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2025年07月08日

2025・2026年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.340]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2025年1-3月期は4四半期ぶりのマイナス成長

2025年1-3月期の実質GDPは前期比▲0.0%(前期比年率▲0.2%)と4四半期ぶりのマイナス成長となった。財貨・サービスの輸出が前期比▲0.5%の減少となる一方、財貨・サービスの輸入が前期の落ち込みの反動もあり同3.0%の高い伸びとなったことから、外需寄与度が前期比▲0.8%と成長率を大きく押し下げた。

高水準の企業収益を背景に設備投資は前期比1.1%の高い伸びとなったが、物価高の影響で民間消費が前期比0.1%と低迷したことから、国内需要は2四半期ぶりに増加したものの、外需の落ち込みをカバーするには至らなかった。

2―トランプ関税の影響

2025年1月にトランプ大統領が就任して以降、米国は様々な関税政策を打ち出している。

米国の関税引き上げは様々なルートを通じて日本経済に影響を及ぼす。まず、米国の関税引き上げは日本の輸出財の米国の国内生産財に対する価格競争力を低下させ、対米輸出数量の減少を通じて日本の国内生産、企業収益の悪化をもたらす。対米輸出製品の価格を下げれば、輸出数量の落ち込みは緩和されるが、その場合は輸出金額の減少を通じて日本企業の収益を悪化させる。

また、米国の関税引き上げに伴う米国を含めた世界経済の減速や世界の貿易取引の縮小は、日本の輸出数量の一段の減少をもたらす。さらに、企業収益の悪化や関税政策に関する不確実性の高まりは設備投資や賃上げの抑制につながるリスクを高める[図表1]。
[図表1]米国の関税引き上げによる日本経済への主な波及経路
これに加えて、株価下落など金融市場の混乱は企業、家計のマインド悪化を通じて国内需要の下押しにつながるほか、日本企業の海外現地法人の収益悪化が直接投資収益の減少を通じて国内企業の収益にも悪影響を及ぼす。

米国の関税引き上げが本格化した2025年4月の貿易統計によれば、米国向けの輸出金額は前年比▲1.8%(3月:同3.1%)と4ヵ月ぶりに減少した。内訳をみると、輸出数量は前年比1.2%(3月:同▲4.9%)と11ヵ月ぶりに増加に転じており、数量面では関税引き上げの影響は表れていない。一方、輸出価格は3月の前年比8.4%から同▲3.0%へと急低下した。輸出価格低下の一因は円高だが、為替レートの変動以上に輸出価格が低下した。

25%の追加関税が課せられた米国向け自動車輸出は前年比▲4.8%(3月:同4.1%)と4ヵ月ぶりの減少となった。輸出数量は前年比11.8%(3月:同5.7%)と伸びを高めたが、輸出価格が前年比▲14.8%(同▲1.5%)と低下幅が急拡大したことが輸出金額の減少につながった。

貿易統計の輸出価格指数は円ベースのため、為替変動の影響が含まれるが、日本銀行の「企業物価指数」では、契約通貨ベースと円ベースの輸出物価指数が公表されている。北米向け乗用車の輸出物価指数を契約通貨ベースでみると、3月の前年比▲1.5%から、4月が同▲8.1%、5月が同▲18.9%と低下幅が急拡大した[図表2]。
[図表2]輸出物価(北米向け)の推移
関税引き上げによる輸出への影響は、価格競争力の低下に伴う数量の減少と輸出企業の価格引き下げに分けられる。現時点では、日本企業は米国の関税引き上げに対して、輸出数量の落ち込みを緩和するために価格の引き下げを行っていることが窺える。

関税引き上げの影響は様々な波及経路を通じて広範囲に及ぶこと、顕在化するまでにタイムラグが生じることから、単月の動きだけでは判断できない。関税引き上げの影響が数量面、価格面にどのように出てくるかを見極める上で、今後の貿易統計の動きが注目される。

3―GDP成長率の見通し

2025年1-3月期は前期比年率▲0.2%と4四半期ぶりのマイナス成長になったが、前期の反動で外需が大幅マイナスとなったことがその主因で、均してみれば景気は緩やかな回復基調を維持している。しかし、先行きについては、米国の関税引き上げの影響で輸出が大きく下押しされることは不可避と考えられる。また、消費者物価上昇率の高止まりから民間消費の低迷が続き、トランプ関税による不確実性の高まりを受けて、設備投資が抑制されることが想定される。

2025年4-6月期は民間消費、設備投資等の国内需要が伸び悩む中、輸出が減少することから前期比年率▲0.9%と2四半期連続のマイナス成長となるだろう。7-9月期は輸出の減少ペースが緩やかとなること、物価上昇率の鈍化を受けて民間消費が緩やかに持ち直すことなどから、前期比年率0.2%とかろうじて3四半期ぶりのプラス成長になると予想する。しかし、現在停止されている相互関税の上乗せ分が発動された場合には、マイナス成長が継続し、景気後退に陥るリスクが高まるだろう。

2025年度後半以降は、関税引き上げの影響が徐々に減衰し、輸出が下げ止まる中、民間消費、設備投資を中心に国内需要が増加し、潜在成長率を若干上回る年率1%程度の成長が続くだろう。

実質GDP成長率は2025年度が0.3%、2026年度が0.9%と予想する[図表3]。
[図表3]実質GDP成長率の推移

4―消費者物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2023年9月以降、前年比で2%台の伸びが続いていたが、「酷暑乗り切り緊急支援」の終了に伴い電気・都市ガス代の上昇率が急拡大したことから2024年12月に同3.0%となった後、食料(除く生鮮食品)の上昇ペース加速を主因として2025年4月には同3.5%まで伸びを高めた。

食料(除く生鮮食品)は2023年8月の前年比9.2%をピークに2024年7月には同2.6%まで鈍化したが、その後は輸入物価の再上昇に米価格の高騰が加わったことから再び上昇率が高まり、2025年4月は同7.0%となった。

川上段階(輸入物価)の食料品価格の上昇率は2023年夏頃に比べれば低水準にとどまっているが、川下段階(消費者物価)の価格転嫁率は高まっている。飲食料品の輸入物価は2020年秋頃から2023年末にかけて約60%の急上昇となった。この間、消費者物価の食料(除く生鮮食品)の上昇率は10%弱にとどまっていた。

これに対し、2023年初から足もとまでの飲食料品の輸入物価上昇率は15%程度と前回の上昇局面の4分の1程度にとどまっているが、この間に消費者物価の食料(除く生鮮食品)は10%以上上昇している[図表4]。人件費や物流費の価格転嫁に加え、物価高が継続したことで企業の値上げに対する抵抗感が薄れていることがこの背景にあると考えられる。食料(除く生鮮食品)の上昇率は当面高止まりする可能性が高い。
[図表4]高まる食料(除く生鮮食品)の価格転嫁率
一方、2022年以降の物価上昇の主因となっていた円安、原油高には歯止めがかかっており、輸入物価はこのところ大きく低下している。このため、食料以外の財価格の上昇率は徐々に鈍化する可能性が高い。

コアCPI上昇率は、足もとの3%台半ばから物価高対策でエネルギー価格が押し下げられる2025年夏場には2%台へ鈍化することが見込まれる。賃上げに伴うサービス価格の上昇を円高による財価格の上昇率鈍化が打ち消す形でコアCPI上昇率が日銀の物価目標である2%を割り込むのは2026年入り後と予想する。

コアCPIは、2024年度の前年比2.7%の後、2025年度が同2.5%、2026年度が同1.6%と予想する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月08日「基礎研マンスリー」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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