コラム
2019年03月04日

企業不動産(CRE)の意味合い-街づくりの視点でも重要に

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

CRE(企業不動産戦略) 土地・住宅 などの記事に関心のあるあなたへ

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企業が事業活動に利活用する不動産、いわゆる「CRE:Corporate Real Estate)」の意味合いについて本コラム等で取り上げていきたい。今回は、その社会性について考える。企業がCREを重要な経営資源の1つに位置付け、その活用、管理、取引(取得、売却、賃貸借)に際し、CSR(企業の社会的責任)を踏まえた上で、企業価値最大化の視点から最適な選択を行う経営戦略を「CRE 戦略」と呼ぶ1
 
1 筆者が執筆したCRE 戦略に関わる主要な論考(弊社媒体)については、弊社ホームページの筆者ページ「百嶋 徹のレポート」を参照されたい。

企業の社会的責任は社会的価値創出にこそあるべき

そもそも「企業の存在意義や社会的責任は、あらゆる事業活動を通じた社会問題解決による社会変革(social innovation)や社会的価値(social value)の創出にこそあるべきであり、経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。企業は社会的価値の創出と引き換えに経済的リターンを獲得できるのであり、社会的価値の創出が経済的リターンに対する『上位概念』である。このような『社会的ミッション起点のCSR 経営』は、従業員、顧客、取引先、株主、債権者、地域社会、行政など多様なステークホルダーとの高い志の共有、言わば『共鳴の連鎖』があってこそ実践できる」と筆者は考えている2

すなわち、あらゆる企業活動や経営戦略において、社会的ミッション起点のCSR経営を実践することが不可欠だが、CRE戦略では、とりわけ各種のワークプレイスやファシリティが立地する地域社会との共生を図り、良き企業市民として地域活性化に貢献する視点が重要だ3
 
2 企業の存在意義を社会的価値の創出と捉える考え方については、拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研REPORT』2009年12月号、同「震災復興で問われるCSR(企業の社会的責任)」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2011年5月13日を参照されたい。
3 CSR経営とCRE戦略の関わりについては、拙稿「CSR とCRE 戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2015年3月31日を参照されたい。

CREは外部性を持つユニークな経営資源

CREは、「外部性」を持つ非常にユニークな経営資源である。外部性とは、ある経済主体の活動(ここでは企業によるCREの利活用)が市場を介さずに、第三者(ここでは地域社会)に何らかの影響を及ぼすことを指す。外部性にはプラスとマイナスの両面の影響が想定され得るが、プラスの場合は「外部経済」、マイナスの場合は「外部不経済」と言う。CSR経営では、外部不経済を最小化あるいはゼロ化するとともに、外部経済を最大化することが併せて求められる。

「マネジメントの父」と称されるピーター・F・ドラッカーは、1974 年に刊行された名著『マネジメント』の中で、「企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである」と指摘し、「自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割」の重要性を説いた。これは、まさに外部性への対処に向けた組織の在り方をいち早く示唆したものであると言えよう。

CREの利活用がもたらす外部不経済の最小化・ゼロ化

外部性を持つCREは、とりわけ社会性に配慮した利活用が欠かせない。CREの中でも土地は地域に根ざした公共財的な性格を持ち、再生産することができない経営資源である。企業がそこに研究拠点、工場、営業店舗、本社など各種ファシリティを構築し、土地を開発・使用する段階において、地域社会の自然環境や景観に何らかの影響を与え、何の対策・配慮も講じなければ、外部不経済をもたらすことが多いだろう。

企業は、事業を行う上で地域コミュニティの理解と協力が欠かせない。そこでCRE 戦略が果たすべき役割としては、地域社会の信頼を勝ち得るために、まずは自然環境や景観に配慮した適切な不動産管理が不可欠だ。これは、外部不経済の最小化あるいはゼロ化の視点だ。

環境配慮の取り組みの一例として、オフィスビルでの省エネ対策が挙げられ、その具体策として、吹き抜けによる自然採光・自然換気の取り入れ、空調や照明など最新鋭の省エネ機器の導入、それらを備えた「グリーンビルディング」の構築などが挙げられる。景観配慮の取り組みでは、建物を構築する場合、近隣への圧迫感を軽減し、地域社会の景観に調和させるために、できるだけ低層のものとすることが一例として挙げられる4
 
4 例えば、日本の大手メーカーが最近新設した先進的な研究所の建物は、4~7階の低層のものが多く見られる。

CREの利活用が生み出す外部経済効果の最大化

企業は、このようにCREの利活用が地域社会の自然環境や景観に及ぼす外部不経済をしっかりと抑制・解消する一方で、そのような環境・景観に配慮した物的な不動産管理にとどまらず、CREの利活用が事業活動を通じて地域社会に生み出す、地域活性化や社会課題解決など外部経済効果を最大限に引き出すことに取り組むことが求められる。これは、外部経済の最大化の視点だ。

例えば、社会課題解決に資する製品を開発・生産する拠点の立地・操業は、サプライヤーなどの関連企業群の立地や行政による工業インフラ(電力・工業用水等の用役関係や道路・港湾等の交通インフラなど)の整備を誘発・促進し、それがさらなる企業立地をもたらし、地域社会に「集積が集積を呼ぶ好循環(産業集積の好循環)」を起こし得る。企業の開発・製造拠点の立地がドライバーとなって、地域社会に継続的な産業集積やインフラの充実、ひいては雇用創出や税収増、産業構造の転換・高度化などの波及効果(外部経済)を継続的にもたらし得るのだ。

また、企業が研究拠点を構築し、その立地地域の大学・高等専門学校(高専)・公設試験研究機関(公設試)や行政関連機関との産学官連携や、地域の中堅・中小企業との企業間連携により共同研究開発を積極的に推進すれば、社会変革につながる画期的な新技術・新事業(プロダクト・イノベーション)がその地域発で創出され、また優秀な地域人材が育成されることにつながり得るだろう。

以上見てきたように、外部性を持つCRE は、その利活用で地域社会にもたらされる自然環境や景観に関する外部不経済を最小化・ゼロ化することにとどまらず、事業を通じた地域活性化や社会課題解決など、「社会的ミッション起点のCSR 経営を実践するためのプラットフォーム」の役割を果たすべきである。

街づくりにも外部性の視点が必要

CREなど各種ファシリティの集合体である街づくりにも、外部性に関わる同様の視点が必要だ。すなわち、街づくりにおいても、CRE単体と同様に、まずは不動産の利活用が地域・都市の自然環境や景観に及ぼす外部不経済を最小化することが不可欠だ。

一方、街づくりがもたらす在るべき外部経済効果とは、どのようなものだろうか。それは、「多様な人々が集い、互いに切磋琢磨して相互作用を及ぼしながらコラボレーションが自在に図れる『オープンイノベーション』5のための多様な場を提供することで、イノベーションが創造されやすい環境を整備し、大企業に属する人々だけでなく、起業家、研究者・技術者、アーティスト・クリエーター、社会活動家、外国人など、多種多様な背景を持った創造性豊かで能力の高い人々を世界中から引き寄せる。そして、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、自動運転などの最先端テクノロジーをフル活用した、抜本的なイノベーションがその地域・都市発で継続的に創出されることにより、環境・エネルギー、防災・インフラ、交通・モビリティ、健康・医療・福祉、情報セキュリティなど、地域・都市を取り巻く多様で横断的な社会課題が解決され、地域・都市の中長期のサステナビリティ(sustainability:持続可能性)が向上することである」と筆者は考える。

創造性豊かで優秀な人材は、仕事と生活を融合一体化させる働き方を好む傾向があり、このような人材を引き寄せるには、企業の創造的なオフィス(クリエイティブオフィス)6を起点に、職住遊が近接する街づくりが欠かせない。また、オープンイノベーションを推進するためには、企業のクリエイティブオフィスの他に、多様で幅広いコラボレーションの場を地域・都市に集積させることが必要だ。例えば、所属を越えて集えるコワーキングスペースやシェアオフィス、生活者・ユーザー視点のオープンイノベーションの場としてのファブラボ(FabLab)やリビングラボ(Living Lab)7、大学・研究機関、インキュベータ(中小・ベンチャー企業支援機関)、ベンチャーキャピタル(VC)、金融機関などの誘致や整備・充実が望まれる。事業を通じた地域活性化や社会課題解決など社会的価値の創出をミッションとする、志の高い企業・組織が地域社会に集積することは、地域・都市のサステナビリティ向上につながり、結果として中長期の経済発展をもたらす、と考えられる。

さらに、場づくりというハード面の整備にとどまらず、産学官が連携して、異文化や多様性を理解し受容する「寛容性」が、地域・都市全体で風土・文化として醸成され意識付けられるよう促し、創造的で多様な人々が活動しやすい雰囲気・環境をつくることも、ソフト面として非常に重要だ。
 
5 外部組織との連携によって、組織外の多様な叡智や知見を積極的に取り入れることを「オープンイノベーション」と言う。オープンイノベーションに関わる考察については、拙稿「オープンイノベーションのすすめ」『ニッセイ基礎研REPORT』2007年8月号を参照されたい。
6 創造的なオフィスづくりやクリエイティブオフィスの考え方・在り方については、拙稿「クリエイティブオフィスのすすめ」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研所報』Vol.62(2018年6月)を参照されたい。
7 ファブラボとは、3Dプリンターなど多様な工作機械を備えた、誰もが使えるオープンな実験的市民制作工房の世界的ネットワークであり、リビングラボとは、市民・生活者、自治体、NPO、企業などがサービス創出プロセスに参加し、生活者の利用行動の観察や評価、利用後のフィードバックなどを行い、新製品・サービスを共創する取り組みを推進する場である。

地域・都市の「サステナブル・クリエイティブシティ」への進化を目指せ!

多様な人々が集い、イノベーションが継続的に創出され、多様な社会課題が解決されるような都市では、「クリエイティブシティ(Creative City:創造都市)」と持続可能(サステナブル:sustainable)な「スマートシティ(Smart City)」8の要素を併せ持つべきであり、筆者は、そのような都市を「サステナブル・クリエイティブシティ」と呼んでいる9

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットで採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際社会全体の開発目標であり、持続可能な世界を実現するための17のゴール(目標)とその下位目標である169のターゲットから構成される。

17の目標の中には、目標11として「住み続けられるまちづくりを:包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」が掲げられ、「持続可能な都市」の構築自体が開発目標の1つとなっている。それにとどまらず、「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標4:質の高い教育をみんなに」「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」「目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「目標8 :働きがいも経済成長も」「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」「目標10:人や国の不平等をなくそう」「目標12:つくる責任 つかう責任」「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標15:陸の豊かさも守ろう」「目標16:平和と公正をすべての人に」「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」など、街づくりが関わり得る目標が数多く掲げられている10

サステナブル・クリエイティブシティは、前述の通り、多様で横断的な社会課題を解決するための強力なプラットフォームとなるため、地域・都市をサステナブル・クリエイティブシティへ進化させることは、SDGs推進のための極めて有力な手段の1つになる、と筆者は考える。
 
8 スマートシティは、当初は「環境配慮型都市」と呼ばれることが多く、解決すべき社会課題は環境・エネルギー分野が専ら中心であったが、現在は社会課題が複合化しており解決には分野横断的な取り組みが求められ、今後その傾向はますます強まるとみられる。このため、ここではスマートシティについては、あえて日本語訳を記載しなかった。
9 ここで述べた街づくりの考え方については、これまでも筆者は、例えば、百嶋徹「創造性とブランド価値を高めるオフィス環境の革新」東洋経済新報社『週刊東洋経済』2014年11月1日号(筆者へのインタビュー記事)などで主張してきたが、「サステナブル・クリエイティブシティ」との呼称は、『日本トップクラスの事業展開環境 茨城・つくばエリア~つくばエクスプレス沿線の魅力』(茨城県企画部 つくば地域振興課作成、2016年9月)に筆者が寄稿したコラム「つくばエクスプレス沿線の『茨城・つくばエリア』は、サステナブル・クリエイティブシティへ進化」にて初めて用いた。
10 各目標の内容は、各目標のロゴに記載されているものを掲載した。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

(2019年03月04日「研究員の眼」)

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