- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 人口動態 >
- 東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)-2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲
東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)-2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
【はじめに】
今回はさらに10月の状況を加味したうえで、1月から10月の都道府県別の男女合計の転入超過数がマイナス(社会減)となったエリアについて、同じくランキング形式で解説したい。
残念ながら、コロナ禍における人口の転出控え効果は社会減エリアが持つ根本的な課題に対して、改善という変化をもたらさなかったことが浮き彫りとなる結果となっている。
【転出超過(社会減)エリア合計、再び10万人を突破】
2022年も残すところ半月となった12月上旬現在、総務省「住民基本台帳人口移動報告」では10月までの人口移動の結果が公開されている。このデータを分析した結果、すでに37道府県において転出超過(社会減)となっており、その合計は11万151人であることが判明した。年間の5/6が経過した段階で、コロナ禍前(2019年:16万1546人)の68%水準にまで人口の入れ替え規模が復活してきている(図表1)1。
しかしながら、いまだに地方創生や地域における少子化問題の主軸が、古い時代の価値観に基づくエビデンスなきアンコンシャス・バイアスにより「学生誘致」「男性の職場誘致」「家族形成後の女性の子育て支援」「地元に残る(または夫について来た)女性前提のサブ的な仕事支援」などの現状の人口動態の実態を無視した対策がメインとなったままである。「古き時代の女性像」に基づく多様性に欠ける価値観で設計されている対策であることが人口減に直結していることが認知されていないことが残念でならない。
2022年の10か月間の男女別の転出超過状況を見てみよう。37道府県から11万151人の人口が移動によって失われた。そしてそのうち女性が6万3533人と転出合計者数の58%を占めており、エリアによって差はあるものの合計では男性の平均1.4倍の女性が社会減エリアから消えている。わかりやすく言うならば、地方からの人口の社会減(地方創生)対策の6割は、女性対策でなくてはならないことをデータは示している。コロナ禍前の2019年においては、男性(7.0万人)の1.3倍の女性(9.2万人)が転出超過エリアから消えていたことを考えると、社会減規模の男女アンバランスはさらに悪化していると言える。
1 ちなみに2020年は12.1万人、2021年は9.7万人の移動後の人口入れ替えが発生した。
【「女性はいらないのか」とみられかねないエビデンス】
どんなに地元の「幸福度」「出生率」「婚姻率」が高くても、それが人口の社会減が止まらない状況下で起こっているとしたら、どうだろうか。
例えば、国際会議においてある国から、幸福度が高い、出生率も高い、婚姻率も高い、といった発表があったとしよう。しかしその一方で、絶え間なく自国からの脱国が絶えない状況を示すデータが別途あったならば、「自国に合わない人間を追いやった結果、その国がもつ環境や価値観に都合のよい人間しか残らないのだから当然だ」「自己の正当性を謳うための印象操作ではないか」と世界から反感すら買うのではなかろうか。
地方自治において、「出生率」「幸福度」「婚姻率」といった「割合指標」が内包するリスクを今一度、官民でしっかり認知してほしい。
地元の環境に合う人だけが地元に残る人気のないエリア(継続的な転出超過が止まらないエリア)となっていることを省みないままであれば、環境や価値観が合わない人間が地元から次々と出ていくことによって、これらの割合指標はいくらでも上昇していくのである2。
実際、都道府県で比較する場合、合計特殊出生率と出生数の高低増減にはすでに相関がない3。都道府県という一定以上の人口母数のある単位の間で比較しても「女性1人あたり出生数」という指標が意味を持てないほど、女性の母数が流出しているからこその無相関となっている。ましてや市町村単位ではさらにその無相関度合いが強まる。出生数は母親候補となる女性の母数に出生率をかけて計算できるが、つまりそれは、「女性の母数が地元から出ていくことで減るならば、1人当たり出生率が多少上がったとしても、その上昇分を吹き飛ばしてしまうほどに子どもの数は減る」ということでもある。
正しい知識とエビデンス解釈に基づいた地方の復活劇はいつになったら起こるのか、人口に関する正しい知識の普及を願ってやまない。
2 地元の幸福度は、地元の価値観に合わない人々が出ていく状況下では、いわゆる地元環境・価値観に対する「喜び組」が地元に残る傾向となるため、当然ながら上昇する。また出生率や婚姻率も、地元価値観に合わない未婚者が出ていくことによって、上昇傾向となる。出生率・婚姻率・幸福度等の割合指標が高いことが肯定されるかどうかは、人流と合わせてジャッジされるべきである。統計的には、日本は現時点において、転出超過エリアほど出生率、婚姻率、幸福度が高い傾向にあることを指摘しておきたい。
3 天野 馨南子,「都道府県の合計特殊出生率、少子化度合いと「無相関」-自治体少子化政策の誤りに迫る-」,2022年9月12日 ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」
(2022年12月12日「研究員の眼」)

03-3512-1878
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は年度最新順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/07 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 基礎研マンスリー |
2025/02/05 | 【地方創生・人口動態データ速報】2024年 社会減(国内移動純減)都道府県ワーストランキング-日本人と外国人の合計で移動純減は40エリア- | 天野 馨南子 | 基礎研レター |
2025/01/16 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 研究員の眼 |
2025/01/09 | 2013~23年 都道府県出生減(少子化)ランキング/合計特殊出生率との相関は「なし」 | 天野 馨南子 | 基礎研マンスリー |
新着記事
-
2025年03月21日
東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに -
2025年03月21日
勤務間インターバル制度は日本に定着するのか?~労働時間の適正化と「働きたい人が働ける環境」のバランスを考える~ -
2025年03月21日
医療DXの現状 -
2025年03月21日
英国雇用関連統計(25年2月)-給与(中央値)伸び率は5.0%まで低下 -
2025年03月21日
宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)-2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)-2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲のレポート Topへ