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2025年05月30日

鉱工業生産25年4月-5月の予測指数の高い伸びは季節調整の歪みによって嵩上げされている可能性

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.4月の生産は3ヵ月ぶりの低下

鉱工業生産・出荷・在庫指数の推移 経済産業省が5月30日に公表した鉱工業指数によると、25年3月の鉱工業生産指数は前月比▲0.9%(3月:同0.2%)と3ヵ月ぶりに低下したが、事前の市場予想(QUICK集計:前月比▲1.5%、当社予想は同▲1.2%)を上回る結果となった。出荷指数は前月比0.2%と2ヵ月ぶりの上昇、在庫指数は前月比▲0.5%と2ヵ月ぶりの低下となった。

4月の生産を業種別に見ると、電子部品・デバイス(前月比5.4%)、汎用・業務用機械(同3.4%)は高めの伸びとなったが、自動車部品メーカーの爆発事故の影響で4月に前月比▲5.9%と急速に落ち込んだ自動車が同▲1.1%とさらに低下したほか、半導体製造装置等の生産用機械が同▲8.7%の急低下となった。

財別の出荷動向を見ると、設備投資のうち機械投資の一致指標である資本財出荷指数(除く輸送機械)は25年1-3月期の前期比▲2.4%の後、4月は前月比▲4.1%となった。また、建設投資の一致指標である建設財出荷指数は25年1-3月期の前期比1.1%の後、4月は前月比▲1.1%となった。
財別の出荷動向 25年1-3月期のGDP統計の設備投資は前期比1.4%と4四半期連続で増加し、24年10-12月期の同0.8%から伸びを高めた。高水準の企業収益を背景に設備投資は回復が続いているが、米国の関税政策を巡る不確実性の高まりから、企業の投資行動は今後慎重化することが見込まれる。

消費財出荷指数は25年1-3月期の前期比3.8%の後、4月は前月比▲1.2%となった。耐久消費財が前月比2.2%、非耐久消費財が前月比▲2.5%となった。

GDP統計の民間消費は、24年10-12月期の前期比0.1%に続き25年1-3月期も同0.0%の横ばいにとどまった。物価高による下押し圧力が高い状態が続く中、個人消費は低迷が続いている。

2.5月の予測指数(前月比)は季節調整の歪みで嵩上げされている可能性

製造工業生産予測指数は、25年5月が前月比9.0%、6月が同▲3.4%となった。生産計画の修正状況を示す実現率(4月)、予測修正率(5月)はそれぞれ▲3.4%、1.4%であった。

予測指数を業種別にみると、5月は生産用機械(前月比18.8%)、汎用・業務用機械(同11.4%)、電気・情報通信機械(同16.3%)が前月比二桁の高い伸びとなっているほか、米国向け輸出に対して25%の追加関税が課せられた自動車を含む輸送機械も同7.0%と高めの伸びとなっている。

ただし、5月の予測指数は季節調整の歪みによって嵩上げされている可能性があることには注意が必要だ。5月の予測指数は季節調整済指数の前月比では高い伸びとなっているが、原指数の前年比では1.9%と4月の同3.4%から伸びが鈍化している(当月見込み同士の比較)。原指数の伸び(前年比)が低いにもかかわらず季節調整済指数の伸び(前月比)が高いのは季節指数(原指数/季節調整済指数)が前年よりも小さいためである(季節指数は24年5月:91.67、25年5月:90.06)。

5月はゴールデンウィークの関係で季節調整が難しい月だが、25年5月は予測指数の季節指数90.06に対して、鉱工業生産(本指数)の季節指数は93.85と予測指数を大きく上回っている。季節指数が大きいほど季節調整済指数は小さくなるため、原指数が同じでも季節調整済指数は予測指数よりも鉱工業生産(本指数)のほうが小さくなる。したがって、実際の鉱工業生産の伸び(季節調整済・前月比)は予測指数の伸びを大きく下回る可能性が高い1
最近の実現率、予測修正率の推移/輸送機械の生産、在庫動向
25年4月の生産指数を5、6月の予測指数で先延ばしすると、25年4-6月期の生産は前期比4.8%となる。しかし、実際の生産の伸びが計画を下回る傾向があることに加え、前述した通り5月の予測指数の伸びが季節調整の歪みにより嵩上されていること、米国の関税引き上げの影響が今後顕在化すること等を考慮すると、実際の生産は大きく下振れる可能性が高い。現時点では、4-6月期の生産は1-3月期に続き前期比でマイナスになると予想している。
 
1 ここでは、当月の季節指数だけを取り上げたが、厳密には、季節調整済・前月比は前月と当月の季節調整済指数の比較であるため、当月と前月の季節指数の関係が問題となる。25年4月の季節指数は予想指数が98.32、本指数が99.72、季節指数の5月÷4月は予測指数が0.916、本指数が0.941である。前月と当月の季節指数の関係をみても、本指数のほうが予測指数よりも前月比が低く出やすいことが分かる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年05月30日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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