2019年12月10日

被用者の心身のストレス反応-基本属性による違い

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――ストレスチェックは「ストレスの原因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3部構成

図表1 高ストレス者の定義例 1|高ストレス者の判定には「心身のストレス反応」の有無が基準となる
「職場ストレス簡易調査票」は57項目の質問からなる。その内訳は、「ストレスの原因」に関する質問が17項目、ストレスによっておこる「心身のストレス反応」に関する質問が29項目、ストレス反応に影響する因子として「周囲のサポート」に関する質問が9項目、その他「仕事や家庭の満足度」が2項目である。

高ストレスかどうかを判定する際には、ストレスによっておこる「心身のストレス反応」の有無が、判断基準の1つとなる。また、本人が心身のストレス反応に気づいていなくても、仕事による負担が大きすぎる等の「ストレスの原因」がある場合や、心身のストレス反応に影響する「周囲のサポート」が不十分だと考えられる場合は、対策が必要となる。そのため、厚生労働省では、

(1) 「心身のストレス反応」が高い者
(2) 「心身のストレス反応」が一定以上あり、かつ「ストレスの原因」及び「周囲のサポート」に関するストレスが著しく高い者

のいずれかに当てはまる従業員を、高ストレス者と判定し、改善策をとることを推奨している(図表1)。この判定方法以外に、自社で基準を別途設定している会社もある。
2|「心身のストレス反応」は6つの指標に整理される
この調査で測定している「心身のストレス反応」は、「活気3」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」「身体愁訴」の6つの指標(尺度)に整理できる。各指標はそれぞれ図表2の質問項目で構成され4、それぞれ所定の算定方法5に基づいて5段階(高、やや高、ふつう、やや低、低)で評価される。
図表2 「ストレス反応」における6つの指標(尺度)
 
3 「活気」は図表2の各質問項目が当てはまらないほど、それ以外は各質問項目が当てはまるほど、ストレスが高いと定義
4 回答は「ほとんどなかった」「ときどきあった」「しばしばあった」「ほとんどいつもあった」の4段階
5ストレス度合の評価は、回答をそのまま得点化した合計値で判定する方法と、指標(尺度)ごとに換算表を使って判定する方法がある。換算表は、男女の特性を反映して、男女別に作成されている。本稿では、換算表を使った判定方法を採用した。
3|「ストレスの原因」「周囲のサポート」も「心身のストレス反応」に影響する
「職場ストレス簡易調査票」の57項目の質問項目のうち、17項目は「ストレスの原因(9指標)」を、9項目は「周囲のサポート(3指標)」を測定している(図表3)。これらの指標に関するストレス状況も「心身のストレス反応」と同様に、所定の算定方法に基づいて、5段階で評価される。

ストレスの原因や周囲のサポートは、心身のストレス反応に大きく影響すると考えられるため、これらのストレスが「高」と分類された人の「心身のストレス反応」について後述する(図表7)。
図表3 「ストレスの原因」9指標と「周囲のサポート」3指標

2――ストレスが「高~やや高」は7割以上

2――ストレスが「高~やや高」は7割以上~男性と若年で「抑うつ」「身体愁訴」、女性と中年層で「活気」面でのストレス

1|ストレス反応の6つの指標いずれかが「高~やや高」は7割以上
心身のストレス反応の6つの指標別に5段階評価の分布をみると、ストレスが「高~やや高」の割合はいずれの指標も3~4割にのぼった(図表4)。指標別にみると、「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」は、「ふつう」の割合が最も高く、次いで「高~やや高」、「低~やや低」の順となった。一方、「抑うつ感」「身体愁訴」は、「高~やや高」の割合が最も高く、次いで「低~やや小」であり、高いか低いかで二分される傾向が見られた。
図表4 「心身のストレス反応」ストレス状態の分布 6つの指標すべてが「ふつう~低」だったのは全体の26.7%にとどまり、残る76.3%はいずれかの指標で「高~やや高」だった(図表略)。すべての指標が「高~やや高」だったのは全体の5.6%だった(図表略)。

もっともストレスが高い「高」に注目すると、「活気(23.5%)」、「身体愁訴(20.1%)」が2割を超えて高く、「不安感(8.4%)」「疲労感(9.7%)」が1割未満と低かった。
2|男性と若年で「抑うつ」「身体愁訴」、女性と中年層で「活気」面でのストレスが高い
ストレスが「高」の割合を属性別にみると、男女、および年齢によって特徴があり、男性で「抑うつ」「身体愁訴」が、女性で「活気」面でのストレスが高かった(図表5左)。また、若年ほど「不安感」「抑うつ」「身体愁訴」が高く、「活気」面でのストレスは54歳までは年齢が高いほど高かった(図表5右)。「イライラ感」「疲労感」は54歳以下でほぼ一定だった。55~64歳は、全般的に低かった。
図表5 心身のストレスが「高」の割合
男女それぞれについて雇用形態、本人年収、家族構成別にみると、男性は有期雇用(フルタイム)と本人年収が300万円未満、未婚者で全般的に高く、本人年収が700万円以上と既婚者(配偶者有)で全般的に低かった(図表6)。
図表6 心身のストレス反応が「高」の割合【雇用形態、本人年収、家族構成】
一方、女性は、男性と比べて雇用形態や本人年収による顕著な差は見られなかった。家族構成による差はやや見られ、既婚者(配偶者有)、特に子どものいる人で全般的に低く、離死別者、特に子どもがいる人で高い傾向があった。
 

3――対人関係、仕事のコントロール度、仕事の負担(量)によるストレスの影響範囲は大きい

3――対人関係、仕事のコントロール度、仕事の負担(量)によるストレスの影響範囲は大きい

最後に、同じく職業性ストレス簡易調査票による「ストレスの原因」9指標と、「周囲のサポート」3指標で、もっともストレスが高い「高」と評価された人のストレスが「高」の割合をみる(図表7)。

これによると、仕事の負担(量)で「イライラ感」「疲労感」「不安感」「身体愁訴」が、仕事の負担(質)で「不安感」が、対人関係でのストレスで「活気」「イライラ感」「疲労感」「抑うつ」「身体愁訴」が、仕事のコントロール度で「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ」「身体愁訴」が、仕事の適性度で「活気」「抑うつ」が、働きがいで「活気」が、それぞれ高かった。対人関係や仕事のコントロール度、仕事の負担量でのストレスは、心身のストレス反応を示す6つの指標の多くに影響を及ぼしているようだった。

「周囲のサポート」は、「ストレスの原因」と比べてで「高」の人ほど高くはなかったが、上司からのサポートが総じて高い傾向にあった。
図表7 心身のストレス反応が「高」の割合【ストレスの原因、周囲のサポート】

4――まとめ

4――まとめ

今回の結果によると、7割もの被用者が6つの指標のいずれかでストレスが高い評価に分類された。

ストレス反応のうち、「不安感」「抑うつ」「身体愁訴」は、若年ほど高く、55~64歳は、いずれも低い傾向があった。

性別にみると、男性は「抑うつ」「身体愁訴」が、女性は「活気」が高い傾向にあった。男性は、雇用形態や年収によってストレス状況が異なっていたが、女性は男性ほどの顕著な差は見られなかった。

ストレスの原因別にみると、要因によって心身のストレス反応との関係は異なるが、対人関係や仕事のコントロール度、仕事の負担量でのストレスは、心身のストレス反応を示す6つの指標の多くに影響を及ぼしているようだった。

年齢によるストレス反応の違いは、若年は、仕事上のスキルが十分に備わっていないだけでなく、役割や期待等が不明確なことが多い等といった仕事をする上でのストレスの他、家庭もキャリアも形成期にあり、将来に対する不安が高い時期であること等によってストレス反応が高くなっていると考えられる。また、男女の違いは、一般に、男性の方が、女性と比べて一様に安定した収入を期待される傾向がある一方で、女性は世帯構成や収入にあわせた働き方をするケースもあることから、女性のストレス反応は自身の就労状況以外の要因を多く含んでいる可能性が考えられる。

心身のストレス反応に与える影響は、性、年齢、雇用形態や収入の違いだけでなく、各世帯での役割の違い等から就労目的や職場環境等でも異なると考えられる。そこで、次号では、就労に対する考え方と職場環境が心身のストレス反応に与える影響をみる。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2019年12月10日「基礎研レポート」)

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