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- コロナ禍における遠隔教育-新型コロナウイルスで教育のICT化は進むか
本稿では、(1)新型コロナウイルスの感染拡大以前の遠隔教育に関する取組みについて、(2)遠隔教育がコロナ禍でどう変化し、どのような課題が生じたかについて論じる。
1――遠隔教育をめぐるこれまでの取組み: コロナ前の遠隔教育実施自治体は22%にとどまる
2018年に文部科学省によって「遠隔教育の推進に向けた施策方針」が作成された際にも、遠隔教育が効果を発揮する前提として、教師と児童生徒、児童生徒同士の人間関係の基盤が成立していることが不可欠との考えが示されている。そのうえで、政府は2023年度までに全国の小中学生に一人一台の通信端末を配備する等の「GIGAスクール構想」を推進することで、教育現場におけるICT環境の整備および教員のICT活用指導力の向上を目指した。2019年度の補正予算ではGIGAスクール構想の実現に向けて2,318億円が計上されている。
GIGAスクール構想が目指すのは、一人一人に個別最適化され、習熟度などに応じて柔軟に学習を進められるようにすることで、各児童生徒の力を最大限引き出すことのできる教育の実現だ1。そのために、(1)一人一台端末と大容量高速ネットワークのようなハード面の一体的な整備、(2)デジタルならではのコンテンツや学習活動といったソフト面の拡充、(3)日常的にICTを活用できる指導体制の構築2、などの実施を図る。
しかし、遠隔教育を実施する現場では、ハード・ソフト両面において課題が山積している。「遠隔教育の推進に向けた施策方針」では、新型コロナウイルスの感染拡大以前においての遠隔教育の実施に際するハード面の課題として、(1)遠隔教育を行うためのICT環境の整備や体制の構築が不十分であること、(2)指導計画等の作成や教材の準備に多くの時間や手間がかかることなどが、ソフト面の課題として、(1)教師から児童生徒への適時・適切な指導や評価が困難であること、(2)不測の事態が生じた場合の迅速な対処が困難であること、などが挙げられている。
さらに、遠隔教育を実施するにあたっては、規制として、(1)受信側3にも教員配置が必要である(文部科学省通知)、(2)原則出席扱いとならず、評価に反映されない(義務教育)、取得できる単位数に上限がある(高校、大学)(学校教育法施行規則等)、(3)教育を目的としていてもオンライン上での資料等の使用には著作権者からの個別許諾が必要である(旧著作権法4)、等が設けられており、遠隔教育実施のハードルを高くしていた。
1 内閣府「第7回経済財政諮問会議(萩生田臨時委員提出資料)」(令和2年5月15日)
2 文部科学省「『児童生徒1人1台コンピュータ』の実現を見据えた施策パッケージ」(令和元年12月19日)
3 机間巡視や安全管理を行う観点から、授業を受ける児童生徒のいる受信側には原則教員を配置するべきとされている
4 旧著作権法第35条、なお改正著作権法は4月28日に施行されている。
2――コロナ禍でもオンライン教材を活用した学習は29%にとどまる
政府は4月20日に閣議決定した緊急経済対策の中で、遠隔教育について実施すべき事項について言及している。ICT環境の早急な整備や遠隔授業に係る要件や単位取得数の見直しなど環境整備が実施される。また、オンラインカリキュラムの整備のような児童生徒の自宅学習の支援も行う方針だ[図表2]。このような施策により、子供たち誰一人取り残すことなく、最大限に学びを保障することを目指す。
児童生徒の学習機会を確保するための取組みを行っているのは政府ばかりではない。民間企業もまた、様々な取組みを行っている。例えば、リクルートマーケティングパートナーズ社は自社のオンライン学習サービス「スタディサプリ」を4月末まで学校や自治体に無償提供した。早稲田アカデミーはZOOMを活用した「双方向WEB授業」や「オンデマンド授業」を実施している。対面授業は順次再開しているが、オンライン授業も継続して受講可能とする方針だ。新型コロナウイルスによって学びを止めないためにも、このような民間企業の動きは非常に望ましいと考える。一方で、民間教育サービスは、受けられる人とそうでない人が存在する。コロナ禍という特殊な状況下では、児童生徒によって受けられる学校教育や民間教育サービスの質が異なることで教育格差が拡大してしまう恐れもある。そのため、誰もが受けられる公教育に期待される役割は大きい。
3――おわりに
政府はハード・ソフト・人材が一体となったICT環境の整備を急いでいる。ICT環境の不足が一挙に解消されれば、遠隔教育の大きな転機となりうる。もっとも、遠隔教育を実施できるような環境が整備されたとしても、遠隔教育をどう活用していくか、という課題への取組みはまだ始まったばかりだ。社会のICT化が進む中で、教育とICTがどう関わるべきかの議論は避けられない。今後、教育におけるICT活用は次第に実行段階へと移行していくだろう。そこで出てきた課題を整理し、改善を繰り返していくことで学びのための環境が良くなっていくことに期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
坂田 紘野
研究・専門分野
(2020年06月26日「研究員の眼」)
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