コラム
2022年07月01日

ラグジュアリーホテルとは何か(前編)-海外のホテル格付けと外資系ホテルのブランドについて

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1――はじめに

「日本には高級ホテルが足りない。だから、ラグジュアリーホテルを作ろう」と言われ始めて久しい。高い格付けのホテルは、格付けがない場合に比べて、宿泊料の上昇と価値の上昇の恩恵を受けるであろうことは容易に想像できる。しかし、改めて考えてみると、ラグジュアリーホテルとは何だろうか。また誰が決めているのだろうか。

前編では、海外の格付けとホテル独自の格付けについてまとめたい。

2――海外の国、公的機関、民間機関などによる格付け

一般的に、ホテルの格付けには星を用い、国、民間機関、業界団体などが独自の基準で審査し、概ね次のような等級を付与している。
 
・ 5つ星: ラグジュアリーホテル (最高級ホテル)
・ 4つ星: アップスケールホテル (高級ホテル)
・ 3つ星: ミッドプライスホテル (中間級ホテル)
・ 2つ星: エコノミーホテル   (廉価ホテル)
・ 1つ星: バジェットホテル   (格安ホテル)
 
つまり、ラグジュアリーホテル(5つ星)とは、ホテル格付けの中で最高の等級である。各国、各民間機関のホテル格付けの例を図表1にまとめてみた。日本国内では多くの人が、星は勝手に与えられ、大半の施設は持たないものと認識していると思うが、実は、海外の多くの格付けシステムでは、審査を経て、いずれかの等級を得ることができる。

フランスでは、1~5の星とパラス(宮殿級)の6等級を用いる。1~5の星は申請し、施設設備、サービスなどの評価基準に沿って与えられる等級で、パラスは別の審査を経て与えられる称号である。また、2021年にはフランス政府観光局の格付けと異なる星をアルゴリズムで評定したGoogleが、110万ユーロの罰金を支払うこととなった。これに伴ってGoogleは、Googleマップなどで表示されるホテルの評価を、フランス政府観光局の星と一致させた。
 
米国では民間機関による格付けが多数存在し、評価基準も異なる。日本においては、世界中でホテルレーティングを行うフォーブス・トラベルガイド(お勧め、4つ星、5つ星の3等級)が知られている。米国内で最も有名なものはアメリカ自動車協会(AAA)のダイヤモンド・アワード(1ダイヤモンド~5ダイヤモンドの5等級)で、米国、カナダ、メキシコ、カリブ海のホテルを網羅している。
 
中国ではホテル評価基準(星級評価)は1988年に導入された。やはり1~5つ星の5等級で格付けており、戦略的に各ホテルを競争させ、サービスを向上させるよう誘導している。
 
また、それぞれの格付け機関では、新しい申請ホテルを評価するだけでなく、システムの信頼性を維持するため、評価基準の見直し、評価ホテルの保護など制度疲労を避ける試みが続けられている。
図表1 各国のホテル格付けの例
なお、ホテルスターズユニオン内では星の評価基準の統一が図られているが、他の評価基準では、特に4つ星と5つ星の定義が一様でない点には注意したい。例えば「最高級の中でも特別なホテル」はフランス政府観光局の格付けではパラス、米国ダイヤモンド・アワードの格付けでは5ダイヤモンドである。

3――外資系ホテル独自の格付け

ホテルがグループ内に複数のブランドを持っている場合、ブランドごとにランク付けや分類をしていることが多い。各ホテルグループによって、分類基準は異なるが、最高級のホテルをラグジュアリーとする点は共通している。
 
例えば、マリオット・インターナショナルは保有ホテルをラグジュアリー(ザ・リッツカールトン、Wホテルなど)、プレミアム(シェラトン、ウエスティンなど)、セレクト(フェア・フィールド・バイ・マリオットなど)に分類する。

また、アコーはラグジュアリー(ラッフルズ、バンヤンツリーなど)、アップスケール(スイスホテルなど)、ミッドスケール(メルキュールなど)、エコノミー(イビススタイルズなど)、その他に分類している。(図表2)。
図表2 外資系ホテルブランド名と分類の例
世界各国にホテルを持つ巨大ブランドでこのようなランク付けが可能であるのは、格付け制度を持つ国の評価基準を参考に、「新たに保有するホテルがどのランクであるか」、また、「どのランクを目指すことができるのか」の判断が相対的に容易であることも寄与していると思われる。

4――まとめ

世界にある格付け制度では、ホテルの等級は星で表現されることが多い。実際の運用上は、評価にばらつきが生じることもあるが、信頼のできる等級制度があれば「知らない国でも、希望の水準のサービスと価格に応じた等級を選べばよい」など安心感があり、観光客にとっても有用な制度である。
 
また観光客に信頼されている格付けシステムであれば、ホテル側にとっても、高い格付けが得られれば価値が高まり、低い格付けであればさらに良い格付けを得ようと努力をするだろう。そのため、制度が成立した後も、各国では一貫性があり信頼できる格付けシステムを維持するよう努力している。
 
中編、後編では、日本のホテル格付けについて見ていきたい。

参考文献
 
仲谷 秀一(2016) 『ホテル・ビジネスブック』中央経済社
徳江 順一郎(2019)『ホテル経営概論』同文館出版
廣間 準一(2015)『ホテル分類を考慮した重点開発項目の抽出研究』日本観光学会論文集
石井 昭夫(2013)『フランスにおけるホテルの分類と格付け』ホスピタリティ・マネジメント
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2022年07月01日「研究員の眼」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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