2023年03月28日

米国消費者の生保加入動向-加入率、加入状況とニーズとのギャップ、なぜ加入しないのか-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるリムラは、生命保険・年金に関する米国消費者の動向等について、2022年4月、9月に公表している1

ここでは、上記レポートで掲載されているデータを元に、米国における加入率の推移、生保における加入状況とニーズのギャップ等、米国消費者の生保加入動向について紹介したい。
 
1 LIMRA and Life Happens「2022 Insurance Barometer Study」2022年4月25日、LIMRA「The Facts of Life and Annuities 2022 Update」2022年9月26日。

2――米国における生保加入率推移

2――米国における生保加入率推移、ニーズギャップ、保険加入意向等について

(図表1)は、米国における生保加入率の推移を示したものである2。2011年には63%だったものが、徐々に低下してきている。
(図表1)米国における生保加入推移
一方、(図表2)は、米国の消費者において、「生保が必要」と回答した人と「生保に加入している」と回答した人の差を示したものである。両者の差は2011年の7ポイントから2022年には18ポイントと、倍以上に拡大している。

2019年までの間は、各年における格差は概ね1~2ポイント程度で推移していたが、2020年には7ポイントと急激に拡大しており、リムラでは新型コロナウイルスの感染拡大による意識の高まりによるものとしている3
(図表2)生保に対する「必要」と「加入」の差
(図表3)は、生保ニーズギャップについて、生保加入しているものの、現在の加入状況では不十分と考えている人も視野に入れたものである。

これによると、回答者の41%がニーズギャップを感じており、41%中、10%(リムラ推計によれば2600万人)がより生保を必要と考えている既加入者、31%(同全米8000万人)が生保を必要と考えている未加入者であることを示している4
(図表3)米国における生保ニーズギャップ(2021、2022年)
(図表4)は、生保未加入者が今後1年間で生保に加入する意向について、ニーズギャップ有無別に示したものである。これによれば、生保未加入者では、ニーズギャップを感じている人の半数超(53%)が、今後1年間に多分、または確実に加入する、と回答している。(図表3)より、米国におけるニーズギャップを感じている未加入者数は8000万人とされていることから、約4200万人が1年以内に保険に加入する意図があることを示している。
(図表4)今後1年間で生保に加入するか(対象:生保未加入者)
(図表5)は、ニーズギャップを感じていながらも、保険に(追加)加入しないことについての理由を示している。これによれば、最も上位に来ているのが、「保険料が高すぎる」で、回答者のほぼ半数が選択している5。続いて、「優先すべきものが他にある」、「何にどれだけ加入すべきかわからない」、「不慣れである」となっている6。保険のわかりにくさ、取っつきにくさも、一要因となっていることが伺われる。
(図表5)ニーズギャップを感じている人が保険に加入しない(or増額しない)理由
 
2 日本の生保加入率は、生命保険文化センター2021(令和3)年度「生命保険に関する全国実態調査」によれば、2021年における世帯主の平均加入率は、全生保(簡保、JA 共済、県民共済、生協等を含むでは)で84.9%となっている。一方、LIMRA「Global Consumer Pulse 2022」2022年9月19日では、2022年で62%と紹介されている。なお、同「Global Consumer Pulse」では、生保加入率の国際比較について取り上げられており、その概要について小著「世界の消費者はどの位の割合で生命保険に加入しているのか」『保険・年金フォーカス』(2022年11月22日)でも紹介している。
3 LIMRA and Life Happens「2020 Insurance Barometer Study」P9。なお、加入率は、2020年に3%、その後も徐々に低下しており、格差拡大の要因となってるものと考えられる。
4 日本の状況については、生命保険文化センター2021(令和3)年度「生命保険に関する全国実態調査」によれば、加入保障内容について、不十分と回答している人は、31.5%(うち、やや不十分23.4%、不十分8.1%)となっている。
5 「保険加入の際の最も重要な決定要素は価格である」とのアジア太平洋や世界20市場における調査結果もあり(小著「パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響」『保険・年金フォーカス』P3(2021年11月5日)、「パンデミックにより、世界の消費者はどう変わったのか」『保険・年金フォーカス』P4(2022年9月27日)でも紹介。)、保険料は保険加入の際の重要な要素であることを示している。
6 一方、生命保険文化センター2021(令和3)年度「生命保険に関する全国実態調査」P191によれば、日本における生命保険(個人年金を含む)への非加入理由は、「経済的余裕がない」(38.9%)、「現時点では生命保険の必要性をあまり感じない」(27.9%)、「健康上の理由や年齢制限のため加入できない」(13.4%)、「ほかの貯蓄方法のほうが有利」(10.0%)、「生命保険についてよくわからない」(7.1%)等となっており、共通している部分も少なくない。

3――おわりに

3――おわりに

米国は世界最大の保険市場だが、加入率自体は日本やアジアの一部の市場等と比較してもさほど高くない7。一方で、ニーズギャップを持つ人は非常に多く、潜在的なニーズは高いことがわかった。コロナ禍を経て、市場環境も大きく変容する中で、ここの層にどうアプローチしていくかが、今後の保険業界にとっての大きな課題となってくるものと考えられる。加入率の状況等、状況は異なるが、日本と共通する部分も少なくないと考えられることから、米国の状況については、引き続き、注視していきたい。
 
7 注釈2にて前掲の小著「世界の消費者はどの位の割合で生命保険に加入しているのか」『保険・年金フォーカス』(2022年11月22日)にて、リムラによる加入率の国際比較を紹介しているが、2022年の調査結果では、米国の加入率は、世界13市場中ブラジルについで下から2番目であった。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2023年03月28日「保険・年金フォーカス」)

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【米国消費者の生保加入動向-加入率、加入状況とニーズとのギャップ、なぜ加入しないのか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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