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2025年06月02日

法人企業統計25年1-3月期-利益、設備ともに堅調だが、4-6月期以降はトランプ関税の影響で悪化が不可避

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.経常利益は2四半期連続の増加

経常利益の推移 財務省が6月2日に公表した法人企業統計によると、25年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比3.8%(10-12月期:同13.5%)と2四半期連続の増益となった。製造業は前年比▲2.4%(10-12月期:同26.7%)と2四半期ぶりの減益となったが、非製造業が前年比7.0%(10-12月期:同6.4%)と17四半期連続の増益となった。
製造業は、売上高の伸びが24年10-12月期の前年比2.2%から同5.7%へ高まったが、売上高経常利益率が24年1-3月期の8.4%から7.7%に悪化したことが収益の押し下げ要因となった。売上高経常利益率を要因分解すると、金融費用要因、減価償却費要因が利益率を押し上げたが、変動費要因が前年差▲1.4ポイントの大幅悪化となった。変動費が前年比7.7%の高い伸びとなり、売上高の伸びを大きく上回ったことが利益率を押し下げた。

非製造業は、売上高の伸びが24年10-12期の前年比2.7%から同3.8%に高まったことに加え、売上高経常利益率が24年1-3月期の6.6%から6.8%に改善したことが収益の押し上げ要因となった。金融費用要因はマイナスとなったが、人件費が前年比1.6%と売上高の伸びを下回ったことから、人件費要因がプラスとなった。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)

2.経常利益(季節調整値)は高水準を維持

経常利益を業種別に見ると、製造業は、電気機械(前年比41.1%)、業務用機械(同36.5%)は大幅増益となったが、石油・石炭(同▲55.4%)、鉄鋼(同▲45.8%)、輸送用機械(同▲28.0%)、金属製品(同▲26.6%)、食料品(同▲26.0%)等が前年比二桁の減益となり、全体を押し下げた。

非製造業は、運輸・郵便業(前年比▲19.4%)、情報通信業(同▲3.3%)が減益となったが、建設業(同22.4%)、物品賃貸業(同20.7%)、電気業(同417.0%)が高い伸びとなり、全体として増益を確保した。
 
季節調整済の経常利益は前期比▲2.6%(10-12月期:同12.0%)と2四半期ぶりに減少した。非製造業は前期5.6%(10-12月期:同▲0.0%)と3四半期ぶりに増加したが、製造業が前期比▲15.2%(10-12月期:同37.2%)と2四半ぶりに減少した。
経常利益(季節調整値)の推移 経常利益(季節調整値)は29.3兆円(10-12月期:30.0兆円)となった。過去最高となった24年10-12月期からは減少したが、過去3番目の高水準を維持している。また、売上高(季節調整値)は製造業が前期比2.0%と4四半期連続、非製造業が同1.2%と7四半期連続で増加しており、コスト増を販売価格に転嫁する動きは途切れていない。

ただし、4-6月期以降は米国の関税引き上げを受けた輸出の減少を主因として、製造業を中心に収益が悪化することは避けられないだろう。

3.高水準の企業収益を背景に設備投資は回復

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比6.4%(10-12月期:同▲0.2%)と2四半期ぶりに増加した。製造業が前年比4.2%(10-12月期:同0.8%)と16四半期連続で増加、非製造業が前年比7.6%(10-12月期:同▲0.8%)と2四半期ぶりに増加した。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比1.6%(10-12月期:同1.3%)と4四半期連続で増加した。製造業が前期比0.1%(10-12月期:同1.9%)と3四半期連続、非製造業が前期比2.4%(10-12月期:同1.0%)と4四半期連続で増加した。

高水準の企業収益を背景に設備投資は回復しているが、米国の関税政策を巡る不確実性の高まりから、企業の投資行動は今後慎重化する可能性が高い。

4.1-3月期・GDP2次速報は小幅上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、6/9公表予定の25年1-3月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.1%(前期比年率▲0.5%)となり、1次速報の前期比▲0.2%(前期比年率▲0.7%)から小幅上方修正されると予想する。

設備投資は前期比1.4%と1次速報と伸びは変わらないだろう。

設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比6.9%(10-12月期:同3.1%)と16四半期連続で増加し、前期から伸びが高まった。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ、前年比7%程度と公表値とほぼ同じ伸びとなった。また、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比14.0%(10-12月期:同▲5.6%)と2四半期ぶりの増加となった。
2025年1-3月期GDP2次速報の予測 1次速報段階では、設備投資の需要側推計値は前年比6.9%となっていた。本日の法人企業統計の結果を反映した2次速報の設備投資の伸びは1次速報と変わらないと予想する。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映されるが、1次速報の前期比・寄与度0.3%から変わらないだろう。

その他の需要項目では、公的固定資本形成は3月の建設総合統計の結果が反映され、前期比▲0.4%から同0.4%へ上方修正されると予想する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月02日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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