2024年02月16日

2023~2025年度経済見通し(24年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2.実質成長率は2023年度1.2%、2024年度1.0%、2025年度1.1%を予想

(2024年1-3月期はほぼゼロ成長に)
2023年10-12月期は国内需要の落ち込みを主因として2四半期連続のマイナス成長となった。特に、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い社会経済活動の正常化が進んでいるにもかかわらず、国内需要の柱である民間消費、設備投資が2023年4-6月期から3四半期連続で減少していることは深刻である。

景気循環との連動性が高い鉱工業生産は2023年10-12月期に前期比1.3%と2四半期ぶりの増産となったが、2024年1月は一部自動車メーカーの不正問題発覚に伴う生産停止の影響などから、減産が不可避となっている。企業の生産計画を表す製造工業生産予測指数は1月が前月比▲6.2%、2月が同2.2%だが、自動車の生産停止が長期化し、さらに下振れる可能性もある。2024年1-3月期の鉱工業生産は自動車の大幅減産を主因として前期比でマイナスに転じることが予想される。
自動車生産・販売の推移 すでに公表されている2024年1月の自動車販売台数は前月比▲11.3%(当研究所による季節調整値)と大きく落ち込み、すでに生産停止の影響が販売にも表れている。物価高による下押し圧力が続く中、新たな供給制約の影響もあり、消費は当面弱い動きとなることが見込まれる。2024年1-3月期は、2023年10-12月期に高い伸びとなったサービス輸出の反動減などから、財貨・サービスの輸出が低迷すること、民間消費、設備投資などの国内民間需要も低い伸びにとどまることから、前期比年率0.1%とほぼゼロ成長となることが予想される。
実質家計消費と実質可処分所得の推移 (可処分所得に左右される個人消費)
家計貯蓄率がほぼゼロ%まで低下し、過剰貯蓄による押し上げが期待できない中、今後の消費を左右するのは実質可処分所得の動向である。足もとの実質可処分所得はコロナ禍前の水準を下回っている。先行きについては、物価高が引き続き実質所得を抑制するが、賃上げの進展に加え、所得・住民税減税が押し上げ要因となることが見込まれる。減税の効果は一時的だが、2024年度後半以降は、物価上昇率の鈍化に伴う実質雇用者報酬の増加を主因として実質可処分所得は底堅く推移するだろう。

なお、減税のうち消費に回る割合は2~3割程度と想定しているため、家計貯蓄率は一時的に大きく上昇するが、減税効果が剥落した後はほぼゼロ%まで低下することが予想される。

民間消費は2023年度が前年比▲0.4%、2024年度が同1.0%、2025年度が同0.8%と予想する。2023年度は物価高による実質所得の低下が続く中、過剰貯蓄による押し上げ効果が剥落したことから、民間消費は3年ぶりに減少するが、2024年度は実質雇用者報酬の増加や所得・住民税減税の効果で増加に転じるだろう。2025年度は実質雇用者報酬の伸びが高まる一方で、減税の効果剥落によって可処分所得の伸びが鈍化することが消費の伸びを抑制するだろう。
(資材価格の高騰が実質設備投資の伸びを抑制)
GDP統計の設備投資は2023年4-6月期が前期比▲1.4%、7-9月期が同▲0.6%、10-12月期が同▲0.1%と低迷が続いている。

日銀短観2023年12月調査では、2023年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア・研究開発投資額、除く土地投資額)が9月調査(前年度比13.3%)から▲0.6%下方修正されたが、前年度比12.6%の高い伸びとなった。
設備投資の推移(名目と実質) 設備投資計画の強さに対し、GDP統計の設備投資が弱く見える理由のひとつは、設備投資計画は名目(金額)で、GDP統計の設備投資は設備投資デフレーターで割り引いた実質でみることが多いことである。名目設備投資は2020年4-6月期の84.8兆円(季節調整済・年率換算値)を底に着実に増加し、2023年10-12月期には99.5兆円と100兆円に迫っている。一方、資材価格の高騰などから設備投資デフレーターが前期比年率3%程度の高い伸びが続いているため、実質設備投資の回復ペースは緩やかなものにとどまり、その水準は依然としてコロナ禍前を下回っている。
日銀短観の設備投資計画とGDP統計の設備投資 建設費用の高騰、人手不足の深刻化などを背景に、投資計画を先送りする動きが続いていることも、足もとの設備投資が低調に推移する一因になっている。日銀短観の設備投資実績は12月調査時点の計画から下方修正される傾向があるが、2022年度実績は2022年12月調査時点の前年比14.3%から同7.4%へ大幅な下方修正となり、GDP統計の2022年度の名目設備投資の伸び(前年比7.8%)にほぼ一致した。日銀短観2023年12月調査では、2023年度の設備投資計画が前年比12.6%の高い伸びとなっているが、2023年4-12月期のGDP統計の名目設備投資は前年比3.0%にとどまっている。日銀短観の設備投資計画は2023年度末にかけて大幅に下方修正される公算が大きい。

設備投資は伸び悩んでいるが、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、デジタル化に向けたソフトウェア投資を中心に基調としては持ち直しの動きが続いていると判断される。設備投資は2023年度には前年比▲0.5%と3年ぶりに減少するが、2024年度は同2.6%、2025年度は同2.9%と増加が続くことが予想される。
(2024年前半は内外需ともに下振れリスクが高い)
実質GDPは2024年1-3月期に前期比年率0.1%とほぼゼロ成長となった後、4-6月期は同1.6%と伸びを高めるだろう。ただし、家計の実質可処分所得が明確に増加するのは、2024年春闘の結果が反映され、所得・住民減税が実施される2024年夏頃となるため、それまでは消費の本格回復は見込めない。また、インバウンド需要を中心にサービス輸出は増加するが、海外経済の減速を背景に財輸出が低迷するため、輸出が景気の牽引役となることは当面期待できない。2024年前半は内外需ともに下振れリスクの高い状態が続くだろう。

経済対策に盛り込まれた減税は2024年6月に実施されることが予定されており、7-9月期の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率2.8%の高成長となるが、減税の効果は一時的なものにとどまり、10-12月期以降は年率1%前後の成長が続くだろう。

実質GDP成長率は、2023年度が1.2%、2024年度が1.0%、2025年度が1.1%と予想する。

2023年度は、輸出の伸びは鈍化するが、国内需要の弱さを背景に輸入が減少するため、外需が成長率の押し上げ要因となろう。国内需要は、物価上昇に伴う実質所得の低下を背景に民間消費が減少することなどから、3年ぶりに減少することが見込まれる。

2024年度は実質雇用者報酬の増加や減税等の効果から民間消費が回復すること、高水準の企業収益を背景に設備投資が堅調に推移することから、国内需要が増加に転じることが予想される。

2025年度は減税による押し上げの反動で民間消費の伸びは鈍化するが、設備投資が堅調を維持することから、潜在成長率を若干上回る1%程度の成長を確保するだろう。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(2023年度の名目GDP成長率は32年ぶりの高さへ)
名目GDPは実質GDPを大きく上回る伸びが続いている。GDPデフレーターは2022年10-12月期に前年比1.4%と上昇に転じた後、2023年7-9月期には同5.2%まで上昇ペースが急加速した。2023年10-12月期は同3.8%と伸びが鈍化したが、2023年度のGDPデフレーターは前年比3.9%となり、2022年度の同0.8%から大きく高まる可能性が高い。
名目・実質GDP成長率の推移 この結果、2023年度の名目GDP成長率は5.2%となり、1991年度4(5.3%)以来、32年ぶりの高い伸びとなることが予想される。その後は円高による輸入物価の低下が国内物価に波及することにより、GDPデフレーターの上昇率は鈍化するが、2024年度、2025年度ともに名目成長率が実質成長率を上回るだろう。
 
4 「2015年基準支出側GDP系列簡易遡及」による
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2023年1月に前年比4.2%と1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった後、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策の影響などから鈍化傾向が続き、2023年9月以降は2%台で推移している。
食料品の輸入物価、国内企業物価、消費者物価 今回の物価上昇は、当初はそのほとんどが原油高、円安に伴う輸入物価の急上昇を起点としたエネルギー、食料の大幅上昇によるものだった。しかし、エネルギー価格は2022年初め頃の前年比20%程度をピークに鈍化傾向が続き、2023年入り後は政府による激変緩和措置の影響もあり、前年比でマイナスとなっている。また、食料(生鮮食品を除く)は輸入物価高騰に伴う原材料費の上昇を価格転嫁する動きが広がり、2023年8月には前年比9.2%まで伸びが加速したが、川上段階(輸入物価、国内企業物価)の食料品価格の落ち着きを反映し、12月には同6.2%まで鈍化した。
2022年1月から実施されてきたガソリン、灯油等に対する燃料油価格激変緩和措置は2024年4月末まで継続、2023年2月から実施されている電気・都市ガス代の激変緩和措置は2024年4月使用分まで継続し、5月使用分では激変緩和の幅を縮小することとなっている。

足もとのガソリン店頭価格は、補助金がなければ1リットル当たり190円台となっており、円高、原油安が大きく進まない限り、2024年5月でも政府が目標としている175円を大きく上回る。ガソリン、灯油等に対する激変緩和措置は2024年5月以降も継続される公算が大きい。

今回の見通しでは、ガソリン補助金については、2024年度末まで現行どおり、2025年度は補助率を縮小した上で継続、電気・都市ガス代の激変緩和措置は、2024年度末まで補助額を縮小した上で継続、2025年度には終了することを前提とした。
激変緩和措置による消費者物価(除く生鮮)への影響 激変緩和措置による消費者物価上昇率への影響は、2023年10-12月期まではコアCPI上昇率の押し下げ要因となっていたが、2024年1-3月期以降は押し上げ要因となるだろう。激変緩和措置によるコアCPI上昇率への影響を年度ベースでみると、2022年度が▲0.7%程度、2023年度が▲0.3%程度、2024年度が0.4%程度、2025年度が0.4%程度となることが見込まれる。
財・サービス別の消費者物価(生鮮食品を除く) 物価高の主因となっていた輸入物価の上昇にはいったん歯止めがかっており、財価格の上昇率はすでにピークアウトしている。一方、人件費との連動性が高いサービス価格は2023年8月以降、前年比で2%台の伸びが続いており、12月には財(生鮮食品を除く)とサービスが同じ伸び率(前年比2.3%)となった。

サービス価格は2023年のベースアップを若干上回る2%台前半の伸びとなっているが、人件費の増加を価格転嫁する動きが続くことから、高止まりすることが予想される。

コアCPI上昇率は、政府による各種支援策に左右される展開が続いているが、基調としては上昇ペースの鈍化傾向が続いている。2024年1月は電気・都市ガス代の下落率拡大、全国旅行支援停止の影響縮小などから、2022年3月以来の2%割れとなることが見込まれる。ただし、2月には前年同月に開始された激変緩和措置による押し下げが一巡し、電気代、都市ガス代の下落率が大きく縮小することから、コアCPIは一気に2%台後半まで伸びを高める可能性が高い。

コアCPI上昇率が日銀の物価目標である2%を割り込むのは、円安による押し上げ効果が減衰し、食料品などの財価格の上昇率の鈍化が見込まれる2024年度後半となることが予想される。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、物価上昇の中心は財からサービスにシフトしつつある。2024年度以降は、消費者物価上昇率への寄与度はサービスが財を上回るだろう。

コアCPIは、2022年度の前年比3.0%の後、2023年度が同2.8%、2024年度が2.1%、2025年度が1.5%、コアコアCPIは2022年度の前年比2.2%の後、2023年度が同3.8%、2024年度が同1.9%、2025年度が1.5%と予想する。


 
日本経済の見通し(2023年10-12月期1次QE(2/15発表)反映後)
米国経済の見通し
欧州(ユーロ圏)経済の見通し
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2024年02月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

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