2021年08月17日

2021・2022年度経済見通し(21年8月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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(実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度)
2020年の日本経済は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた自粛要請や緊急事態宣言の発令によって前半に急速に落ちこんだ後、緊急事態宣言の解除を受けた経済活動の再開によって後半は想定を上回るペースで急回復した。しかし、緊急事態宣言が再発令されたことを受けて、2021年前半は経済活動の停滞が続いた。

2021年7-9月期は、緊急事態宣言の継続、対象地域の拡大から民間消費は前期比▲0.3%と低迷が続く一方、海外経済の回復を背景に輸出が堅調を維持すること、緊急事態宣言の影響を受けにくくなっている住宅投資、設備投資が増加することから、実質GDPは前期比年率0.8%のプラス成長を予想する。経済活動の水準が低いことを踏まえれば持ち直しのペースは鈍く、実質GDPの水準はコロナ後のピーク(2020年10-12月期)にも届かない。欧米との成長率格差は一段と鮮明となるだろう。

2021年10-12月期は緊急事態宣言の解除を前提として前期比年率5.2%の高成長になると予想する。行動制限が緩和されることにより対面型サービス消費が持ち直し、民間消費が前期比1.7%の高い伸びとなることが高成長の主因となる。ただし、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が断続的に発令され、消費が下振れるリスクは否定できない。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
先行きについては、ワクチン接種の進捗が感染抑制に一定程度寄与することが見込まれる。しかし、感染者数がゼロになることは考えにくく、変異株の出現や気温の変化などによって増減を繰り返す可能性が高い。

実際、諸外国の例をみても明らかなように、新型コロナウイルスの感染者数はワクチン接種率にかかわらず変異株の出現などによって増減を繰り返している。ここにきて日本の新規感染者数は大幅に増加しているが、ワクチン接種率が日本を大きく上回っている米国や英国の新規感染者数(人口100万人当たり)は、日本の約3倍、新規死者数(人口100万人当たり)は日本の約10倍となっている(8/15時点)。
新型コロナウイルスの新規感染者数(人口100万人当たり)
新型コロナウイルスの新規感染者数が増加するたびに、休業要請や外出自粛などの感染抑制策が講じられれば、経済の停滞は長期化するだろう。

実質GDP成長率は、2021年度が3.1%、2022年度が2.0%と予想する。経済活動の制限が緩和されたとしても、ソーシャルディスタンスの確保などが引き続き外食、旅行などの対面型サービス消費を抑制するため、消費の本格回復には至らない。民間消費は2020年度の前年比▲5.9%の後、2021年度が同2.9%、2022年度が同2.0%と大幅な減少の後としては低い伸びにとどまることが予想される。

一方、緊急事態宣言の影響を受けにくくなっている設備投資は、企業収益の改善を背景として2021年度に前年比4.0%と高めの伸びとなった後、2022年度も同3.8%と堅調を維持する。また、海外経済の回復を受けて輸出が2021年度に前年比14.1%と急増した後、2022年度も同3.6%と好調を維持することが成長率の押し上げ要因となるだろう。
実質GDPが元の水準に戻る時期 現時点では、実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年1-3月期、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度と予想している。しかし、先行きの新型コロナウイルスの感染動向やそれに対応する公衆衛生上の措置を想定することは極めて困難である。これまでと同様の政策対応が続けば、経済の正常化はさらに遅れる可能性が高まるだろう。
(高水準の貯蓄が将来の消費を押し上げる可能性も)
家計の貯蓄額は特別定額給付金の支給を主因として2020年4-6月期に74.3兆円(季節調整済・年率換算値)と急増した後、2021年1-3月期には26.9兆円まで減少したが、依然としてコロナ前の水準を大きく上回っている。特別定額給付金の影響一巡によって可処分所得はピーク時からは大きく減少したが、緊急事態宣言などによる行動制限によって家計貯蓄率が平常時よりも高い状態が続いているためである。家計貯蓄率は2015~2019年度の平均で1.3%だったが、2020年度には12.1%へと急上昇した。四半期ベースでは2020年4-6月期に21.8%へと極めて高い水準にまで上昇した後、2021年1-3月期には8.7%まで低下したが、平常時に比べると水準は高い。
家計の可処分所得、消費支出、貯蓄の推移 先行きについては、緊急事態宣言が解除されたとしても、当面は何らかの行動制限が残り、消費の持ち直しは限定的にとどまる公算が大きい。家計の貯蓄は可処分所得が低迷する中でも高水準が維持される可能性が高いだろう。通常は、可処分所得が伸びなければ消費の回復は期待できないが、現在は消費性向(1-貯蓄率)が人為的に抑えられているという特殊な状況にある。このため、たとえ可処分所得がそれほど伸びなくても、貯蓄率が平常時の水準に戻るだけで消費は大きく押し上げられる可能性がある。

今回の見通しでは、家計の貯蓄率は2020年度の12.0%から2021年度が5.7%、2022年度が4.1%へと徐々に低下するが、平常時の水準には戻らないことを想定している。仮に、行動制限が大幅に緩和され、2022年度の貯蓄率が平常時(2015~2019年度)の水準まで戻ったとすれば、家計消費額は約8兆円、年間の家計消費支出比で3%程度上振れる。
基準改定で下方改定された消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合) (物価の見通し)
8/6に総務省統計局から公表された消費者物価指数の基準改定(2015年基準→2020年基準)結果によれば、2021年6月の消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、旧基準の前年比0.2%から新基準では同▲0.5%となり、▲0.7%ポイント下方修正された。新基準の前年比上昇率は2021年1月に遡って改定され、2021年1~3月の下方修正幅は▲0.1~▲0.2%ポイントと小さかったが、4月以降に下方修正幅が大きく拡大した。これは、通信大手の低価格プラン導入による携帯電話通信料の大幅下落の影響が新基準のほうが旧基準よりも大きくなったためである。携帯電話通信料はモデル式の改定によって下落率が大きく拡大した(2021年6月の下落率は旧基準の前年比▲27.9%に対し、新基準では▲38.5%)ことに加え、ウェイトや指数水準が上昇したことにより、コアCPI上昇率への寄与度は旧基準よりもマイナス幅が▲0.5%ポイント程度拡大した。

旧基準のコアCPI上昇率は2021年5月に1年2ヵ月ぶりにプラスに転じていたが、基準改定に伴いプラス転化は幻となり、2020年8月以降マイナスが続いているという形に改められた。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 先行きについては、原油価格の大幅上昇を受けてエネルギー価格の上昇ペースが加速すること、食料品などで原材料価格上昇によるコスト増を転嫁する動きが徐々に広がること、8月以降は前年の「Go Toトラベル」による宿泊料の大幅下落の裏が出ることから、コアCPI上昇率は2021年10-12月期にはプラスに転じるだろう。携帯電話通信料の大幅下落の影響が一巡する2022年度入り後には、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで伸びが高まることが予想されるが、需給面からの下押し圧力が残存すること、サービス価格との連動性が高い賃金の伸び悩みが続くことから物価の基調が大きく高まることは期待できない。

コアCPI上昇率は、2020年度の前年比▲0.4%の後、2021年度が同0.0%、2022年度が同0.6%と予想する。

 
日本経済の見通し(2021年4-6月期1次QE(8/16発表)反映後)/ 
米国経済の見通し/欧州(ユーロ圏)経済の見通し
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年08月17日「Weekly エコノミスト・レター」)

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