2021年04月12日

2021年のホテルの市場動向-ターゲット層は国内観光客、求められる積極的な運営姿勢

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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■要旨

コロナ禍が収束すれば、優れた観光資源が多く、競争力もある日本には、以前と同様に、毎年多くの訪日外国人客が訪れ、ホテルの収益性の改善が期待できるとともに、投資対象としてのホテル需要が高まるのは確実である。しかしながら、現状は、ホテルの収益性の低下と経営難が続いている。2021年のホテル市況はどうなるのであろうか。
 
2020年の世界全体の国際観光客数の実績値は、世界全体で前年比▲74%、エリア別(北東アジア)では、前年比で▲88%、日本への訪日外国人客数は前年比▲87%となった。訪日外国人客数、国内観光客数がともに減少するなかで、数少ない顧客の取り合いとなっており、宿泊料金は下げざるを得ず、売り上げの減少は避けられない。観光客数が停滞している状態では、収益改善のためにとれる手段は少なく、早期の観光客数の回復を祈るしかない状況にある。
 
しかし、2021年の先行きはまだまだ厳しい。国連世界観光機関(UNWTO)が、2020年1月に公表した、世界の国際観光客数の予測では、コロナ禍前の状況に戻るのは2023年末になると予測されている。さらに、UNWTOがアジアの観光関係者に行ったアンケートでは、「自国の国際観光の回復開始時期」は世界のエリア別では、最も保守的な回答となった。2019年の訪日外国人客数のうち、84%はアジアからの来日であり、訪日外国人客数の回復は、世界の平均的な時期より遅くなる可能性がある。
 
今後について明るい希望が持てる情報としては、コロナ禍前の日本の宿泊施設への延べ宿泊者数は、日本人が8割、外国人が2割であるということである。観光客数は一様に回復するのではなく近くから遠くへと徐々に回復することが予想されるが、国内観光市場の強さは、ホテル業績の早期回復に寄与するだろう。
 
加えて、2021年は金融機関のホテルに対する融資姿勢が変化するか否かに注意が必要であろう。仮にUNWTOの予測の通りであるとすると、今後、数年間はホテルの売り上げが回復しないかもしれない。その間を耐えきることができる見込みが低いほど、金融機関に借入金の返済を迫られる可能性が高くなる。
 
2021年のホテルの運営には、生き残りのために、財務の安定化、ハード・ソフト両面の構造改革、顧客ターゲット層の戦略的見直し、従業員のモラル維持など、攻守のバランスの取れた経営手腕が問われることになるだろう。

■目次

1. はじめに
2. 2020年の観光客数の動向
3. 世界の観光客数回復の予測
4. 国内観光市場の強さが早期回復に寄与か
5. 終わりに
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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