2021年06月17日

所有者不明土地への諸対策(3)-相続財産の管理

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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1――はじめに

第204回通常国会で可決成立した、民法等の改正による所有者不明土地対策の解説の第3回目は「相続財産の管理」である。所有者不明土地は相続発生後、遺産分割がなされないまま放置されることによっても生ずることも多い。特に相続人が地元にいないなど、相続財産の管理が不十分となって荒廃するようなケースを防止するのが、今回取り上げる相続財産の管理制度見直しにかかわる改正である。まずは相続発生後の流れを見てみよう(図表1)。
【図表1】相続発生後の流れ
ある人(被相続人)が亡くなったときには、死亡時点で被相続人の財産(権利・義務)は法定相続人(配偶者、子など)に包括的に引き継がれる(民法898条)。相続発生時点で財産は法定相続人の間で共有の状態にあり(民法第898条)、共有物である財産を分割する手続きをとらなければならない(民法第907条)。相続人は相続財産をそのまま引き継ぐ(単純承継という。第920条)のが一般であるが、被相続人の抱えていた負債が多いときは、その負債の範囲でのみ財産を引き継ぐ(限定承認という。民法第922条)か、あるいは相続を全く放棄する(相続放棄という。民法第936条)こともできる。相続人が存在しない場合や、相続人が全員相続放棄を行って相続人がいなくなった場合、相続財産は清算される(民法第952条)。

限定承認あるいは相続放棄をするためには、相続があったことを知った日から3か月(これを熟慮期間という)以内に家庭裁判所に申述をしなければならない(民法第915条)。申述を行わないまま3か月を経過すると単純承認となる(民法第921条第2号)。
 

2――問題の所在

2――問題の所在

1相続財産の管理
図表2は相続手続きの流れに、各段階において原則として管理を行わなければならない者を表示したものである。
【図表2】相続手続きの流れに、各段階において原則として管理を行わなければならない者
まず、上の段は、相続人が存在するケースである。(a)相続発生後の3か月の熟慮期間は法定相続人により管理が行われる(民法第918条第1項)。上述の通り、熟慮期間満了時までに、単純承認、限定承認または相続放棄を選択する。(b)単純承認の場合は、引き続き法定相続人による管理が行われる(民法第918条第1項)。なお、相続人が一人の場合であれば、単独相続人の所有物となるため遺産分割の必要はなく、管理を誰が行うかの問題自体が生じない。

限定承認がされた場合において、(c)限定承認者が一人の場合は、限定承認者が相続財産を管理する(民法第926条)。(c´)限定承認者が複数ある場合には、相続財産の管理者を選任しなければならない(民法第936条)。

相続放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法第939条)。この場合、(d)放棄によって相続することとなった次順位の相続人が管理を始めることができるまで、相続放棄をした者が管理を行う必要がある(民法第940条第1項)。たとえば「被相続人の子」が相続放棄をした場合に、次順位の相続人である、たとえば「被相続人の親」が相続するまでは、「被相続人の子」が相続財産を管理する必要がある。なお、相続放棄により相続人がいなくなった場合は、次に述べる相続財産法人となるが、法人の管理人が選任されるまで相続放棄者は管理を行わなければならない。

一番下の段は、(e)相続人が不存在あるいは相続放棄により相続人が全くいなくなったケースで、この場合、相続財産は法人となる(民法第951条)。相続財産法人に関しては、利害関係者あるいは検察官の請求により、法人に管理人が選任され、管理が行われる(民法第952条)。相続財産法人は債権者や相続人を探して、最終的には相続財産の清算を目指すこととなる。
2|相続財産の管理不全
これを相続財産の管理不全の場合にどうなるかをみてみよう。図表3を参照しつつ、お読みいただきたい。管理不全の場合に、管理人を選任して管理を行えるかという視点で確認する。
【図表3】相続財産の管理不全
まず、(a)相続人ありの場合における熟慮期間内において、相続人の管理が不十分な場合は、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所は相続財産の保存に必要な処分を命ずることができ、相続財産の管理人を選任することを命ずることができる(民法第918条)。この制度は、遺産を管理することによる、被相続人の債権者等の保護機能を持つとされている。利害関係人には相続人も含まれる。

ただ、注意すべきはこの相続財産の管理人は熟慮期間限定であり、単純承認が行われた後、すなわち(b)の場合には、現行法には管理を行うための制度がない1。そのため、熟慮期間経過後、相続財産の管理が不適切あるいはまったく行われない場合には管理を行う制度がないため、相続財産が荒廃することを防ぐことができない(課題1)。
 
1 ただし、遺産分割の調停または審判が申し立てられたときには遺産管理人の選任が可能である(家事事件法第200条)。
3|限定承認後・相続放棄後の財産管理
限定承認後の限定承認者による財産管理が不十分な場合であるが、上述の通り、限定承認者が複数いる場合は管理人が選任される。限定承認者が単独の場合、限定承認者による財産管理が不十分な場合には、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所は相続財産の管理人を選任することが命ずることができる(民法第926条第2項)。したがって、限定承認手続き((c)~(c’))においてはあまり問題がない。

次に(d)相続放棄であるが、上述の通り、相続放棄者は、次順位の者または相続財産法人の管理人が選任され、管理を引き継ぐまで管理義務を負う。

この点に関して、たとえば上京して居住している子が地方にある被相続人(親)の不動産を相続放棄したが、まったく管理ができないようなケースでは、相続放棄をした者の負担が重すぎるとの指摘があった(課題2)。
 

3――新しい相続管理制度

3――新しい相続管理制度

1相続財産の管理制度の修正
改正民法では、相続財産の管理人をいつでも選任できるようになった(改正民法第897条の2)。ただし、相続人が一人である場合に単純承認をしたとき、および相続人が複数人いる場合に相続財産分配が行われたとき、または相続人不存在により相続財産法人が設置され、清算人(現行民法では管理人。後述)が選任されている場合を除く。

簡単に言えば、これまで管理人の選任ができなかった上記(b)の時にも管理人を選任できるようになったということである(課題1への対応)。したがって、単純相続後、相続人間で遺産分割の決着がつかない間に、土地建物が荒廃するようなケースを防止することが可能となった(図表4)。

管理人が設置されないのは、既に相続人の権利が確定している場合(相続人が一人で単純承認をした場合と遺産分割が済んだ場合)である。加えて、清算人が選任されている場合であるが、これは従来の(c’)限定承認者複数の場合に選任される管理人、および(e)相続財産法人の管理人という用語を、いずれも清算人と変更した(改正民法第936条、第952条)ものである。なお、清算人の業務内容に変更はない。
【図表4】相続財産の管理制度の修正
2|相続放棄した者が管理義務を負う場合の限定
(d)相続放棄した者の相続財産管理については、「相続財産を現に占有しているとき」に限定されることになった(改正民法第940条、上記図表4の対応2)。したがって占有をしていないまま相続放棄した者は管理責任を負わない。この場合、別に相続人がいる場合にその相続人が管理を行うこととなるまでか、あるいは相続放棄者以外の相続人がいない場合であって相続財産法人の清算人による管理が可能になるまで、管理する者はいないことになる。
 

4――おわりに

4――おわりに

遺産分割にあたって遺産分割協議が成立しない場合は、相続人は遺産分割調停手続きを申し立てることができ、調停が成立しない場合には遺産分割審判が開始されることになる。また、相続人の一部が所在等不明である場合には、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることで遺産分割協議・調停・審判を進めることができる(民法第25条)。

ちなみに、相続開始から10年経過後には、本シリーズですでに解説した所在等不明共有者の持分取得や譲渡制度を利用することができる。ただし、これらの制度利用にあたっては、法定相続分で分割することが前提となるので、自身に寄与分がある(相続財産の増加に貢献した)などのケースでは、速やかに不在者財産管理人の選任申し立てを行い、遺産分割手続きを進めることが適切である。

本稿では、このように遺産分割手続きが必ずしも前に進んでいない、あるいは前に進まずに年数を経過してしまったケースに管理不全の土地発生防止を図るものである。

次回は、遺産分割の期間制限について解説する。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2021年06月17日「基礎研レター」)

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