2023年02月15日

2022~2024年度経済見通し(23年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2022年10-12月期は前期比年率0.6%のプラス成長

2022年10-12月期の実質GDPは、前期比0.2%(前期比年率0.6%)と2四半期ぶりのプラス成長となった。

民間消費が前期比0.5%と堅調を維持する一方、設備投資(前期比▲0.5%)、住宅投資(同▲0.1%)が減少したことなどから、国内需要は5四半期ぶりに減少したが、外需が前期比・寄与度0.3%(年率1.4%)と成長率を押し上げた。10-12月期はかろうじてプラス成長となったものの、7-9月期の落ち込み(前期比年率▲1.0%)を取り戻すことはできなかった。実質GDPは約2年にわたってプラス成長とマイナス成長を繰り返しており、一進一退の状態から抜け出せずにいる。

2022年(暦年)の実質GDP成長率は1.1%(2021年は2.1%)、名目GDP成長率1.3%(2021年は1.9%)といずれも2年連続でプラスとなったが、その水準はコロナ禍前の2019年に届かなかった。四半期ベースでは、2022年10-12月期の実質GDPは、コロナ禍前(2019年10-12月期)の水準を1.0%上回ったが、消費税率引き上げ前のピーク(2019年7-9月期)は▲1.8%下回っている。経済の正常化にはまだかなりの距離がある。
(景気動向指数の基調判断が下方修正)
2/7 に公表された内閣府の「景気動向指数」では、2022年12月のCI 一致指数が前月差▲0.4ポイントと4ヵ月連続で低下し、CI一致指数の基調判断が、それまでの「改善」から「足踏み」へと下方修正された。景気動向指数が低下を続けている主因は、海外経済の減速を背景に輸出が低迷し、製造業の生産活動が弱い動きとなっているためである。

2022年10-12月期の輸出数量指数(当研究所による季節調整値)は、前期比▲3.4%と3四半期連続で低下し、7-9月期の同▲0.4%からマイナス幅が拡大した。地域別には、EU向けは堅調を維持しているが、ゼロコロナ政策と同政策解除後の感染拡大で経済の低迷が続く中国向けが急速に落ち込み、景気が減速している米国向けは低迷が続いている。品目別には、世界的な半導体関連需要の低迷を受けて、半導体等電子部品、通信機などのIT関連が減少しているほか、供給制約の影響が残る自動車が一進一退の動きとなっている。
景気動向指数・CI一致指数の推移/地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移
鉱工業生産指数は、2022年7-9月期には前期比5.8%の高い伸びとなったが、10-12月期は同▲3.0%と2四半期ぶりの減産となった。供給制約の影響が残る自動車が前期比▲4.3%の低下となったほか、グローバルなITサイクルの調整を反映し、電子部品・デバイスが前期比▲5.9%(7-9月期:同▲7.8%)と3四半期連続の減産となった。

企業の生産計画を示す製造工業生産予測指数は2023年1月が前月比0.0%、2月が同4.1%となっている。しかし、実際の生産が予測指数から大きく下振れる傾向があることを考慮すれば、実質的には減産計画と読み取ることができる。個人消費を中心に国内需要が一定の底堅さを維持していることが下支えとなるものの、欧米を中心とした海外経済の悪化を背景に輸出の低迷が続く可能性が高いことから、生産は当面弱い動きが続くことが予想される。
 
2022年10-12月期の実質GDPは米国が前期比年率2.9%、ユーロ圏が同0.4%のプラス成長となったが、高インフレとそれを抑制するための金融引き締めの影響で、2023年1-3月期にはマイナス成長となることが予想される。一方、中国はゼロコロナ政策とそれに伴うロックダウンの影響で2022年の実質GDP成長率は3.0%と2021年の8.4%から大きく低下したが、ゼロコロナ政策の終了を受けて、2023年入り後は持ち直しに向かう公算が大きい。

日本の輸出ウェイトで加重平均した海外経済の成長率は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年に▲2%程度のマイナスとなった後、2021年はその反動で6%程度の高い伸びとなったが、2022年に3%程度へと大きく減速した後、2023年は2%台後半へとさらに伸びが低下するだろう。実質GDP成長率は、中国が3%から5%台へ高まるが、米国が2021年の5.9%から2022年に2.1%に減速した後、2023年は0.7%へ、ユーロ圏も2021年の5.2%から2022年3.5%に減速した後、2023年は0.4%とほぼゼロ成長となることが予想されるためである。
日本から見た海外経済の成長率 2024年は、中国の成長率が4%台に低下する一方、米国、ユーロ圏がそれぞれ1.5%、1.0%と成長率が若干高まることから、日本から見た海外経済の成長率は3%程度へと持ち直すが、引き続き1980年以降の平均成長率の4%程度を下回るだろう。

輸出は2021年度に前年比12.3%の高い伸びとなった後、2022年度は円安による押し上げはあるものの、海外経済減速の影響が大きく、同4.6%と伸びが鈍化し、2023年度は同▲0.8%と3年ぶりに減少することが予想される。2024年度は同3.1%と増加に転じるが、景気の牽引役となるには力不足と言えるだろう。
(家計貯蓄率はコロナ禍前の水準に近づく)
物価高や新型コロナウイルスの感染拡大という逆風を受けながらも、個人消費は持ち直しの動きが続いている。この背景には、コロナ禍の度重なる行動制限に伴う消費水準の大幅低下、特別定額給付金の支給などによって、家計に過剰貯蓄が存在していることがある。

実質家計消費支出の伸び(前年比)を要因分解すると、2021年4-6月期以降、物価要因(家計消費デフレーターの上昇)が消費の下押し要因となり、2022年度入り後は押し下げ幅が拡大しているが、高水準の貯蓄率を引き下げることによる押し上げ効果が大きく、消費の底堅さをもたらしている。

家計貯蓄率はコロナ禍前の2015~2019年平均で1.2%だったが、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に20%台へ急上昇した。その後、行動制限の緩和によって消費が持ち直したことなどから、貯蓄率は低下傾向にあるが、平常時に比べると水準は高い。
下方修正された家計貯蓄率 しかし、2022年12月に内閣府から公表された国民経済計算の2021年度年次推計では、家計貯蓄率が2020年度(13.1%→12.1%)、2021年度(9.6%→7.1%)ともに下方改定された。四半期では、2022年4-6月期が5.4%から3.2%に下方修正され、2023年1月に公表された2022年7-9月期は3.1%とさらに低下した。足もとの家計貯蓄率は、これまで考えられていたよりもコロナ禍前の水準に近づいている。

個人消費は、名目賃金が伸び悩み、実質賃金が下落する中でも、高水準の貯蓄を背景に持ち直しが続いてきた。しかし、家計貯蓄率が平常時の水準に戻った後は、賃金を中心とした可処分所得動向が個人消費を大きく左右する。賃上げがより重要となる局面が近づいていると言えよう。
(春闘賃上げ率は26年ぶりの高水準へ)
岸田首相は、2023年春闘でインフレ率を上回る賃上げの実現を経済界に要請し、連合も賃上げ要求を前年までの4%程度から5%程度に引き上げた。大幅な賃上げを表明する企業も相次いでおり、ここにきて賃上げの機運は大きく高まっている。

労務行政研究所が1/30に発表した「賃上げに関するアンケート調査」によれば、2023年の賃上げ見通し(対象は労・使の当事者および労働経済分野の専門家約400人)は平均で2.75%となり前年を0.75ポイント上回った。厚生労働省が集計している主要企業の賃上げ実績は同調査の見通しを若干上回る傾向があることを考慮し、今回の見通しでは2023年の春闘賃上げ率の想定を2.90%(2022年実績は2.20%)とした。
賃上げ見通しと実績の推移 この想定が実現すれば、春闘賃上げ率は1997年以来26年ぶりの高水準となる。しかし、定期昇給分を除いたベースアップは1%強にとどまり、2022年度に続き2023年度も消費者物価の伸びを下回る公算が大きい。足もとの物価上昇は資源・穀物価格の高騰や円安の急進といった一時的な要因も大きく、下方硬直性が高く安定的な動きをする賃金の伸びがこれを一気に上回ることは現実的ではない。一方、中長期的には、ベースアップが物価上昇率を上回ることを目指すべきである。物価安定の目標が2%であることを前提とすれば、ベースアップが2%を上回る水準となることがひとつの目安と考えられる。
一人当たり名目賃金は増加が続いているが、消費者物価上昇率が大きく高まったため、2022年度入り後は実質賃金の伸びがマイナスとなっている。2023年の春闘賃上げ率は前年から大きく高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落は2023年度入り後も続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率の鈍化が見込まれる2023年度後半と予想する。

2022年度の名目雇用者報酬は前年比2.2%と2年連続の増加となるが、消費者物価の上昇ペースが加速したことから、実質雇用者報酬は同▲1.5%と減少に転じることが見込まれる。2023年度は一人当たり賃金の伸びが高まることを主因として、名目雇用者報酬が前年比2.8%となる中、物価の上昇ペースが鈍化することから、実質雇用者報酬は前年比0.5%と小幅ながら増加に転じるだろう。2024年度の雇用者報酬は、名目で前年比3.1%、実質で同2.0%といずれも前年度から伸びを高めることが予想される。
名目賃金と実質賃金/実質雇用者報酬の予測

2. 実質成長率は2022年度1.3%、2023年度1.0%、2024年度1.6%を予想

2. 実質成長率は2022年度1.3%、2023年度1.0%、2024年度1.6%を予想

(物価高が貯蓄の減少要因に)
個人消費は持ち直しが続いているが、物価の上昇ペース加速を受けて一部では伸び悩みの動きがみられる。
消費関連指標の推移 消費関連指標を確認すると、自動車販売台数は供給制約の緩和を受けて持ち直している。対面型サービス消費のうち、延べ宿泊者数は全国旅行支援の後押しもあって順調に回復している。一方、外食産業売上高は値上げの影響で名目では増加しているものの、物価上昇分を割り引いた実質では足踏み状態となっている。

前述したとおり、家計貯蓄は依然として高水準にあるが、徐々にコロナ禍前の水準に近づいている。コロナ禍における家計貯蓄額の平常時(2015~2019年平均)からの乖離幅を所得要因(可処分所得等)、消費要因(実質家計消費支出)、物価要因(家計消費デフレーター)に分けてみると、消費水準の低下、特別定額給付金やGo Toトラベル等の各種支援策や雇用者報酬の回復による可処分所得の増加が貯蓄の増加に寄与している。一方、物価上昇ペースの加速が貯蓄の減少をもたらしている。2022年7-9月期の家計貯蓄は平常時よりも6.2兆円(季節調整済・年率換算値)多いが、消費水準の低下と可処分所得の増加が20.1兆円の押し上げとなる一方、物価上昇が▲13.9兆円の押し下げとなっている。
先行きについては、物価高で消費金額が膨らむことが引き続き貯蓄の減少要因となる一方、賃上げが進み可処分所得の伸びが高まることが貯蓄の増加要因となろう。今回の見通しでは、家計貯蓄率は直近(2022年7-9月期)の3.1%から2024年度末にかけて1%台後半まで低下し、コロナ禍前の水準(2015~2019年平均の1.2%)に近づくことを想定している。
家計貯蓄増減の要因分解/家計の可処分所得、消費支出、貯蓄の推移
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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