2021年08月17日

2021・2022年度経済見通し(21年8月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2021年4-6月期は前期比年率1.3%のプラス成長

2021年4-6月期の実質GDPは、前期比0.3%(前期比年率1.3%)と2四半期ぶりのプラス成長となった。

外需寄与度が前期比▲0.3%(年率▲1.3%)と2四半期連続のマイナスとなったが、緊急事態宣言下でも民間消費(前期比0.8%)、住宅投資(同2.1%)、設備投資(同1.7%)の国内民間需要がいずれも増加し、外需の落ち込みをカバーした。公的固定資本形成は減少したが、ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が前期比0.5%の増加となったため、公的需要も増加した。
 
2021年4-6月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、1-3月期の落ち込み(前期比▲0.9%、年率▲3.7%)を取り戻していない。日本経済は2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、緊急事態宣言が再発令された2021年入り後は停滞が続いている。
コロナ前と比べた経済活動の水準 2021年4-6月期の実質GDPの水準はコロナ前(2019年10-12月期)を▲1.5%下回っている。政府支出(政府消費、公的固定資本形成)はコロナ前を大きく上回っており、海外経済の回復を背景に財の輸出も増加しているが、民間消費などの国内民間需要、インバウンド需要の蒸発を主因としてサービスの輸出がコロナ前を大きく下回っている。また、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2021年1-3月期の実質GDPは▲3.4%、民間消費は▲5.4%低い水準となっている。
(拡大する日米の成長率格差)
2021年4-6月期は米国が前期比年率6.5%の高成長となるなかで、日本は同1.3%の低成長にとどまった。実質GDPの水準をコロナ前(2019年10-12月期)と比較すると、米国が0.8%上回る一方、日本は▲1.5%下回っている。コロナ禍における実質GDPの推移を振り返ってみると、2020年前半の落ち込みはロックダウンが実施された米国のほうが大きく、2020年後半はほぼ同じペースで急回復した。2020年10-12月期時点では、コロナ前と比較した実質GDPの水準は日本が米国を若干上回っていた。しかし、2021年に入ると、米国がワクチン接種の進捗に伴う行動制限の緩和によって高成長を続けているのに対し、日本は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置によって経済活動が再び停滞し、日米の成長率格差は急拡大した。

コロナ前と比較した2021年4-6月期の実質GDPを需要項目別にみると、米国は輸出が引き続きコロナ前の水準を下回る一方、輸入が堅調に推移していることから、純輸出が実質GDPを▲2.1%押し下げている一方、個人消費がコロナ前の水準を3.1%上回り実質GDPを2.1%押し上げている。また、民間投資(住宅投資、設備投資)もコロナ前の水準を上回っている。

一方、日本は新型コロナ対応の経済対策などから政府支出が実質GDPを0.9%押し上げているものの、個人消費がコロナ前の水準よりも▲2.4%低く、実質GDPを▲1.3%押し下げている。また、民間投資(住宅投資、設備投資)は2021年4-6月期こそ高い伸びとなったが、依然としてコロナ前の水準は下回っている。
日米の実質GDPの比較/コロナ前と比較した実質GDPの水準(需要項目別寄与度)
このように、個人消費の動きが大きく異なることが日米の成長率格差の主因となっている。そこで、コロナ禍における日米の個人消費の動きを財別にみると、財消費は2020年4-6月期までは日米でほとんど差がなかったが、2020年7-9月期以降の伸びは米国が日本を大きく上回っている。この背景としては、米国のほうがオンラインショッピングの割合が高いこと、家計への給付金の規模が大きく可処分所得の伸びが日本を大きく上回っていることが挙げられる。直近の家計の実質可処分所得は米国がコロナ前を6.4%上回っているのに対し、日本は0.2%にとどまっている(統計上の制約から日本の直近は2021年1-3月期)。

サービス消費については、2020年中は日米がほぼ同じ動きとなっていたが、2021年入り後は米国がワクチン接種の進捗に伴うソーシャルディスタンシングの緩和を受けて回復を続ける一方、日本は行動制限を再び強化したため、低迷が続いている。サービス消費との連動性が高い小売・娯楽施設の人出を比較すると、2021年初め頃まではほぼ一貫して米国の減少幅が大きかったが、2021年4月以降は日本の減少幅が米国を大きく上回っている。
個人消費(財・サービス別)の日米比較/小売・娯楽施設の人出(日米比較)

2. 実質成長率は2021年度3.1%、2022年度2.0%を予想

2. 実質成長率は2021年度3.1%、2022年度2.0%を予想

(2021年7-9月期も低迷が続く見込み)
日本は2021年に入ってからほとんどの期間で緊急事態宣言かまん延防止等重点措置が実施されている。両方とも実施されていなかったのは1/1~1/7、3/22~4/4とわずかの期間に限られる。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域のGDPが日本全体に占める割合は、2021年1-3月期が40%、4-6月期が55%(期間中の平均)だったが、現在(8/17)は74%、8/20以降は86%まで高まる。コロナ慣れや自粛疲れの影響などもあり、緊急事態宣言による人流抑制効果は従来に比べると弱くなっているが、今夏の人出は昨年を下回る可能性が高いだろう。
「緊急事態宣言+まん延防止等重点措置」対象地域のGDP割合/小売・娯楽施設の人出
夏は通常であれば旅行需要が大きく高まる季節である。JTBの「夏休みの旅行動向見通し」によれば、2021年夏休みの国内旅行人数は4,000万人、前年比5.3%(前々年比▲44.8%)と推計されている。この調査は旅行動向アンケート、経済指標、業界動向や予約状況などからJTBが推計したものだが、7/12に東京都の緊急事態宣言が発令される前に実施されたアンケートをもとに分析されている(旅行動向アンケートの調査実施期間は7/5~7/9)。このため、実際の旅行人数は下振れる可能性が高い。
夏休みの旅行人数の推移/旅行関係支出の月別割合
「家計調査」で年間の旅行関係支出(宿泊料+パック旅行費)に対する月別の割合をみると、7月が9.9%、8月が13.3%、9月が8.6%(2015~2019年の平均)となっており、7-9月期が年全体の3割以上を占めている。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、移動の自粛が求められていることから、予約のキャンセルが相次いでいることが見込まれる。旅行関係支出の落ち込みが個人消費全体に及ぼす影響は他の四半期よりも大きくなるだろう。
(輸出、設備投資が景気を下支え)
緊急事態宣言の影響で民間消費の低迷は長期化する可能性が高いが、2020年春頃とは異なり、民間消費以外の需要項目は緊急事態宣言の影響を受けにくくなっている。
財別・実質輸出の推移 輸出は海外のロックダウンの影響で2020年前半に急速に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開を受けて2020年後半には急回復し、2021年入り後も堅調を維持している。財別には、半導体不足の影響などから自動車関連は低迷しているが、デジタル関連需要の拡大や世界的な設備投資の回復を背景に情報関連、資本財が好調を維持している。輸出はすでにコロナ前の水準を回復していることもあり増勢ペースは鈍化しているが、先行きについても世界経済の回復を背景として堅調を維持することが予想される。
設備投資は、新型コロナウイルス感染症の影響で企業収益が大きく落ち込んだことから2020年度には前年比▲6.8%の大幅減少となったが、2021年4-6月期は緊急事態宣言下でも前期比1.7%の増加となった。

日銀短観2021年6月調査では、2020年度の設備投資(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が2021年3月から大幅に下方修正され、前年度比▲9.7%と10年ぶりの減少となる一方、2021年度の設備投資計画は2021年3月調査から2.9%上方修正され、前年度比10.2%となった。
設備投資計画(全規模・全産業)/コロナ前(2019年度)と比較した設備投資の水準
2021年度の設備投資計画を業種別に見ると、運輸・郵便、対個人サービス、宿泊・飲食といった対面型サービス業は、2019年度の水準を下回っている一方、製造業、対面型サービス業を除く非製造業は、2019年度の水準を上回る計画となっている。

製造業を中心に企業収益が大きく改善する中、テレワーク拡大やデジタル化に向けたソフトウェア投資、製造業の生産活動の好調を受けた機械投資を中心に設備投資は持ち直している。先行きについては、対面型サービス業の建設投資が引き続き下押し要因となるものの、機械投資やデジタル関連投資が増加することから、設備投資全体としては回復の動きが継続することが予想される。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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【2021・2022年度経済見通し(21年8月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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