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- 震災復興で問われるCSR(企業の社会的責任)~震災が促すCSRの原点回帰~
コラム
2011年05月13日
筆者は4月28日付の本コラム(「震災復興における製造業の復興のあり方~最優先すべきは匠の技の迅速な復元~」)において、東日本大震災後の製造業の復興では、企業は震災復興・被災企業の支援と供給責任という「社会的ミッション」に高い志を持って誠実に取り組むことが求められると主張した。今こそ、企業は従業員、株主、取引先、顧客、地域社会など多様なステークホルダーと社会的ミッションを共有し、一致結束して震災復興に取り組むべき時だ。これはCSRを果たすことに他ならない。
震災や原発事故を受けて、一部の外資系企業は、いち早く外国人従業員の西日本・海外への一時退避や帰国、関東圏での一時業務休止などに動いた。社内のBCP(事業継続計画)マニュアルに従った行動と推測されるが、これにより、震災直後で動転し大混乱に陥っていた東日本在住の顧客からの問合せやニーズに対応できなかったのであれば、失った顧客の信頼を挽回するのは難しいだろう。ましてや、安易な日本からの事業撤退は、顧客だけでなく地域社会、取引先、行政からの信頼を取り戻せない。これに対し、母国の危機的状況に直面した我が国の大企業の経営者からの、被災した工場から撤収しないとの発言や安易な海外移転を戒める発言が伝えられており、「日本から逃げない」との意思表示は心強い。
一方、マスコミ報道によれば、被災した中堅・中小の部品・素材メーカーには、工場復旧を断念し、納入先の大手メーカーに社外秘だった生産ノウハウを伝え、自らは身を引き他社への代替生産の依頼を申し出る企業がいくつもあるという。長年培ってきた秘伝のタレとも言える生産ノウハウを手放してまでも、顧客への供給責任を真摯に果たそうとするこれらの中小企業は、何にも代えがたい社会にとっての至宝だ。このような志の高い真摯な中小企業の廃業を見過ごしてよいはずがない。大手メーカーも工場の低稼働を余儀なくされているところもあり厳しい環境下にあるが、大企業は、このような高い倫理観・品格を持つ中小企業の事業継続に向けた支援に最大限努力することこそが産業面からの震災復興、ひいては社会のサステナビリティ(持続可能性)につながると考えられる。
具体的には、工場復旧を支援するスタッフの派遣にとどまらず、工場施設の無償貸与・譲渡、金融支援、さらには中小企業が望めば従業員ごと企業買収を行い、工場復旧など事業の再構築が軌道に乗ればカーブアウト(事業の一部切り出し)によって再スタートを切ってもらう、というような抜本的な施策まで考えるべきではないだろうか。ただし、このような施策は、短期的には採算を度外視して取り組む覚悟が必要だ。
我が国の大企業の多くは2000年代以降、外国人投資家の台頭や四半期業績の開示義務付けなど、資本市場における急激なグローバル化の波に翻弄され、株主利益の最大化が最も重要であるとする「株主至上主義」へ拙速に傾いた、と筆者は考えている(拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」『ニッセイ基礎研REPORT』2009年12月号を参照)。株主至上主義の下で経営効率を重視するあまり、在庫を極小化するジャスト・イン・タイム(JIT)に代表されるように、ぎりぎり必要な分しか経営資源を持たない「リーン(lean)型」の経営に傾斜してしまった。今回の震災で効率性に偏重した経営の脆弱性が露呈したとみられる。
震災を契機に、短期的な収益や効率性にとらわれがちだった視点を改め、企業経営の発想そのものが転換されることを望みたい。中長期の事業継続・リスク分散のために短期的には効率が低下しても、在庫・IT資産・設備・事業拠点など経営資源にある程度の余裕、いわゆる「組織スラック(slack)」を備えておく、サステナビリティ重視の発想を取り入れてはどうだろうか。事業資産に余裕を持たせるには、自前の投資に限らず、アウトソーシング、企業連携、企業買収など多様な手法が考えられ、経営の知恵が求められる。JITについては、中小企業に余裕のない切迫した操業を迫り、体力を消耗させる面があるなら、サプライチェーン(供給網)の持続可能性を維持するためにも、その点を是正すべきだろう。
株主にも、短期的な株式リターンにとらわれずに、震災復興・持続可能な社会の構築という社会的ミッションを共有し、ミッション遂行に誠実に取り組む企業を高く評価し応援することを望みたい。それこそが真の社会的責任投資(SRI)ではないだろうか。企業を社会変革へと突き動かすには、社会的ミッションを実現する企業を称賛し鼓舞する社会風土を醸成する必要があると考える。株主は、その重要な役割を担う主体の一つだ。
企業の存在意義は、単なる財サービスの提供ではなく、それを通じた社会的課題の解決、すなわち「社会的価値(social value)の創出」にこそあるべきだ。経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。今こそ、企業もそれを取り巻くステークホルダーも、経済的リターンなど金銭的評価の確証がなくとも、社会的ミッションに向けた大切な一歩を果敢に踏み出す、高い志と強い気概を持てる転機としてほしい。今ならそれができるはずだ。筆者も「日本の力を信じている」一人だ。
震災や原発事故を受けて、一部の外資系企業は、いち早く外国人従業員の西日本・海外への一時退避や帰国、関東圏での一時業務休止などに動いた。社内のBCP(事業継続計画)マニュアルに従った行動と推測されるが、これにより、震災直後で動転し大混乱に陥っていた東日本在住の顧客からの問合せやニーズに対応できなかったのであれば、失った顧客の信頼を挽回するのは難しいだろう。ましてや、安易な日本からの事業撤退は、顧客だけでなく地域社会、取引先、行政からの信頼を取り戻せない。これに対し、母国の危機的状況に直面した我が国の大企業の経営者からの、被災した工場から撤収しないとの発言や安易な海外移転を戒める発言が伝えられており、「日本から逃げない」との意思表示は心強い。
一方、マスコミ報道によれば、被災した中堅・中小の部品・素材メーカーには、工場復旧を断念し、納入先の大手メーカーに社外秘だった生産ノウハウを伝え、自らは身を引き他社への代替生産の依頼を申し出る企業がいくつもあるという。長年培ってきた秘伝のタレとも言える生産ノウハウを手放してまでも、顧客への供給責任を真摯に果たそうとするこれらの中小企業は、何にも代えがたい社会にとっての至宝だ。このような志の高い真摯な中小企業の廃業を見過ごしてよいはずがない。大手メーカーも工場の低稼働を余儀なくされているところもあり厳しい環境下にあるが、大企業は、このような高い倫理観・品格を持つ中小企業の事業継続に向けた支援に最大限努力することこそが産業面からの震災復興、ひいては社会のサステナビリティ(持続可能性)につながると考えられる。
具体的には、工場復旧を支援するスタッフの派遣にとどまらず、工場施設の無償貸与・譲渡、金融支援、さらには中小企業が望めば従業員ごと企業買収を行い、工場復旧など事業の再構築が軌道に乗ればカーブアウト(事業の一部切り出し)によって再スタートを切ってもらう、というような抜本的な施策まで考えるべきではないだろうか。ただし、このような施策は、短期的には採算を度外視して取り組む覚悟が必要だ。
我が国の大企業の多くは2000年代以降、外国人投資家の台頭や四半期業績の開示義務付けなど、資本市場における急激なグローバル化の波に翻弄され、株主利益の最大化が最も重要であるとする「株主至上主義」へ拙速に傾いた、と筆者は考えている(拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」『ニッセイ基礎研REPORT』2009年12月号を参照)。株主至上主義の下で経営効率を重視するあまり、在庫を極小化するジャスト・イン・タイム(JIT)に代表されるように、ぎりぎり必要な分しか経営資源を持たない「リーン(lean)型」の経営に傾斜してしまった。今回の震災で効率性に偏重した経営の脆弱性が露呈したとみられる。
震災を契機に、短期的な収益や効率性にとらわれがちだった視点を改め、企業経営の発想そのものが転換されることを望みたい。中長期の事業継続・リスク分散のために短期的には効率が低下しても、在庫・IT資産・設備・事業拠点など経営資源にある程度の余裕、いわゆる「組織スラック(slack)」を備えておく、サステナビリティ重視の発想を取り入れてはどうだろうか。事業資産に余裕を持たせるには、自前の投資に限らず、アウトソーシング、企業連携、企業買収など多様な手法が考えられ、経営の知恵が求められる。JITについては、中小企業に余裕のない切迫した操業を迫り、体力を消耗させる面があるなら、サプライチェーン(供給網)の持続可能性を維持するためにも、その点を是正すべきだろう。
株主にも、短期的な株式リターンにとらわれずに、震災復興・持続可能な社会の構築という社会的ミッションを共有し、ミッション遂行に誠実に取り組む企業を高く評価し応援することを望みたい。それこそが真の社会的責任投資(SRI)ではないだろうか。企業を社会変革へと突き動かすには、社会的ミッションを実現する企業を称賛し鼓舞する社会風土を醸成する必要があると考える。株主は、その重要な役割を担う主体の一つだ。
企業の存在意義は、単なる財サービスの提供ではなく、それを通じた社会的課題の解決、すなわち「社会的価値(social value)の創出」にこそあるべきだ。経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。今こそ、企業もそれを取り巻くステークホルダーも、経済的リターンなど金銭的評価の確証がなくとも、社会的ミッションに向けた大切な一歩を果敢に踏み出す、高い志と強い気概を持てる転機としてほしい。今ならそれができるはずだ。筆者も「日本の力を信じている」一人だ。

03-3512-1797
(2011年05月13日「研究員の眼」)
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