- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 政策提言 >
- 規制・制度改革 >
- 「脱ハンコ」推進と電子署名の活用促進の動き
法改正が必要なものについて、一括法による早期の法改正を目指した準備が進められている。また電子署名の普及推進については、この機を逃さないよう、規制改革推進会議のデジタルガバメントワーキング・グループを中心に検討がなされている。
本稿では、これまでの「脱ハンコ」をめぐる政府の対応の経緯についてまとめたい。
1――コロナを受けての「脱ハンコ」の緊急対応
また、民間事業者間の手続においては、「押印についてのQ&A」1を公表し、民事訴訟法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであるため、契約に当たって押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない、2ことを明示した。これにより、商慣行として定着している押印の廃止や、他の方法による代替を促す。代替方法としては、(1)取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存、(2)電子署名や電子認証サービスの活用、等を例示している。
1 内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日)
2 民事訴訟法第228条第4項に関する情報発信
2―――電子署名の2つの方式
一方、「立会人型」において実際に電子署名を行うのは、契約の当事者本人ではなく、電子署名サービスを展開する民間事業者のような第三者となる。クラウド6上に保管された契約書等の内容が真正であることを、契約締結を行う双方の当事者が確認し、契約書等に利用者の指示を受けた第三者である事業者が意思を介在させることなく電子署名を行うことで、真正性を担保する仕組みが一般的だ。「立会人型」は電子証明書の発行が不要なため、迅速な対応が可能であるというメリットを有している。しかし、電子署名の真正性を証明する認証業務を行うのが、第三者(事業者)であり、契約の当事者本人ではないことから、その効力を認める法的根拠は曖昧であった。電子署名法の成立時はクラウド技術が世界的に普及する以前であったため、「立会人型」電子署名のようなケースについては、法による想定がなされていなかった。契約方式自由の原則から、双方の当事者の合意の上では「立会人型」電子署名による契約であっても民法上契約は成立する。しかし、後に訴訟に発展してしまった場合の扱いについては、未だ判例が示されておらず、法的リスクが存在していることが、普及の障害となっていた。
3 書面取引における印鑑証明書に相当する、信頼できる第三者(認証局)が本人であることを電子的に証明するもの
4 電子署名の利用者本人が電子証明を行ったことを証明する事業者
5 電子署名法第3条
6 様々なITリソースを、インターネットを使って必要な時に必要なだけ利用できるサービスのこと。「クラウド」の名前は「ネット上のどこかにあるが、場所を意識する必要がない」という意味で雲の絵が使われたことに由来する。
3――電子署名の普及に向けた取組み
7月に公表されたQ&Aは、必ずしも利用者が物理的に自ら措置を行わずとも、利用者の意思に基づいていることが技術的・機能的に明らかであれば利用者が電子署名を行ったと評価できるとした。すなわち、契約当事者が直接電子署名を行った場合でなくとも、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、当事者の意思に基づいて電子署名が行われたことが明らかであれば、電子署名法上の電子署名としての要件を満たすということが示された。
9月のQ&Aでは、7月のQ&A時点では明らかにされていなかった、「立会人型」電子署名が電子署名としての要件を充足しているのかについての回答がなされた。「立会人型」電子署名のうち、「固有性の要件」(電子署名が本人、すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたものである、という要件)を満たしている場合、電子署名法上の電子署名として認められるということが、明示された。
これらのQ&Aによって、これまで立場が曖昧であった「立会人型」電子署名にいわば法的なお墨付きが与えられたような形になっている。普及の妨げとされていた法的リスクの解消により、今後、一層の「立会人型」電子署名の普及が期待される。
4――デジタル化の推進の成長への寄与に期待
7 内閣府「河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨(令和2年11月13日)」
このレポートの関連カテゴリ
坂田 紘野
研究・専門分野
(2020年12月22日「研究員の眼」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月19日
しぶといドル高圧力、一体いつまで続くのか?~マーケット・カルテ5月号 -
2024年04月19日
年金将来見通しの経済前提は、内閣府3シナリオにゼロ成長を追加-2024年夏に公表される将来見通しへの影響 -
2024年04月19日
パワーカップル世帯の動向-2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割 -
2024年04月19日
消費者物価(全国24年3月)-コアCPIは24年度半ばまで2%台後半の伸びが続く見通し -
2024年04月19日
ふるさと納税のデフォルト使途-ふるさと納税の使途は誰が選択しているのか?
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【「脱ハンコ」推進と電子署名の活用促進の動き】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「脱ハンコ」推進と電子署名の活用促進の動きのレポート Topへ