2019年08月02日

改正相続法の解説(3)-配偶者が今の家に住み続けるには

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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■要旨

改正相続法は、居住用不動産を所有する被相続人が死亡した場合における、被相続人の配偶者の居住権を確保する三つの制度を設けた。配偶者短期居住権、配偶者居住権、および居住用不動産の持ち戻し免除の意思表示の推定である。
 
配偶者短期居住権は、被相続人死亡時後6ヶ月あるいは相続財産を分割する協議が成立してから6ヶ月間のいずれか遅いほうまで配偶者が無償で居住用不動産に住み続けられるという権利である。相続発生により当然に発生する権利であり、相続発生直後の配偶者の居住権を確保する制度である。
 
配偶者居住権は、遺言または遺産分割等によって、配偶者が居住用不動産に無償で住み続けられるとする権利である。存続期間を終身とすることもでき、たとえば子に居住用不動産の所有権を相続させ、他方で配偶者に配偶者居住権を遺贈するといった遺言をすることにより、遺留分の問題を回避しつつ配偶者の居住権を確保することが可能になる。
 
居住用不動産の持ち戻し免除の意思表示の推定は、20年以上婚姻期間のある夫婦の間で居住用不動産を贈与等した場合において、各相続人の具体的相続分を算定するにあたっては、この贈与分を考慮しないことを原則とする制度である。贈与分を考慮しないことで配偶者の最終的な財産の取得分を増加させる効果が生まれる。
 
女性のほうが平均余命は長いため、仮に夫婦が同い年であったとすると、平均的には妻が夫より5歳ほど長生きすることとなる。夫死亡後の妻の居住権の問題については是非考えておきたいポイントである。

■目次

1――はじめに
2――配偶者短期居住権
  1|遺言がないまま相続が発生した場合
  2|配偶者短期居住権
3――配偶者居住権
  1|配偶者居住権の概要
  2|配偶者居住権の価額
4――居住用不動産贈与の持ち戻し免除の意思表示の推定
  1|特別受益の持ち戻しとその免除
  2|居住用不動産贈与の持ち戻し免除の意思表示の推定
5――おわりに
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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