2022年02月04日

住宅価格は上昇加速。オフィス空室率は上昇一服も賃料下落が継続-不動産クォータリー・レビュー2021年第4四半期

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1. 経済動向と住宅市場

国内経済は、2021年に入り一進一退の動きとなっている。2月15日に公表予定の2021年10-12月期の実質GDPは、前期比+1.4%(前期比年率+5.6%)と2四半期ぶりの大幅なプラス成長になったと推計される1。2021年9月末の緊急事態宣言の解除を受けて、外食、宿泊などの対面型サービス消費が高い伸びとなったことに加え、供給制約の緩和に伴う自動車販売の増加などから、民間消費が成長を牽引した。なお、2022年1-3月期もプラス成長を予想するが、新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、民間消費が再び減少に転じる可能性が高く、部品不足や工場の操業停止など供給制約による下押し圧力も再び高まっている。

経済産業省によると、2021年10-12 月期の鉱工業生産指数は前期比+1.0%と2四半期ぶりの増産となった(図表-1)。 業種別には、自動車が前期比+12.0%と高い伸びとなったが、半導体不足の影響が残る情報通信機械が同▲4.2%と2四半期連続のマイナスとなったほか、電子部品・デバイスは同▲3.8%と6四半期ぶりに低下した2

ニッセイ基礎研究所は、昨年12月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2021年度が前年比+2.7%、2022年度+2.5%、2023年度+1.7%を予想する(図表-2)3。実質GDP が消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年4-6月期)に戻るのは2023年4-6月期の見通しである。また、コアCPI上昇率は、2021年度が前年比0.0%、2022年度+0.9%、2023年度+0.7%と予想する。2022年度入り後には、コアCPI上昇率は1%台前半まで加速する見通しだが、需給面からの下押し圧力が残存すること、サービス価格との連動性が高い賃金の伸び悩みが続くことから物価の基調が大きく高まることは期待できない。
図表-1 鉱工業生産指数/図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、価格が騰勢を強めるなか、販売状況は底堅く推移している。

2021年12月の新設住宅着工戸数は68,393戸(前年同月比+4.2%)と10カ月連続で増加し、10-12月累計では22.0万戸(前年同期比+6.1%)となった(図表-3)。2019年同期比では▲1.4%となり、コロナ禍前の水準近くまで回復した。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2021年12月の首都圏のマンション新規発売戸数は6,649戸(前月同月比▲9.7%)と減少したが、10-12月累計では14,156戸(前年同期比+4.8%)と増加した(図表-4)。12月の平均価格は5,384万円(前年同月比▲4.2%)と6カ月ぶりに下落、㎡単価は80.6万円(同▲3.7%)と2カ月連続で下落、初月契約率は73.5%(前年同月比+10.9%、前月比▲6.4%)となった。2021年の販売戸数は33,636戸(前年比+23.5%)となり、2019年の水準(31,238戸)を上回った。不動産経済研究所によると、2022年は34,000戸と、2021年と概ね同水準になる見通しである4
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2021年12月の首都圏の中古マンション成約件数は2,881件(前年同月比+13.7%)と6カ月ぶりに増加し、10-12月累計で9,737件(前年同期比▲0.5%)と高水準で推移している(図表-5)。平均価格は4,116万円(前年同月比+10.1%)と19カ月連続で上昇し、㎡単価も64.1万円(同+11.5%)と20カ月連続で上昇した。2021年通年の成約件数は39,812件と2019年の38,109件を上回り、過去最高を記録した。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
日本不動産研究所によると、2021年11月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前年比+11.7%となり(26カ月連続上昇)、データが公表されている93年6月以降で最大の上昇率となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は緩やかな回復傾向にあるが、一部の商業地では下落している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2021年第3四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「40」(前回35)、横ばいが「30」(36)、下落が「30」(29)となった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では、マンションの販売状況が堅調で上昇している地区が増加した。商業地では、新型コロナウイルス感染症の影響により、下落している地区があるものの、再開発事業の進展等により、上昇に転じた地区がある」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(1月1日時点)は前期比+1.4%(年間+6.0%上昇)と6四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は42.6%(前回40.2%)、「値下がり」地点の割合は0.0%(前回3.0%)となった(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
オフィスセクターは、東京都心の空室率上昇に一服感が見られるが、先行きの不透明感は強い。三鬼商事によると、2021年12月の東京都心5区の空室率は2カ月連続で低下し6.33%(前月比▲0.02%)となった一方、平均募集賃料(月坪)は17カ月連続で下落し20,596円(前月比▲0.4%)となった。他の主要都市では、空室率が総じて上昇基調にあり(図表-9)、募集賃料は仙台と大阪を除いて前年比プラスで推移しているが、伸び率は鈍化している5
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」によると、2021年第4四半期の東京都心部Aクラスビルの空室率は3.2%(前期比▲0.1ポイント)に低下したが、成約賃料(月坪)は30,696円(前期比▲12.1%、前年同期比▲11.5%)と2014年第4四半期の水準まで下落した。三幸エステートは、「中心部以外においては、リーシング活動が長期化し募集床が現空となったビルで、賃貸条件を引き下げて後継テナントの誘致を促進する動きが広がっている」としている。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所・クロスロケーションズ「オフィス出社率指数」によると、東京都心部のオフィス出社率は2021年12月末に75%まで回復した。(図表-11)6。2021年9月末に緊急事態宣言が解除された後、緩やかにオフィス回帰が進み、感染拡大の第2波以降のレンジ(45~65%)の上限を上回った。2022年1月前半は70%以上の水準を維持しているが、1月後半はオミクロン株の拡大により、再びオフィス出社を抑制する企業が増えている。
図表-11 東京のオフィス出社率指数と新規陽性者数の推移
 
6 オフィス出社率指数は、スマートフォンの位置情報データをもとに東京都心部のオフィス出社率を推計したもの。算出方法の詳細は、以下を参照。
佐久間誠『人流データをもとにした「オフィス出社率指数」の開発について-オルタナティブデータの活用可能性を探る』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2021年6月2日)
5 2021年12月時点の募集賃料は、前年比で、札幌(+0.8%)・仙台(▲0.5%)・東京(▲6.4%)・横浜(+ 1.0%)・名古屋(+ 1.6%)・大阪・(▲1.1%)・福岡(+0.8%)となっている。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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