コラム
2021年09月28日

コロナ禍でも巨大ホテルグループはさらに成長-2022年には国内旅行客の回復がホテル市場をけん引か

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. はじめに

観光庁によると、2021年7月の延べ宿泊者数は、全体が3,092万人(2019年比▲40.3%)、日本人が3,007万人(2019年比▲26.6%)、外国人が85万人(2019年比▲92.1%)となった(図表1)。新型コロナウイルスの変異種の蔓延などから、宿泊需要の減少が継続している。

宿泊需要が減少するなか、各ホテルも稼働率を上げられずにいる。全日本シティホテル連盟によると、加盟する全国130ホテルの2021年8月の平均客室利用率は、全国が49.7%(東京は53.3%、大阪は42.1%)となった(図表2)。7月、8月はオリンピック・パラリンピックの期間により、東京への訪日外国人旅行客数はやや増加したが、一方で都道府県の境を越えた移動の制限の呼びかけから国内旅行客数が低迷し、稼働率は低水準が続いている。
図表1 延べ宿泊者数(2019年同月比)/図表2 全国のホテル客室利用率

2. 旅行客数の減少により、旅行消費額も減少している

アジア圏の旅行消費額の減少も著しい。ワールド・トラベル・アンド・ツーリズム・カウンシルによると、アジア太平洋地域(以下、APAC)内の主要観光国の2020年旅行消費総額は、中国が3,726億ドル(前年比▲61.5%)、日本が1,567億ドル(▲40.1%)、タイが345億ドル(▲61.9%)、シンガポールが132億ドル(▲63.7%)、香港が106億ドル(▲78.7%)と、すべてのエリアで減少した。日本の旅行消費額の減少が少ないのは、国内旅行客の割合の高さと、早期の回復が影響していると思われる。日本の国内旅行消費額が旅行消費額全体に占める割合は、2019年が81.2%(2,126億ドル)、2020年は94.6%(1,483億ドル)となっている(図表3)。

3. 旅行客数が回復する時期はいずれやってくる

しかし、ホテルの収益停滞はいつまでも続くわけではない。オックスフォード・エコノミクスは、8月にAPAC内での国内旅行、海外旅行を合わせた宿泊者数の予測(2019年比)を2021年が▲26%、2022年が+8%、2023年が+29%と公表した。各国に来訪する外国人客数は2023年まで低調が続くが、2022年以降は国内旅行客が市場をけん引し、国内旅行客数と来訪する外国人客数を合計すると2019年の水準を上回る見込みである(図表4)。近い将来に国内市場が回復を始めるのであれば、国内市場が強い日本にとっては好材料となる。

ワクチン接種の浸透などにより国内の状況が落ち着いたとしても、国境の開放は国内の旅行解禁よりも慎重に判断されるであろう1。その間、訪日外国人客数は低調が続くが、代わりに平常時なら海外旅行を好んだ層が国内旅行を選ぶ可能性が高まり、国内旅行者数が積み上がるはずである。

2019年の旅行・観光消費動向調査によると、日本に居住する国内旅行者(宿泊旅行)の旅行消費額は平均5.7万円、海外旅行者の旅行消費額は平均24.2万円であった。宿泊施設や旅行業者にとっては、コロナ禍以前に海外旅行に多くの予算をかけていた層の国内市場への流入は、一時的ではあっても売り上げを伸ばす好機となるだろう。
図表3 旅行消費額(国内旅行客、訪日外国人客、計前年比)/図表4 APAC内の宿泊者数の予測(2019年比)

4. コロナ禍でも巨大ホテルグループはさらに成長している

いずれ回復する観光市場を見据えて、コロナ禍の2020年においても事業を拡大しているホテルグループも多い。Hotelsによると、2020年の世界客室数1位はマリオット・インターナショナルで、142万室(前年比+5.5%)とコロナ過の下でも事業を順調に拡大した。日本国内では、2021年以降も都市型のWや郊外型のフェアフィールド・バイ・マリオットなどのブランドが次々と開業している。

2位の上海錦江資本(113万室、前年比+4.8%)、3位のヒルトン(102万室、前年比+4.9%)も客室数が増加した。ヒルトンは9月に、4位のIHGは2024年に、京都に最高級ブランドを開業または開業予定としている。8位の華住酒店集団(上海)も65万室(前年比+21.5%)と成長著しい。

国内ブランドで目を引くのはアパグループである。2020年は10.2万室(前年比+55.0%)に増加し、国内各地で積極的にホテルの所有権・営業権を取得する方針をとっている。

一方で、国内ブランドでは客室数を減らしたグループも多い(図表5)。オリンピック・パラリンピック需要により期待していた多額の収益機会の消失が影響しており、2021年以降も複数の国内ブランドが、保有するホテルの売却を公表している。明暗分かれる各ホテルグループであるが、現在の低迷期に追加投資を行えたか否かが、将来の回復期の売上の伸びに影響するであろう。
図表5 客室数ランキング(ホテルブランド別) 

5. おわりに

先行きが不透明な中、ホテルは業績が引き続き低迷しており、厳しい状況が続いている。しかし、今後については、2022年に旅行客数が2019年の水準まで戻ってくるとの予測もあり、いずれ国内旅行機運が高まり、ほぼ間違いなく回復期がやってくるものと考えられる。現在はとても大変な状況ではあるが、回復期の恩恵を受けるために、今が正念場なのではないだろうか。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2021年09月28日「研究員の眼」)

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