2020年07月31日

低迷する宿泊施設はコロナ禍から抜け出せるか-国内旅行客の動向とGo Toキャンペーンを考える

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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■要旨

国内外旅行の自粛から、観光業にとっては厳しい状態が続いている。

国境閉鎖によるインバウンド需要の消失と、訪日客よりも客数の多い国内旅行客の移動自粛により、客室稼働率は、2020年2月から急速に減少しはじめ、4月には前年比▲77%、5月には前年比▲82%となった。
 
観光需要は日帰り旅行、国内旅行、海外旅行の順に回復することが見込まれており、訪日客の需要の回復がまだ先だとすれば、国内の需要に目が向くのは必然であろう。ここで、訪日客が泊まるはずであった宿泊施設に、国内旅行客に泊まってもらうことを考えると、全ての国内旅行客がいつもより2.5倍以上多く旅行に行く必要があることになる。顧客に繰り返し来てもらえる可能性が上がるGo To キャンペーンは宿泊施設にとってプラスであるが、コロナ禍の拡大が起きると、宿泊施設の利用停止や厳しい移動制限が課せられる可能性もあり、その場合、国民の旅行意欲の長期低迷によって逆効果になるリスクもある。
 
しかし国内でコロナ禍が一定収まったという状況を想定すると、国内旅行者を増加させることには他にも利点がある。国内旅行客(宿泊)の旅行消費額は2.4万円と訪日客の1.8万円の1.3倍多い。
 
またコロナ禍前の状況では、国内旅行客は客数も平均宿泊数も横ばいとなっていたことから国内旅行客数が増加していた施設については競争力を増していたと考えられ、これから大きく回復するかもしれない。
 
通常であれば、日本人海外旅行客と国内旅行客が求めるサービスや経験は異なり、必ずしも代替性のある需要者層とみることはできない。しかし、ようやく移動制限が解除された国内旅行について、従来の海外旅行に行っていた日本の旅行客の一部が「この際、国内旅行にでも行くか」となる可能性も十分にあるだろう。
 
宿泊施設は、一定の客室稼働率が見込めなければ黒字化するのは難しい。観光需要は日帰り旅行、国内宿泊旅行、海外旅行と、近い旅行から遠い旅行へと回復する見込みであり、宿泊施設の当面の目標は宿泊を伴う国内旅行客の需要の喚起と取り込みとなる。政府にはコロナ禍の状況を踏まえて、東京を含める形で近隣県への国内旅行に限定してのGo To キャンペーンにするなど、柔軟かつ機動的な運営を期待したい。こうした各種政策により10月、11月の国内旅行需要を少しでも多く取り込むことができれば、国内の宿泊施設の売り上げ回復のきっかけになるのではないだろうか。

■目次

1.はじめに
2.宿泊施設の投資と収益の状況は
3.客室稼働率の状況と今後のシナリオ
4.国内旅行客には訪日客よりも多く旅行してもらう必要がある
5.予算の多い国内旅行客を増加させると波及効果が見込みやすい
6.コロナ禍前までに国内旅行客数が伸びていた施設には競争力がある
7.日本人海外旅行客の需要を取り込める可能性もある
8.終わりに
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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