2024年02月05日

【地方創生・人口動態データ報】2023年 都道府県転入超過ランキング-勝敗を決めたのはエリアの「雇用力」-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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1――東京都への人口集中は6.8万人で対前年1.8倍増へ

1月30日に公表された総務省「住民基本台帳人口移動報告」2023年年報によって、2022年に再度転入超過数(転入数―転出数)1位に返り咲いた東京都が独走を継続し、集中規模も転入超過(社会増)6万8285人と、22年の3.8万人の1.8倍の規模に急増したことが明確となった。
図表1:2023年年間・都道府県転入超過数 社会増エリア ベストランキング(人)
2位の神奈川県(2021年1位)を4万人弱も引き離すという独走状態である。コロナ禍が深刻となった2020年に筆者は「一極集中の根本原因に地方がアプローチしない限り」一極集中は必ず元に戻ると指摘したが、その通りとなっている。
図表2:2023年年間・都道府県転入超過数 社会減エリア ワーストランキング(人)
2022年の転出超過エリアは11エリアであったが、宮城県、茨城県、山梨県、長野県が社会減エリアに転落した。この4エリアには明確な特徴があり、男性以上に女性を大きく減らす、もしくは男性だけを増やして女性は減らす、という「女性定着が極めて苦手なエリア」である点が共通している。地方創生を考える上で、この4エリアが早々に社会減エリアに戻ったという事実を軽視してはならない。

筆者はコロナ禍前の2018年から、東京一極集中は就職期に発生しており、しかも男性よりも女性の集中であると再三、レポートや講演会でデータを用いて訴えてきた。しかし統計データの正確な解釈に基づかない非科学的な政策を見直す社会減エリアがほとんどないことから、この結果は必然であると考える。

2022年に続き今回も社会増となった都道府県間の人口綱引きの勝者7エリアの内、4エリアが女性を多く増やし、2エリアは男女を均等に集め、福岡県のみが男性を多く集めた。この20年以上にわたり(2009年以降特に)、社会増エリアの特徴である「女性人口の定着に強い」という特性はいまだに不変である。福岡県はこれまで女性に強い県という一般的イメージが強かった県であるが、社会増の実態を見ると、より女性に人気のない山口県や九州の他の県から多くの女性を集める一方で、東京都に多くの地元女性を転出超過させ続けてきていた。2023年は社会増したといっても対前年▲482(うち女性▲1153)であり、男性をより多く集めることとなった結果から、雇用の現状を変えない限り、そう遠くない段階で、愛知県のように転出超過エリアに転じるリスクが高まっていることを指摘しておきたい。

今回も社会減となった40道府県のうち31道県が女性を多く減らしている。以前のレポートでも指摘したが、ワースト2位の愛知県は、転出超過に転じた2019年までの10年間、男性を女性の2倍増やすという社会増エリアでは少数派の「男性定着に強い県」であった。広島県も同様で、コロナ禍前の10年間で男性の1.6倍の女性を減らしていた。大都市を擁し、地方の中核エリアと思われている地域といえども、このような女性定着の弱さがみられる場合は、いずれ男女ともに大きな流出超過となるというコースに追い込まれていることを指摘しておきたい。

2――「住民基本台帳人口移動報告」転入超過数の意味

2――「住民基本台帳人口移動報告」転入超過数の意味

以上は、総務省「住民基本台帳」における「移動者」の転入超過数である。この「移動者」は日本に住民票をもつ人々(日本人、外国人)の住民票の移動を集計したものである。つまり、日本の住民票を持っている人々にとっての2023年のエリアの人気ランキングである。新規の海外からの人流のうち、短期滞在や、3か月以下の在留期間の方はカウントされていない。純粋な「日本の住民票を得てそのエリアでの一定期間の滞在経験がある」人々の国内移動でみた人気ランキングである。

新規に海外から転居してきた人流を加算して、市民や県民等に「転入超過」と伝えてきたエリアの地元民にとっては衝撃的かつ過酷なデータに映るかもしれない。

そもそも、そのエリアの社会増減を「エリアの評価(人気)ランキング」としてみるならば、完全なる新規でまだ定着もままならない人口の社会増減をカウントするのは全く適切ではない。都道府県は、居住経験と定着がある程度確かな人口の増減をもって、今後の自治の在り方を再考すべきであり、そのためにもこのデータは非常に有効である。

3――年齢ゾーンで見る勝ち組エリアの特徴は「雇用力」(女性>男性)

3――年齢ゾーンで見る勝ち組エリアの特徴は「雇用力」(女性>男性)

地方創生を考える場合、勝ち組エリアはなぜ勝ち組なのか、を考えねばならない。国内移動による人口綱引きの勝敗であるので、ミラーとして、負け要因への分析につながるからである。
図表3:2023年年間 転入超過7エリア合計 5歳階級年齢階層別割合(%)
転入超過となった7エリア合計の転入超過数・5歳階級別ランキングをみると、20歳代前半の就職移動とみられる集中が8万4812人と圧倒的(60%の寄与率)となっている。自らが若かりし頃のアンコンシャス・バイアスから、中高年世代は仕事といえば、男性の仕事であり、そのイメージで対策を練る自治体が後を絶たないが、この20歳代前半人口8万4812人の転入超過数の性別内訳をみると、男性3万7515人、女性4万7297人と女性が男性の1.3倍にも上っている。

いまだに地方では18歳の大学進学での若者の転出を若者の社会減の理由に真っ先に挙げる高齢者が散見されるが、大学卒業時の住民票移動である22歳の転出超過が突出して多く、8万4812人のうち3万5241人であった。「地元にいい学校を建てれば若者が出ていかない(=いい大学がないから出ていく)」というのは、大学進学率の低かった昭和世代特有の誤解であり、ただでさえ少子化で高等教育機関が有り余る中、いくら大学を建てようとも10歳代後半人口の奪い合いは既にレッドオーシャン状態であり、仮にうまく10歳代後半の若者を集められたとしても、最終的に就職段階で離れてしまうということは、人口動態の現状から容易に予想がつく。

20歳代前半で22歳人口の次に多いのが20歳と24歳人口で、専門学校卒就職による移動と、転職・院卒による就職移動とみられる。

国勢調査では20歳代前半は男女ともに9割以上が未婚人口である。ほぼ就職による移動で固められた20歳代前半人口(特に女性)の「雇用移動」で勝ち残れるエリアづくりこそが、地方創生政策さらには地域少子化対策の本丸であることを改めて申し上げておきたい。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2024年02月05日「基礎研レター」)

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