2017年09月01日

問題公表による他社株価への影響-持合ネットワーク構造を用いた分析

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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3――問題公表による他社株価への影響

前章の分析結果から、約7割の企業は互いにつながりあっていることがわかった。そこで、特定の企業による問題の公表が、他社株価に影響するか否かを確認する。そして、影響する場合は、影響が及ぶ範囲の推定を試みる。
図表6:分析対象イベント
1分析方法の概要~累積超過リターンによる評価
今回は、近年発覚した問題のうち、第1Gに属する企業が公表した3つのイベント(図表6)を対象とし、問題公表企業との距離別に、問題公表後の累積超過リターンの平均値を比較する。累積超過リターンの平均値の具体的な算出手法は、以下に示す(5ステップ)通りである。
5ステップ/図表7:距離別サンプル系列数
2分析結果~問題公表企業と近い他社の株価にも影響を及ぼす
距離別の累積超過リターンの平均値は図表8に示す通りである。参考までに、距離0(問題を公表した企業)の累積超過リターンも併記しているが、軸が右軸でスケールが異なる点に注意が必要である。
図表8:累積超過リターンの平均値
通常、このようなイベント分析を行う場合、累積超過リターンが統計的有意に正(負)であるかを確認する場合が多いが、今回は、距離1~距離5の累積超過リターンの平均値が、距離∞の累積超過リターンの平均値と統計的有意に異なるか否かを確認した。その理由は、通常のイベント分析では特定の銘柄のみを分析対象とするのに対し、今回は同時点のTOPIX採用全銘柄を分析対象とする為である。超過累積リターンの算出に、TOPIX収益率を用いている事から、絶対値による評価は不適切である。

図表9は、「距離∞の累積超過リターンの平均値と差がない」という仮説を棄却した場合に、その判断が誤っている確率を示しており、数値が一定水準より小さい場合、距離∞とは統計的有意に異なると判断可能である。5%を超えるのは、距離1の「1営業日後」、「2営業日後」、「9営業日後」のみであることから、特定の企業による問題公表が、持合ネットワーク上つながりのある他企業の株価に影響を与えると考えられる。なお、図表8では、距離1は距離∞ともっとも乖離するにもかかわらず、図表9上の値は、距離1がもっとも高いのは、距離1のサンプル系列数が他に比べて少ないからである。
図表9:「距離∞と差がない」という仮説を棄却した場合に、その判断が誤っている確率
図表10:クラスター分析の結果(逐次集約過程を示す樹状図) 3分析結果~影響が顕著なのは、距離が2以下の企業
次に、公表後翌営業日から10営業日後の累積超過リターンの類似性に基づいて、距離1~距離5及び距離∞をグループ分けする。グループ分けはクラスター分析を用いた。手法の詳細は割愛するが、類似するデータから順に逐次集約を繰り返す事で、グループ化していく手法である。図表10に示す分析結果をトーナメント表に擬えて説明するならば、対戦(縦棒)は、グループ化されることを意味する。名札から対戦までの幅が、グループ化することで失われる情報の量を表し、幅が短いほど類似性は高い。距離1や距離2と距離∞との間には大きな相違があり、前節の分析結果と整合的である。一方、距離3~距離5は、距離1や距離2より距離∞との類似性が高い。前節の分析結果も踏まえると、「距離3~距離5は距離∞と統計的に有意な差はあるが、その差は距離1及び距離2と距離∞の差と比べると僅かである」と解釈できる。

以上から、持合ネットワーク上つながりのある企業による問題公表により、顕著な影響を受ける範囲は、距離が2以下であると推測できる。これは、直接的な「株式持ち合い」関係にない企業にも、顕著な影響を及ぼす可能性を示している。
 

4――最後に(今後の課題)

4――最後に(今後の課題)

今回は、持合ネットワークの構造を分析し、約7割の企業は互いにつながりあっていることを確認した。その分析結果を基にイベント分析を実施し、特定の企業による問題公表が、持合ネットワーク上つながりのある他企業の株価に影響を与える可能性が高いことを確認した。また、顕著な影響を及ぼす範囲の推定を試み、直接的な「株式持ち合い」関係の範囲にとどまらない可能性も確認した。
 
分析対象イベント数が限られることなどから今後、より精緻なかつ多面的な分析が必要であるものの、持合ネットワーク構造を前提とした分析には価値があると考える。今後は、株価への影響に止まらず、企業間の距離別に財務諸表への影響分析等にも取り組みたい。
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2017年09月01日「基礎研レポート」)

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