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鬱憤社会、韓国:なぜ若者は鬱憤を感じることになったのか?
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
1――10人に4人が鬱憤状態、若い人ほど多い
ソウル大学の研究チームは、ドイツのシャリテ大学のミハエル・リンデン教授やその研究チームが開発した「鬱憤測定調査票」を用いて、韓国人の鬱憤状態を測定した。「鬱憤測定調査票」は、最近1年間に「心を傷つけられ、かなり大きな鬱憤を感じたことがあったのか」、「思い出すたびに、非常に腹が立つ出来事があったのか」、「相手にリベンジしたいと思わせる出来事があったか」などの19の調査項目に対して本人の状況を0から4までの選択肢の中から回答させ、鬱憤の状態をチェックするようにしている。調査では、19項目に対する平均点数が2.5点以上であると、「重度の鬱憤状態」、1.6~2.5点の間であると「継続的な鬱憤状態」として判断する(0:全くなかった、1:ほとんどなかった、2:少しあった、3:多くあった、4:非常に多くあった)。
今回の調査結果によると、回答者のうち、慢性的に鬱憤を感じている人の割合は43.5%(重度の鬱憤状態10.7%、継続的な鬱憤状態32.8%)を占めていることが明らかになった。鬱憤が「重度の鬱憤状態」である人の割合はドイツの調査結果(2.5%)の4倍を超えている。年齢階層別に見てみると、若い人ほど鬱憤状態にある人が多い。「重度の鬱憤状態」の割合は20代が13.97%で最も高く、次いで30代(12.83%)、40代(8.70%)、50代(7.63%)、60代(7.27%)の順であった(図表1)。また、世帯人員が少ないほど鬱憤状態にある人が多く、1人世帯における「重度の鬱憤状態」である人の割合は21.56%に達した。
2――なぜ鬱憤を感じることになったのか?
現在、韓国では高卒者の約7割が大学に進学し、在学中には就職の役に立ちそうなスペック積みに熱中する。スペック(SPEC)とは、Specificationの略語で、就業活動をする際に要求される大学の成績、海外語学研修、インターン勤務の経験、ボランティア活動、各種資格、TOEFLなど公認の語学能力証明などを意味する。数年前までには大学名、大学成績、TOEIC成績、海外への語学研修経験、資格証といういわゆる5大スペックが就職するための必修条件であったが、最近は、既存の5大スペックに、ボランティア活動、インターンシップの経験、受賞経歴を加えた、8大スペックが基本になっているという。
しかし多くの若者は、世界一厳しいと言われる受験戦争を終え、大学に進学しても理想の仕事を見つけることが難しく、失業状態に置かれている。あるいは、パートやアルバイト等の非正規労働者として、社会に足を踏み出している。問題は、非正規職として労働市場に参入すると、なかなか正規職になることが難しいことだ。多くの若者が食べていくのに精一杯で恋愛、結婚、出産(三放世代)を諦め、人間関係(就職)やマイホームも諦め(五放世代)、さらには夢や希望も諦めている(七放世代)。昔は、頑張れば成功できると信じて、多くの若者が頑張った。しかしながら、最近は生まれつきの不平等が拡大し、「どぶ川から龍」が出ることが難しくなった。
さらなる問題は、世の中に不公正が蔓延していることである。朴槿恵前大統領の知人の娘が不正入学したこと等に若者の怒りは燃え上がり、多くの若者がキャンドル集会に参加し大統領の退陣を求めた。その結果誕生したのが、現在の文在寅政権である。文在寅大統領(以下、文大統領)は、2017年5月10日の大統領就任演説で、「機会は平等であり、過程は公正であり、結果は正義に見合う」社会の実現を約束した。しかしながら、所得主導成長政策は計画した通り成果が出ず、経済は窮地に追い込まれた。
さらに、文政権への期待や信頼が大きく崩れる事件も起きてしまった。法務部長官に任命された曹国氏の、資産形成過程の不透明さや、娘の不正入学疑惑などが明らかになったことである。曹国氏に対する国民や若者の信頼度が大きかった分だけ、失望感も大きかった。多くの若者が、怒りや鬱憤を感じたに違いない。その中で最も鬱憤を感じたのは、もしかすると、20代男性かも知れない。彼らの文大統領に対する支持率が、大きく低下したからである。20代男性の文大統領に対する支持率は、2017年6月の87%から、2019年10月2日には31%まで低下し、他の年齢階層の支持率を大きく下回っている。
3――厳しさ増す若者の雇用
4――公正な社会を実現し、鬱憤を解消するための対策を
皆が、上位20%や上位1%になることはできない。しかしながら、80%や99%に属していても、機会の平等があり、自分が努力したことが報われれば、それは公正な社会に近いであろう。若者が望む公正な社会を実現するために、また若者の鬱憤を解消するために、何をすべきかを韓国政府は真摯に検討する必要がある1。
1 本稿は、ニューズウィーク日本版に掲載された「【鬱憤】なぜ多くの韓国人、特に若者は鬱憤を感じることになったのか?」を修正・ 加筆したものである。https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2019/11/post-5.php

03-3512-1825
(2019年11月15日「研究員の眼」)
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