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コロナ禍の下にある不動産、家賃モラトリアムのリスクを考える-コロナ禍が理由の家賃の延滞では契約解除が困難に
金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子
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1――はじめに
国内でも、オーナーによっては3月頃から家賃の減免や猶予(以下、家賃モラトリアム)に応じている。国会では「中小企業等の事業用不動産に係る賃料相当額の支払猶予およびその負担軽減に関する法律案」(野党案)が提出された。また、日経新聞社によると、政府は月内に家賃支援(以下、家賃モラトリアム法案)を含む2次補正予算を閣議決定し、6月17日までの国会会期中に成立させる方針だ。
これらは不動産の価格にどう影響してくるであろうか。
2――不動産への影響~長期と短期の家賃モラトリアムの違い
一方、不動産価格が下落すれば、オーナーの業績や資金繰りの悪化につながる。オーナーは、テナントに寄り添いたいという気持ちはあっても、長期の家賃減額に応じることは収入が減り、不動産価格の下落に直結することから難しいことも多く、家賃交渉にはすべからく応じるべきだという風潮は受け入れがたいものがあろう。
3――家賃モラトリアム法案などの不動産価格への影響
これらの支援策により、補助金や融資により家賃が支払われれば家賃の滞納や減額の懸念はなくなり、不動産価格の下落圧力は弱くなるようにも思える。
4――コロナ禍が理由の家賃の延滞では契約解除ができない
まず、(1)延滞可能な家賃の金額については、例えば「特別家賃支援給付金が給付されるまでの月数分の家賃金額」が考えられる。補正予算の成立から給付までを数か月強と仮定し、これにコロナ禍が深刻になり始めた3月から6月の4カ月分の家賃を加えるとすれば、この家賃総額さは7~8カ月分を超える可能性もある。数か月分の家賃を延滞したテナントが延滞を解消するまでに数年を要することも想定されるが、7~8カ月分を超える期間の家賃となると容易に延滞の解消はできず、預かっている保証金でも担保できない可能性が高くなってくる。
また、(2)延滞が解消されるまで許される期間については、長期になるほど賃貸借契約の期間(2年、3年、5年が多い)を超過する可能性が高まる。賃貸借契約期間の満了時に多額の家賃の延滞があっても契約解除できないという状態は、平時ではありえないことであり、実際どうするのか不透明で大きなリスクとなる。
さらに、(3)店舗に限らずコロナ禍が原因で延滞が生じた場合は、契約解除が制限される。テナントが新型コロナウイルスの影響と主張すれば、オーナー側からは契約解除できないこととなり、物流やオフィスなど思わぬところでリスクが顕在化する可能性も否定はできない。
具体的な(1)(2)の期間については、今後の判例を待つことになるだろう。しかし、延滞が長期化しながら解除できないというリスクを抱えるよりは、価格の下落を覚悟のうえで家賃減額に応じる、という決断をするオーナーもいるのではないだろうか。また、今後は家賃が延滞した原因がコロナ禍である場合には、前述のとおり解除ができないため、価格の下落幅がより大きくなるなどの影響が生じると思われる。
2 判例によると、賃料不払いを理由に賃貸借契約の解除をするには、テナントとオーナーの「信頼関係の破壊」が必要とされている。
5――テナントが売上を回復できる環境の整備を
しかし、中小企業のほか、大企業やオーナーに対する補助金も今後拡充される見込みであり、官民一体となって経済回復を目指す体制が徐々に整備されてきているが、早急な対応と実際の資金補助が実行されることが望まれる。
また、不動産価格が一旦下落しても、テナントの売り上げを近いうちに回復でき、滞納した家賃等を一定期間内に支払うことができるという期待が持てるなら、価格の下落の幅は少なくなる。政府や自治体による迅速かつ十分な対策により景気の落ち込みをなるべく早く回復し、将来に期待が持てる環境が早期に整うことを願いたい。
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(2020年05月22日「研究員の眼」)
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