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- 外国人観光客のマスク着用は現実的なのか-観光業回復のため、選ばれる渡航先となるには
コラム
2022年06月10日
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1. はじめに
政府は2022年の6月10日より、外国人観光客の入国制限を見直し、旅行代理店等を受入責任者とする添乗員付きパッケージツアーの受入れを開始した。
2022年5月12日には国内の観光関連産業から「水際対策緩和に関する要望書」が国土交通大臣に提出され、5月17日にはシンガポールで行われた航空サミットで、アジア太平洋の地域の回復が遅い1原因に「ゼロコロナ政策を続ける中国と、外国人受け入れ再開に明確な計画を持たない日本が、他エリアとの格差を生んでいる」と名指しされた。制限付きではあるが、この短期間で制限緩和の姿勢を示せたことは、経済の観点から見ると歓迎すべきことではないだろうか。
2022年5月12日には国内の観光関連産業から「水際対策緩和に関する要望書」が国土交通大臣に提出され、5月17日にはシンガポールで行われた航空サミットで、アジア太平洋の地域の回復が遅い1原因に「ゼロコロナ政策を続ける中国と、外国人受け入れ再開に明確な計画を持たない日本が、他エリアとの格差を生んでいる」と名指しされた。制限付きではあるが、この短期間で制限緩和の姿勢を示せたことは、経済の観点から見ると歓迎すべきことではないだろうか。
2. 世界の水際対策の緩和状況
しかし、海外の状況をみると、水際対策緩和の流れは日本の先を行っている。国連世界観光機関(UNWTO)と国際航空運送協会(IATA)の公表によると、「外国人の入国に制限が何もない国」は2022年3月14日の8カ国・地域から、2022年6月1日の46カ国に増加した。うち31カ国(G7のうちイタリア、英国を含む)がヨーロッパに位置しており(図表1)、観光大国であるフランス、スペインも、陰性証明またはワクチン追加接種の義務化などの一部制限があるものの、外国人の入国制限、検疫、待機期間は解除されている。現在、ヨーロッパは最も開放的なエリアであると言えるだろう。
アジア太平洋では4か国・地域(モンゴル、アフガニスタン、ベトナム、北マリアナ諸島(サイパンなど))が水際対策を撤廃している。アジア太平洋内の観光大国は中国、日本、タイであるが、中国と日本が外国人に対して排他的な対応を取るなか、タイはヨーロッパの観光大国に近い対応を取っている。
アジア太平洋では4か国・地域(モンゴル、アフガニスタン、ベトナム、北マリアナ諸島(サイパンなど))が水際対策を撤廃している。アジア太平洋内の観光大国は中国、日本、タイであるが、中国と日本が外国人に対して排他的な対応を取るなか、タイはヨーロッパの観光大国に近い対応を取っている。
2 株式会社日本政策投資銀行、公益財団法人日本交通公社「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第3回 新型コロナ影響度 特別調査)」2022年2月28日
3 図表2、3の東アジアは日本、中国、香港、韓国、台湾である。また、図表3のASEAN(※)については相対的に訪日客数が多いタイ、シンガポール、マレーシア、 インドネシア、フィリピン、ベトナムの合計値を採用している。
3. 世界と日本のマスク制限の状況
また、日本政府は日本を訪れる旅行者に対して、6月7日に公表された各観光関係者向けの「ガイドライン」の内容遵守を求める。ガイドラインでは「事前に民間医療保険に加入してもらうこと」、「マスク着用や手指消毒の徹底」、「添乗員からの感染防止対策に関するこまめな注意喚起」などの留意すべき事項がまとめられている。厳しい条件が課される背景には、日本と異なり、外国ではあまりマスクをしていない人が多いとの認識があると思われる。
オックスフォード大学によると、2022年6月5日時点で「外出時は常時マスク着用」を課している国は、アジア太平洋では23%であるのに対し、南北アメリカでは4%と少なく、ヨーロッパでは0%である。また、「マスク推奨」あるいは「制限なし」の国は、アジア太平洋では6%であるのに対し、ヨーロッパでは45%、南北アメリカでは14%と高い。確かにこの数字を見ると、不安を覚える人も多いかもしれない(図表4)。
しかし、このデータにおいて、日本は「マスク推奨」の国、政府の規制という意味では、実は制限が緩い国に該当している。我々は、いわゆる周囲の目を意識し、暗黙の了解のなかで「外出時においても常時マスク着用が必要」という常識とか同調圧力の中で生活していることに改めて気づかされる。東京五輪の際にも外国からの訪日客には厳しいルールが課されたが、彼らのほとんどがマスコミや五輪関係者なので、訪日目的は仕事であり、マスク着用のお願いを守ってもらいやすい状況であったはずだ。
オックスフォード大学によると、2022年6月5日時点で「外出時は常時マスク着用」を課している国は、アジア太平洋では23%であるのに対し、南北アメリカでは4%と少なく、ヨーロッパでは0%である。また、「マスク推奨」あるいは「制限なし」の国は、アジア太平洋では6%であるのに対し、ヨーロッパでは45%、南北アメリカでは14%と高い。確かにこの数字を見ると、不安を覚える人も多いかもしれない(図表4)。
しかし、このデータにおいて、日本は「マスク推奨」の国、政府の規制という意味では、実は制限が緩い国に該当している。我々は、いわゆる周囲の目を意識し、暗黙の了解のなかで「外出時においても常時マスク着用が必要」という常識とか同調圧力の中で生活していることに改めて気づかされる。東京五輪の際にも外国からの訪日客には厳しいルールが課されたが、彼らのほとんどがマスコミや五輪関係者なので、訪日目的は仕事であり、マスク着用のお願いを守ってもらいやすい状況であったはずだ。
これからやって来る訪日客は、レジャーとして休暇を快適かつ楽しく過ごそうと日本を選んだ客であり、相対的にお願いを守ってもらいにくいことは容易に想像できる。また、訪日客の立場に立てば、日本における暗黙の了解は知りえないルールであり、政府が課す正式な法的な義務でなくとも、もっと具体的で明確な統一ルールを設定しない限り、徹底は難しいのではないだろうか。宿泊施設、観光施設など受け入れ側にとっても、本来は客商売であり、感染リスクの少ない室外ではマスクをはずし、笑顔で客を迎え入れたほうが良いはずだ。どのような状況になったらマスクを外してよいのか、もう少し具体的に明確化すべきように思われる。
4. おわりに
国内では、主要な観光地で順次ラグジュアリーホテルが竣工を迎えており、外国人観光客を物理的に受入れる環境はコロナ禍前よりも整いつつある。しかし、外国人の入国制限解除が決まったものの、世界的な制限緩和の流れの中で、日本は取り残されつつある状況に変わりはないように思う。勿論、新型コロナウイルスに関しては依然として分からないことも多く、必ずしも日本が外国の状況に追随する必要はなく、日本が独自の方法で対応していくことも重要であると思う。
しかし、経済の回復が他の先進諸国と比較して遅れていることも事実であり、そのことで苦しんでいる人も多くいる。特に観光業にとっては非常に厳しい状況が続いており、今回の政府の対応で、ようやく明るい兆しが見えてきたというところである。コロナ感染対策も引き続き重要ではあるが、外国からの訪日観光客への対応は、科学的データに基づく、より合理的なものになることを期待したい。受け入れ側にとっても、訪日客にとっても快適な環境を整えていくという視点を忘れずに水際対策、マスク制限などと、新型コロナウイルス感染症対応とのバランスを取り、より現実的な対応を検討することが必要だと思われる。
しかし、経済の回復が他の先進諸国と比較して遅れていることも事実であり、そのことで苦しんでいる人も多くいる。特に観光業にとっては非常に厳しい状況が続いており、今回の政府の対応で、ようやく明るい兆しが見えてきたというところである。コロナ感染対策も引き続き重要ではあるが、外国からの訪日観光客への対応は、科学的データに基づく、より合理的なものになることを期待したい。受け入れ側にとっても、訪日客にとっても快適な環境を整えていくという視点を忘れずに水際対策、マスク制限などと、新型コロナウイルス感染症対応とのバランスを取り、より現実的な対応を検討することが必要だと思われる。
(2022年06月10日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
2006年 総合不動産会社に入社
2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員
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