
J-REITによる第4四半期の物件取得額(引渡しベース)は2,313億円(前年同期比+16%)、2024年累計では1兆3,446億円 (前年比+22%)となり2年連続で1兆円を上回った。アセットタイプ別の取得割合は、ホテル(26%)・住宅(24%)・オフィス(21%)・物流施設(18%)・商業施設(7%)・底地ほか(3%)となり、インバウンド需要拡大への期待からホテルの比率(19%→26%)が高まる一方で、前年トップであったオフィスの比率(33%→21%)が低下した。

2024年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲8.5%となり3年連続で下落した[図表8]。日銀の金融政策正常化に伴う市場金利の上昇や、J-REIT特化型投信からの資金流出を受けて年間を通じて弱含みで推移した。市場規模については、3年連続で新規上場がなく、1件の合併によって上場銘柄数は57社に、市場時価総額は14.3兆円(前年比▲7%)に減少した。一方、運用資産額(取得額ベース)はホテルや住宅の取得が伸びて23.6兆円(前年比+3%)に増加した。業績面では、不動産賃貸収益の回復や不動産売却益の計上が寄与し、市場全体の1口当たり予想分配金は前年比+8%増加し、1口当たりNAVも保有不動産の価格上昇を反映して+2%増加した。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月07日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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