2019年03月25日

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1――はじめに

筆者は、「企業の社会的責任(SR:Social Responsibility)や存在意義は、あらゆる事業活動を通じた社会問題解決による社会変革(social innovation)や社会的価値(social value)の創出にこそあるべきであり、経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。企業は社会的価値の創出と引き換えに経済的リターンを獲得できるのであり、社会的価値の創出が経済的リターンに対する『上位概念』である。このような『社会的ミッション起点のCSR 経営』は、従業員、顧客、取引先、株主、債権者、地域社会、行政など多様なステークホルダーとの高い志の共有、言わば『共鳴の連鎖』があってこそ実践できる」と考えている1

この「社会的ミッション起点のCSR経営」の対極にあるのが、「目先の利益追求を優先する短期志向(ショートターミズム:short-termism)の経営」だ。本稿では、付加価値分配構造の考察などを基に、我が国の大企業の多くが経営の短期志向に陥っていることを示し、さらに短期志向の経営が目先の利益確保には成功したとしても、それは長続きせず、結局中長期で見れば、経済的リターンをもたらさないことを説明した上で、日本企業は今こそ、社会的ミッション起点のCSR経営を実践すべきであることを論じたい。
 
1 企業の存在意義や社会的責任を社会的価値の創出と捉える考え方については、拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」『ニッセイ基礎研REPORT』2009年12月号、同「震災復興で問われるCSR(企業の社会的責任)」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2011年5月13日、同「CSRとCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2015年3月31日、同「最近の企業不祥事を考える」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2015年12月28日、同「イノベーションの社会的重要性」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2018年8月15日、同「企業不動産(CRE)の意味合い」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2019年3月4日を参照されたい。
 

2――社会的価値創出に邁進する米国ハイテク企業と経営の短期志向に陥る日本企業

2――社会的価値創出に邁進する米国ハイテク企業と経営の短期志向に陥る日本企業

社会的ミッション起点のCSR経営を今真剣に追求・実践しているのは、アップルやグーグルをはじめ、シリコンバレーなどに立地する米国の優れたハイテク企業ではないだろうか。それらの企業は、ベンチャーを含め、目先の利益を上げることではなく、社会を良くすること、すなわち社会的価値の創出を競い合っている、と言っても過言ではない。それらの企業の経営者は、金の亡者ではなく、社会的ミッションの実現を真剣に日夜考えている起業家であり、上位概念に据える社会的価値の創出のためなら、環境変化への抜本的な対応も厭わない、柔軟かつ機動的な発想を持ち合わせている。

一方、日本企業はどうか。ソニーを創業した井深大氏と盛田昭夫氏、パナソニックを創業した松下幸之助氏、本田技研工業を創業した本田宗一郎氏をはじめ、日本の大手メーカーの創業者は、強い情熱や使命感を持って、まさに社会的ミッション起点のCSR経営を追求・実践した、我が国を代表する産業人だった。

しかし、その後、我が国の大企業の多くは、外国人投資家の台頭や四半期業績の開示義務付けなど、資本市場における急激なグローバル化の波に翻弄され、2005年前後を境に株主利益の最大化が最も重要であるとする「株主至上主義」へ拙速に傾いた、と筆者は考えている2。多くの大企業は、短期志向の株主至上主義の下で、労働や設備への分配を削減して将来成長を犠牲にする代わりに、短期収益を上げ株主配当の資金を捻出するという、バランスを欠いた付加価値分配に舵を切り、リーマン・ショック後には大手メーカーが派遣労働者の大量解雇に走った(我が国大企業の付加価値分配構造の定量分析については、次章にて行う)。多様なステークホルダーからの共感が得られる「誠実な経営」には程遠く、社会的ミッションが軽視され、社会変革を起こす突破力が沈滞したとみられる。

短期志向の経営は、結局縮小均衡を招くだけで継続的な付加価値創造、つまりGDP 成長にはつながらなかったため、日本経済の「失われた10 年」を「失われた20 年」に引き延ばした主因の1つになってしまったのではないだろうか。

目先の利益を追わずに社会的価値の創出に邁進する、米国のハイテク企業がむしろ高収益を確保する一方、短期志向の経営の下で社会的価値追求への意識が希薄となっている、我が国の大企業の多くが相対的に低収益に陥っている。この両者の収益格差は、人材や設備への先行投資を十分に行っているかどうか、によって生じているとみられるが、さらにその根本原因としては、ビジネスモデルなどの問題ではなく、「世界を良くしたい」という社会的ミッションに高い志を持って取り組み、強い使命感・気概・情熱を持って、誠実かつ愚直にそれを成し遂げようとしているか、すなわち「社会変革への高い志・思い」を経営の原動力としているか、ということに行き着くのではないだろうか。
 
2 「我が国の大企業の多くが2005年前後を境に株主至上主義へ拙速に傾いた」とする筆者の考え方については、拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」『ニッセイ基礎研REPORT』2009 年12月号、同「最近の企業不祥事を考える」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2015年12月28日を参照されたい。
 

3――我が国大企業の付加価値分配構造の考察

3――我が国大企業の付加価値分配構造の考察

財務省「法人企業統計」を用いて、我が国大企業(資本金10億円以上)の付加価値分配構造を製造業と非製造業に分けて考察し、CSR経営の視点から我が国企業の課題を抽出する。
1大企業製造業の分析
我が国の大企業製造業全体の付加価値は、80年代までは高成長を遂げてきたが、90年代以降は循環変動を示しながら低成長にとどまり、2008~09年度はリーマン・ショックの影響により、ほぼ20年前の水準まで急減した(図表1)。その後、緩やかに回復してきたものの、直近実績の17年度でも48兆円超と、ピークを記録した07年度の9割弱の水準にとどまっている。
図表1 大企業製造業(資本金10億円以上)の付加価値分配構造の推移
付加価値分配構造について、収益サイクルの山(ピーク)同士である00年度と07年度、07年度と直近実績値の17年度を比べてみよう。まず00年度と07年度のピーク間比較については、拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」『ニッセイ基礎研REPORT』2009年12月号にて筆者が行った考察を引用すると次の通りである。「00年度と07年度を比べると、付加価値が約4兆円の増加(年率1.1%増)にとどまる一方、営業利益は約4.6兆円増加(同5.2%増)した(図表2)。分配の源泉となる付加価値の増分を営業利益の増分が上回った。一方、従業員人件費が約1.6兆円減少しており、この間の増益は付加価値増分のすべてが営業利益に回された上に、一部は人件費削減からも捻出された。他方、建物・機械装置など償却資産への分配を代理的に表す減価償却費は、約0.8兆円増と若干の増加にとどまった。また、従業員人件費が削減される一方、役員人件費は規模が大きくないものの増額されており、従業員のみにしわ寄せする形で利益捻出が図られた」「営業利益から金融機関への支払金利、行政への法人税・事業税等、株主への配当金が捻出され3、この中で株主配当が約3.6兆円増加し、営業増益分のほぼ8割が充てられた。この間の営業利益に偏重した付加価値分配は、結局株主配当の資金捻出に主眼があったものとみられる」「付加価値に占める各要素の比率(分配率)を見ると、従業員人件費の比率(労働分配率)は00年度の54%から07年度に47%へと7ポイント低下する一方、営業利益の比率は21%から28%へと7ポイント上昇した(図表2)。労働分配率は80年代以降、50~60%のレンジで推移してきたが、05年度から07年度まで50%を割り込み、歴史的低水準が続いた(図表1)。株主配当の比率は4%から10%へと6ポイント上昇した。配当金比率は80年代から90年代までは3%前後の水準で安定していたが、05年度以降10%以上の水準に切り上がった。一方、役員人件費の比率は1%前後の水準で安定している」「00年度から07年度にかけて、従業員への付加価値分配の抑制により、株主への分配が優先され、その傾向が05年度以降に特に強まったとみられる。08年度は、大幅な営業減益に伴う付加価値の急減により、固定費項目である従業員人件費や減価償却費への分配比率が急上昇する一方、営業利益への分配比率は急低下した」
図表2 大企業製造業(資本金10億円以上)の付加価値分配構造の変化 
(2000年度→2007年度→2017年度)
次に07年度と直近実績値の17年度を比べると、付加価値が約6.4兆円も減少(年率1.2%減)する一方、営業利益は約1.5兆円の減少(同1.0%減)にとどまった(図表2)。一方、従業員人件費が約1.1兆円、減価償却費が約2.2兆円、賃借料が約0.8兆円、各々減少しており、この間の営業利益の減少幅をできるだけ縮小させるべく、人件費の削減や設備・建物の投資・賃借の抑制などが図られたように見える。配当の源泉となる営業利益の減少幅が極力抑えられたとは言え、実際に減少している中で株主配当が約1.7兆円増加しており、この間の増配には、営業外収益の増加(約3.2兆円増)、営業外費用の減少(約1.4兆円減)、税効果を含む法人税など税金費用の減少(約2.6兆円減)などの一部が充てられたとみられる。

17年度の分配率を見ると、労働分配率は50.8%と07年度対比3.8ポイント上昇する一方、営業利益の比率は28.3%と同0.6ポイント上昇した(図表2)。労働分配率は上昇したものの、80年代以降で最も低い07年度の水準から、80年代以降の変動レンジ(50~60%)の下限値近くへ上昇したにすぎず、2010年代以降で見れば低下傾向にある(図表1)。営業利益の比率は小幅の上昇にとどまったが、80年代以降では歴史的に高い水準にある。減価償却費の比率は同2.3ポイント、賃借料の比率は同1.2ポイント、各々低下している。一方、配当金の比率は15.2%と同4.9ポイントも上昇しており、2000年代半ば以降、変動しながらも上昇基調にある。

このように、07年度以降も株主への分配が優先される傾向が一層強まっており、増配の資金捻出のために、人件費削減や設備投資抑制、営業外の財務対策などにより目先の利益確保が図られている、とみられる。
 
3 厳密には、営業利益から支払金利(営業外費用)を差し引き、(支払金利以外の)営業外損益を加算したもの(経常利益)に特別損益を加算したもの(税引前利益)から法人税・住民税・事業税および法人税等調整額(税効果会計)を差し引いたものが最終利益(=当期純利益、税引利益)となる。株主配当金は最終利益から捻出される。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、AI・IOT、スマートシティ、CSR・ESG経営

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