2022年02月28日

日本のホテル市場の回復は世界に遅れるのか-今年はさらに国別の回復速度の違いが拡大

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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■要旨

世界ではホテル市場において徐々に明るい展望が見えてきているようだ。国連世界観光機関(UNWTO)の公表によると、2021年の全世界の外国人観光客数は2019年比で▲72%とやや回復した。地域別ではアジア太平洋は▲94%なったが、中国市場への依存度の高さが原因と見られる。未だコロナ関連規制が強いアジア太平洋エリアを拠点とするホテルグループより、規制が緩和されつつある欧米を拠点とするホテルグループのほうが収益も回復しやすい状況である。
 
一方で、国内ブランドの業績は芳しくない。原因には、2020年東京五輪開催時に期待された収益が五輪延期後もほとんど得られなかったこと、増加する観光客を期待していた新しい施設の建設費用、人件費などが重なったことがあるだろう。収益の消失に対し、いずれも削減が難しい費用であり、各社の経営を圧迫していると見られる。
 
一般的に、コロナ禍前の状況に戻るまでには「(1)日帰り旅行の増加」、「(2)近距離旅行の増加」、「(3)遠距離旅行の増加」、「(4)海外旅行の増加」、の各段階の順といわれているが、今はどの段階だろうか。「(4)海外旅行の増加」の段階ではなく、「(1)日帰り旅行の増加」の段階は脱しているようだが、2021年は「(2)近距離旅行の増加」、「(3)遠距離旅行の増加」のいずれの段階だろうか。
 
最も近距離な宿泊旅行を、目的地が旅客の居住する都道府県内の旅行と考え、コロナ禍前の状況を確認してみると、2019年1月から11月に、居住する各都道府県から出発した宿泊旅客のうち、目的地が自身の居住する都道府県内である旅行客の割合は、全体では13.9%であった。
 
それが2020年4月から11月では、目的地が居住する都道府県内である旅行客の割合は、全体では29.0%、2021年1月から11月では、目的地が居住する都道府県内である宿泊旅客は29.5%となり、やや近距離の宿泊旅行が増加しているようだ。回復の段階に当てはめると、2020年はGo Toトラベルキャンペーンなどの影響で「③遠距離旅行の増加」する場面もあったが、2021年は居住地都道府県内近隣に留まるケースが多く、「②近距離旅行の増加」へやや戻り、回復が遠のいた年といえそうだ
 
国内では移動自粛の風潮が未だに強い。しかし、欧米では、各国政府が新型コロナウイルス感染をインフルエンザ等と同様に日常ととらえる向きに世論を着実に誘導しつつ、今後を見据え正常化に向けた行動を促すように政策転換をしているようだ。新型コロナウイルスをどう定義し、どのような国の施策を建てるかは、国ごとに異なると思われるが、今年は国毎のコロナ対策の違いによって、経済の回復速度の違いがさらに大きくなり、ホテル市場の回復にも相当な違いが出てくる年になるのではないだろうか。

■目次

1――2022年の世界のホテル市場は2019年の水準に迫る見通し
2――世界の外国人観光客数の回復状況
3――国内ホテルブランドの業績の状態
4――国内の宿泊旅客の推移
5――2019年の居住地と同じ都道府県内への宿泊旅客数
6――2020年の居住地と同じ都道府県内への宿泊旅客数
7――2021年の居住地と同じ都道府県内への宿泊旅客数
8――今後は国別の回復速度の違いが鮮明に
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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