コラム
2023年01月31日

東京一極集中、女性主導で復活へ-2022年・東京都は男性の1.6倍の女性増、男女減少格差27倍のエリアも

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

【再び人口集中、首位の座へ】

総務省より2022年の住民基本台帳の年報が公開された。

今回は速報的なランキングレポートであるので、2019年以降の詳細は、昨年秋までの2022年の人口動態を分析した「東京一極集中、ほぼ完全復活へ」(1)ならびに(2)をあわせてご確認いただきたい。

【転出超過(社会減)36エリア、83%が女性減>男性減】

広島県の9207人の純減を筆頭に、36道府県が「転出数>転入数」となる社会減の状況となった。移動による人口純減となったエリアのうち30エリアで男性よりも女性の方が多く転出超過となり、平均で男性の1.3倍の女性がエリアから消えゆく結果となった。社会減エリアの8割超において、男性よりも女性の移動によるエリアからの人口減少問題がより深刻であることが示された。

またエリア格差が著しく、北海道は男性が-123人に対し、女性が-3353人となり、格差は27.3倍である。この大きな格差は北海道の「通常モード」であり、北海道の人口の社会減は「女性問題でしかない」といっていいだろう。ところが、残念なことにこの事実に直面した地元の政策立案に携わる関係者からは「そこまで酷いという実感がなかった。衝撃だ」という声を伺っている。地方創生に関して、なぜか男性の移動が女性よりも課題ととらえるアンコンシャス・バイアスが大きな影を落としている様子がうかがえる。北海道に続いて10倍を超える男女格差を見せる大分県、女性のみ転出超過のため社会減エリアとなっている群馬県、熊本県、栃木県などは、「人口減少対策を100%女性に振り切る」くらいの覚悟がないと、統計的にはエリアの人口減問題は解決しない、と断言してもいいだろう。筆者の前稿とも繰り返しになるが、出生数の増減と女性の社会増減は強い正の相関関係にあり、もはや都道府県間の合計特殊出生率の高低(地元女性の出生力)では、出生数の増減レベルの比較はできない状況にあることを強く確認しておきたい1
【図表1】2022年年間 転出超過(社会減)男女合計都道府県ランキング(人)

【東京都への女性集中、コロナ禍で加速へ】

2021年は社会増エリア首位の座を神奈川県に譲り、女性の社会増だけ(男性は社会減)で6位を保っていた東京都も、2022年は再び人流制限が緩和されたことから、一気に首位に返り咲き、転入超過総数で2位となる神奈川県の1.4倍の社会増となった。ここで特に注目すべき点は、男女ともに1万人を超える全国トップの増加数であるばかりでなく、女性の転入超過数が男性の1.6倍となるなど、コロナ禍前(2019年以前)を更に上回る男女の集中バランス格差を見せていることである。増加11エリア合計に対して、東京都の増加が占める割合は総数ベースで33%、男女別では男性の30%、女性の36%を占める結果となっている。
【図表2】2022年年間 転入超過(社会増)男女合計都道府県ランキング(人)
実に、地方から消えた(転出超過した)若い男性のうち10人に3人、若い女性の3人に1人以上が東京都へ住み替えたことになる。

そして、その周りの通勤圏も含めた1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉=東京圏)で見るならば、男女ともに地方から消えた10人中9人が東京圏へと住み替えた。若い女性が激増すれば、当然、東京都の未婚女性割合は高まるので、合計特殊出生率2は低下する。しかし、若い女性が増え続けているので、婚姻数も出生数も地方よりもはるかに減少度合いは低く、全国で最も高水準の出生数を維持し続けることから、東京都は出生数の減少率が最も低い「非少子化エリア・ナンバー1」なのである。

とはいうものの、日本全体で見た若年男女の居場所アンバランスが生み出す未婚化社会は加速する一方である。
 
「沈まぬ東京、沈む地方」の人口動態メカニズムをしっかり把握し、
 
「少子化問題の主因が未婚化?既婚者の産む子どもの数が減ったからではないの?」
「未婚化って、いったいどうしてなの?」
 
といった、足元の実態を過去の価値観からくるバイアスで正確に読むことができないがゆえに発生している「日本の人口減少の背景を十分に理解できていないような致命的な質問」がなくなる日はいつになるのだろうか。
 
2 誤解が多いが、合計特殊出生率は夫婦が持つ子どもの数の平均値ではない。そのエリアに居住する全ての女性(未婚女性と既婚女性)の年齢別出生率の累積合計である。ゆえに未婚割合が高まれば、当然、合計特殊出生率は低下する。夫婦がもつ子どもの数の平均数が不変でも、この指標が独身割合の増加で低下することを看過してはならない。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2023年01月31日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【東京一極集中、女性主導で復活へ-2022年・東京都は男性の1.6倍の女性増、男女減少格差27倍のエリアも】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

東京一極集中、女性主導で復活へ-2022年・東京都は男性の1.6倍の女性増、男女減少格差27倍のエリアものレポート Topへ