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ESGに関する国際的な枠組み(イニシアチブ)を学ぼう

金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志
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1――ESGに関する国際的な枠組み(イニシアチブ)の策定が進む
こうしたことから、国際的なESGに関するイニシアチブの概要を知ることは、ESG投資や資産運用業界の動向を理解する上で欠かせない重要な出発点となっている。本稿では、代表的なESGに関するイニシアチブについて説明したい。
2――代表的なESGに関するイニシアチブ
社会課題への取組みの方針については「国連グローバルコンパクト(UNGC)」や「RE100」、「気候変動枠組条約」などのイニシアチブがある。
国連グローバルコンパクト(United Nations Global Compact:UNGC)は1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)でコフィー・アナン国連事務総長(当時)が提唱した企業などがリーダーシップを発揮し、持続可能な社会を実現するためのイニシアチブである。「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」の4分野に関する10原則を軸に活動を行っている。
RE100は「Renewable Energy 100%」の略称で、企業などが事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブである。日本でも環境庁が普及の役割を担うアンバサダーとしてRE100に参加している他、多くの企業が参加している。
また、社会課題への取組みの方針は「気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change:UNFCCC)」、「ビジネスと人権に関する指導原則(National Action Plan On Business an Human Rights:NAP)」といった国際条約でも取決めがされている。
情報開示については「GRIスタンダード(Global Reporting Initiative:GRI)」、「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)」、「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(Carbon Disclosure Project:CDP)」といったイニシアチブがある。
GRIは、企業の持続可能性報告書について、全世界で通用するガイドラインを作ることを目的とした活動を行っており、環境報告書やCSRレポートを作成する際にも参考とされるグローバルスタンダードとなっている。また、近年注目が高まっている気候変動の分野では、国際機関や各国の規制当局がTCFDを重視する方針を示しており、その重要性が高まっている1。
ESGに関する開示は、開示基準を策定するイニシアチブが多数存在することによって企業の情報開示に関する負担が増加していると指摘されている。こうした負担の削減や共通した情報による評価を行うために、開示基準の収れんが求められている。
2021年11月、国際会計基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)の策定を担うIFRS財団は国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standard Board:ISSB)の設立を発表した。同時に、2022年6月を目処に、これまでESGに関する開示基準の策定を行ってきた気候変動開示基準委員会(Climate Disclosure Standards Board:CDSB)と価値報告財団(Value Reporting Foundation: VRF)をISSBに統合すると発表した。
投資や金融に関連するイニシアチブとしては「責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)」、「国連環境計画・金融イニシアティブ(United Nations Environment – Finance Initiative:UNEP-FI)」、「国際コーポレートガバナンスネットワーク(International Corporate Governance Network:ICGN)」、「グレスビー(Global Real Estate Sustainability Benchmark :GRESB)」が挙げられる。
UNEP-FIは国連環境計画(UNEP)と金融機関の自主的な協定とそれに基づく組織である。環境保護・社会の持続可能性に配慮した金融事業を推進するため、国連環境計画と各国の金融機関が調査や情報交換などを行っている。
GRESBは不動産分野の会社やファンドのESGへの配慮の評価を目的として、2009年に欧州の年金基金を中心に設立された。設立当初は不動産を対象としていたが、インフラ等にも評価対象を拡げており、それらのESG評価の基準として普及が進んでいる。GRESBには、日本でもJREIT各社などが参加している。
1 経済産業省(2020)
3――責任投資原則(PRI)
PRIは2006年当時の国際連合事務総長であるコフィー・アナンが提唱した、ESG投資に関する原則であり、ESGに配慮した投資を実際に行うための6つの原則から成り立っている(図表3)2。
PRIは、これらの原則のもと署名機関によるESG投資の実績を積み重ねることでESG投資の実例や知見を蓄積し、ESG投資のさらなる普及拡大を図っている。そのために、PRI事務局は署名機関に対してESG投資の研修プログラムや情報共有など様々な支援を行っている。
気候変動をはじめとした国際的な社会課題に個々の投資家が独力で対処するのは困難だ。しかし、PRIをはじめとしたイニシアチブのもとで各国の機関投資家が連携していくことが、国際的な社会課題への取組みを進める原動力となっている。
2 責任投資原則(PRI)
4――おわりに
ESGに関するイニシアチブは欧米を中心に策定されており、後発となっている日本は十分にプレゼンスを発揮できていないのが現状である。ESGに関するイニシアチブの影響力が国際的に強まる中、日本の企業や投資家も国際的なイニシアチブの策定に積極的に関与していくことが必要だろう。今後のESGに関するイニシアチブのさらなる改善や国内外での普及に期待したい。
3 金融庁(2021)
【参考文献】
経済産業省(2020),『TCFD開示を巡る現状と課題』,2020年5月28日
責任投資原則(PRI),『責任投資のビジョン』
金融庁(2021),『サステナブルファイナンス有識者会議事務局資料』,2021年4月22日
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(2021年11月17日「基礎研レター」)

03-3512-1860
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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