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2025年06月06日

“サヨナラ”もプロに任せる時代-急増する退職代行サービス利用の背景とは?

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.339]

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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最近、若者の間で退職代行サービスを利用するケースが増えている。退職代行とは、労働者本人に代わり、代理人や弁護士が会社に退職の意思を伝えるサービスである。以前は主に弁護士が業務の一環として対応していたが、近年、利用者の増加に伴い、退職代行を専門とする企業が続々と登場している。退職代行業者の利用料はおおむね3万円程度であり、伝え方は弁護士が監修しているため、退職が成立する確率が高いとされる。退職代行業者は、会社側に依頼者の辞表を伝達するとともに、「本人と直接連絡を取らないこと」、「私物は郵送または廃棄すること」といった注意事項を伝える。

2023年10月にエン・ジャパン株式会社が実施したアンケート調査 (有効回答者数:7,749人)によると、退職代行サービスの認知度は全体で72%に達した。また、年代別に見ると、20代は83%、30代は78%、40代以上は64%と、若い世代ほど認知度が高いことが分かった。さらに実際に退職代行サービスを利用したことがある人の割合は全体で2%にとどまったが、20代では5%と、40代の1%を大きく上回る結果となった。

「退職代行サービスを利用したことがある」と回答した人に、その主な理由を尋ねたところ、「退職を言い出しにくかったから」(50%)、「すぐに退職したいから」(44%)、「人間関係が悪かったから」(32%)、「パワハラやセクハラの被害に遭っていたから」(31%)、「退職を認めてもらえなかったから」(27%)が上位5位を占めた。

一方、「退職代行サービスを利用したことがない」と回答した人にその理由を尋ねたところ、最も多かったのは「退職の意思は自分で会社に伝えるべきだと思うから」(44%)であった。次いで、「金銭的な負担があるから」(26%)、「お世話になった会社や同僚に失礼だから」(24%)という回答が続いた。

また、東京商工リサーチが2024年6月に実施した調査結果によると、大企業の18.4%、中小企業の8.3%が、退職代行業者から社員の退職手続きの依頼を受けた経験があることが分かった。業種別では、「洗濯・理容・美容・浴場業」が33.3%で最も多く、次いで「各種商品小売業」(26.7%)、「宿泊業」(23.5%)、「物品賃貸業」(22.2%)の順となった。

昨今、生産年齢人口の減少に伴う労働力の供給制約の中で、現在は売り手市場であり、転職する労働者は増加傾向にある。厚生労働省の調査結果によると、2021年3月に卒業した新規学卒就職者の3年以内の離職率は34.9%で、前年と比べて2.6ポイント上昇した。また、総務省の「労働力調査」によると、2023年に転職を希望する人は1,007万人に達し、就業者数6,738万人の14.9%を占めた。転職を希望する人が1,007万人を超えたのは、調査開始以来初めてのことである(2022年に転職を希望した人は968万人だった)。

転職の理由は年齢層によって多少の差があるものの、一般的に「人間関係が良くない」、「仕事内容に不満がある」、「給与が低い」、「会社の将来が不安である」といった点が主な要因であると考えられている。しかし、転職に伴う退職時に会社へ伝える理由と、実際の退職理由には大きな差があるのが現状である。

エン・ジャパンが2024年8月に実施した調査結果によると、退職時に会社へ伝えた理由としては、「他の職種に挑戦したいから」(22%)、「人間関係が悪いから」(21%)、「家庭の事情で」(21%)が上位3位を占めた。一方で、会社には伝えなかった実際の退職理由としては、「人間関係が悪いから」(46%)、「給与が低いから」(34%)、「会社の将来に不安を感じたから」(23%)が上位3位となった。特に、実際の退職理由を見ると、本人の事情よりも、会社の人事制度や待遇への不満、将来への不安が多いことがうかがえる。こうした会社に直接伝えにくい理由が、若年層による退職代行サービスの利用増加の背景になっていると推測される。

1995年にピークに達した生産年齢人口は2070年にはピーク時の2分の1に、2010年にピークに達した総人口は2070年には3分の1まで減少すると予測されている。少子高齢化の進行に伴い、生産年齢人口が減少し、将来の労働力人口の減少が予想される中で、特に若年層を中心とした転職者の実際の退職理由を正確に把握し、それに対する適切な対策を講じることがますます重要になっている。退職時に会社へ伝えた理由と、実際の退職理由との間のギャップが解消されない限り、若年層をはじめとする労働者による退職代行サービスの利用は、今後さらに増加する可能性が高いと考えられる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月06日「基礎研マンスリー」)

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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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