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大学進学率は高ければ良い訳ではない-日韓の進学率や就業率の比較を通じて

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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韓国の大学進学率(以下、進学率)は、OECD加盟国の中でも高い水準にあるが、最近に入って少しずつ低下している1。2008年に83.8%で頂点に達した韓国の進学率はそれ以降下がり続け、2010年には79,0%2まで低下しているが、まだOECD加盟国の平均(2008年、57%)を大きく上回っている3 。
では、日本はどうだろうか。2010年における日本の進学率は56.8%で韓国を大きく下回っているが、進学率の詳細を見ると、韓国とほぼ変わらないことが分かる。つまり、日本の進学率56.8%は大学や短大への進学率だけを示しており、ここに専門学校等を含めた高等教育機関への進学率22.9%をプラスすると日本の進学率は79.7%になる。これは同年の韓国の進学率79.0%を上回る数値である。 韓国には日本の専門学校のような高等教育機関が少なく、専門学校の代わりに短大に進学している学生が多い。例えば、韓国における2010年の短大への進学率は24.6%(男性23.4%女性26.0%)で、同年の日本の短大への進学率45.9% (男性1.4%、女性10.8%)を大きく上回っている。
日本と韓国の高等教育機関への進学率に大きな差がないことが分かったが、卒業後の就職率はどうだろうか。日本における大卒者の就職率が分かる代表的な調査は、厚生労働者の「平成23年度大学等卒業者の就職状況調査」と文部科学省の「平成24年度学校基本調査」がある。両調査における2012年大卒者に対する就職率は前者が93.6%であることに比べて、後者は63.9%で前者の方が圧倒的に高く表れた。このように就職率が大きく異なる理由としては、前者が就職希望者に占める就職者の割合を基準にしていることに比べて、後者は就職を希望していない人数も入れた卒業者のうち、就職できた人数の割合を就職率として定義しているからである。つまり、就職希望者数は段々減少していくので、前者の就職率は分母を絞ることにより、過大になっている可能性が高い。従ってここでは後者の就職率63.9%を用いて韓国との比較を行う。同時点における韓国の大卒就職率は54.5%であり、日本に比べて9.4%ポイントも低い。「失われた20年」とも言われている日本の方が、サムスンや現代自動車などの躍進が続いていると言われている韓国より高い就職率を見せている。これは何を意味しているのか。
韓国の大卒就職率が低い最も大きい要因として考えられるのが学歴別需要と供給のミスマッチである。韓国雇用労働部が4月に発表した「2011~2020中長期人材需給見通しと政策課題」では、2020年まで高卒の新規人材に対する需要見通しは約99万人で、供給見通し約67万人を大きく上回り、高卒人材に対する労働力不足が起きると予想している。一方、短大卒以上の新規人材に対する需要見通しは約416万人で、供給見通し約466万人より50万人も少なくなると予想した。つまり、大卒人材が市場の需要を大きく上回って供給されているのである。ミスマッチ以外の要因としては、韓国の労働市場そのものが日本より狭いことや、1997年のアジア経済危機以降企業の経営方針がより利益中心型に変わったことが考えられる。
現在、韓国社会は「大卒=出世」あるいは「大卒=すべての始まり」という意識が蔓延しており、学歴インフレによる無駄な教育費が支出されている。最近の報告書5では「大卒者の最大42%が過剰供給であると判断し、彼らが大学に進学せず生産活動に参加した場合(一人当たりの機会費用を1億2千万ウォンに計算)にGDP成長率は1.01%ポイント上昇する」と推計している。
世界で最も過酷だと言われている受験戦争を終え、大学に入った若者にとって、大学は学問を探求する象牙の塔であるよりは、親の干渉から解放された自由な遊び場と化してしまう可能性が高い。もちろん自分の将来を夢見て頑張っている学生もいるが、自分の将来に対して何の目標もないままに、4年間の大学生活を送る学生も多数存在する。彼らの多くは周りの友たちが行くから、自分だけが取り残されるのがいやだからという理由だけで大学への進学を選択した可能性が高い。大学を出ないと無視される社会的差別や大卒者と高卒者の間に存在する賃金格差なども、[高い進学率→大卒者の過剰供給→若年失業者の大量発生]という悪循環が改善されない原因になっている。
最近の大学の図書館は専門的な知識を探求する場所というよりは、公務員試験やより認知度の高い大学への編入試験の準備をするための塾の自習室のように変わってしまった気がする。今後、大学が本来の役割を果たしていくためには、本当に大学で勉強したいという意思を持っている学生だけを受け入れて教育していくべきである。学歴に関係なく仕事で認められる社会が構築されると、その日はより早く来るだろう。
(2012年08月13日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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2025/03/18 | グリーン車から考える日本の格差-より多くの人が快適さを享受できる社会へ- | 金 明中 | 研究員の眼 |
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