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少子化問題に影を落とす若年層の経済状況
基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.322]
坂田 紘野
1―少子化の一因は若年層の抱える経済的不安
実際、所得別に男性の未婚率を確認すると、年代を問わず、所得が低いほど未婚率が高い傾向が見られる。特に、年収300万円未満で男性の未婚率が高いという現状は、「300万円の壁」と認識され、課題となっている。
結婚した後、経済的なハードルの高さから理想の子ども数を持つことができない世帯も少なくない。国立社会保障・人口問題研究所が実施した「出生動向基本調査」によると、理想の数の子どもを持たない理由として最も大きいのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」であった。
これらの状況からは、若者・子育て世帯の中に経済的理由から結婚や理想の子ども数を持つことをあきらめる人が存在しており、そのために少子化が一層進展してしまっている可能性が浮かび上がる。
2―こども未来戦略方針の施策は子育て世帯への支援が中心
しかし、未婚の若年層が増えていることも少子化を引き起こす一因だ。未婚率は年々上昇傾向にある。それにもかかわらず、「加速化プラン」には、未婚の若年層やまだ子どもを持っていない世帯の経済状況の改善に資するような具体的施策はほとんどみられない。
だが、少子化問題の改善を図るにあたっては、これから子どもを持つ人々への支援もまた、重要であると思われる。かかる状況下において、若年層はどれほど経済的に苦しい状況に置かれており、なぜ、将来の経済的な不安を抱えているのだろうか。
3―20代の実質賃金水準は増加傾向
それにもかかわらずなぜ、少子化問題に関しては、若年層の経済的な不安が課題として取り上げられることが多いのだろうか。
4―それでも経済的に苦しい理由
第一に挙げられるのが、実質賃金水準は上昇しているものの、それとともに、租税負担率と社会保障負担率を合計した義務的な公的負担である国民負担率も上昇している点だ。直接税や社会保険料等の非消費支出が実収入を上回る水準で増加しているため、可処分所得の伸びは実収入よりも低い水準に留まっており、消費支出の増加にはつながっていない[図表2]。この点が、若年層にも経済的な苦しさをもたらしていると考えられる。
言い換えると、租税と社会保障の負担増大が、少子化の観点からは悪影響を及ぼしている可能性がある。財務省によると、1970年度には24.3%であった国民負担率(対国民所得比)は、2023年度には46.8%にまで増大する見通しだ。将来世代の潜在的な負担である財政赤字も加えると2023年度の見通しは53.9%に達する。
第二に、若年層、と一括りにできるほど、現在の若年層の経済状況は似通ってはいない点も指摘できるだろう。若い世代における経済状況の世代内格差は拡大傾向にある。そのため、貧しい若年層はかつてよりも経済的に厳しい状況に置かれていることが想定される。
厚生労働省の調査を基に各世代内における所得(当初所得)のジニ係数(0から1までの値をとる、分布などの均等度を示す指標)の推移を確認すると、中高年世代はジニ係数が小さくなる傾向がみられる世代が多いのに対し、30代が世帯主である世帯のジニ係数は大きくなる傾向にある。これは、30代における労働所得の格差が大きくなっている、すなわち世代内格差が広がっていることを意味している。
格差の拡大という点においては、非正規雇用労働者の賃金が低いことが、依然として大きな課題であり続けている。非正規雇用に当たる正社員・正職員以外の労働者の賃金は、男女いずれの場合も正社員・正職員よりも低い水準に留まっている。それに加えて、非正規雇用労働者の賃金カーブはほぼ横ばいに推移していることから、労働者にとって、将来賃金が上昇するだろうとの期待感も乏しいと思われる[図表4]。結果として、労働者の抱く将来への経済的な不安は大きくなってしまう。
5―おわりに
少子化問題について検討する際、個人の結婚・出生の選択の自由は最大限に尊重しなければならない。しかし、個人、あるいは世帯の希望が経済的要因等によって歪められていないかは考慮する必要があるように思われる。
岸田政権が目指す構造的な賃上げ、あるいはその前提ともいえる三位一体の労働市場改革やそれに伴う経済成長の実現等は、少子化問題の改善という観点からも極めて重要であると言えるものの、残念ながら一朝一夕に達成することは難しいだろう。
一方で、少子化対策は日本の喫緊の課題となっている。そうであるならば、非正規雇用である等を含めた経済的な要因で、未婚であったり、子どもを持たなかったりしている若年層が結婚し、子どもをもつことができるよう、経済的に支援する施策を実施することも一考に値するのではないだろうか。
(2024年01月11日「基礎研マンスリー」)
坂田 紘野
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