NEW
2025年08月29日

米移民政策と労働市場への影響-トランプ政権の厳格な移民政策に伴い、外国生まれの労働力人口は大幅減少。懸念される労働供給への影響

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

(不法越境者数・強制送還件数)不法越境者数は大幅減少、強制送還数は計画未達の見通し
2期目のトランプ政権による厳格な移民政策により、メキシコとの南部国境からの不法越境者数は大幅に減少した。バイデン前政権下の23年12月に一時史上最高となる25万人が不法越境していたが、トランプ政権に交代した25年1月に2.9万人、その後は1万人を割る状況が続いており、直近7月は僅か4,600人の流入に留まった(図表4)。

次に、トランプ政権が重視している強制送還数は、政権発足以降に定期的な発表を止めており、DHSが不定期に発表している。DHSの8月14日のプレスリリース7ではトランプ政権下で32.4万人送還したことが示されているほか、ニューヨークポストによるDHSへの取材8で既に33.2万人が強制送還されたとしている。また、DHSの内部関係者に対する取材を踏まえたニューヨークタイムズの記事9(8月21日)によれば、一部トランプ政権(25年1月~)も含む25年度(24年10月~9月)通期では40万人超と24年度の27.1万人を大幅に上回るものの、目標の100万人には届かない模様だ(図表5)。
(図表4)南部国境からの不法越境者/(図表5)強制送還数
(世論調査)移民政策に対する有権者の評価は昨年から大幅に変化
バイデン前政権下で寛容な移民政策を採用したことが南部国境からの記録的な不法越境者数の増加を招いた。この結果、厳格な移民政策に対する有権者の支持が高まり、トランプ大統領が再選する要因の1つとなったが、この状況には大幅な変化が生じている。
(図表6)移民に関する世論調査 GALLUP社による移民に関する世論調査では、移民の受け入れ数を「減らすべき」との回答割合が24年6月に55%と過半数を超えて01年10月以来の水準となっていたが、25年6月には30%に急落し過半数を大幅に割り込んだ(図表6)。これに対して「現状維持」が前回の25%から38%に増加して「減らすべき」を上回ったほか、「増やすべき」が前回の16%から26%に増加した。

また、同調査では「移民は一般的に国にとって良いこと」との回答割合は25年6月が79%と前回(24年6月)の64%から大幅に増加し、01年の調査開始以来最高となった。一方、「移民は一般的に国よって悪いこと」との回答割合は僅か17%と前回調査の32%からさらに低下した。特筆すべきは共和党支持者でさえ、64%が「良いこと」と回答しており、前回調査の39%から過半数に急増していることだ。

このような結果を踏まえると、バイデン前政権時代には南部国境からの不法越境者数が史上最高となるなど、寛容な移民政策に対する有権者の不満が高かったが、足元では共和党支持者も含めてトランプ政権の移民政策が厳格すぎるとの評価に傾いていることが指摘できる。
(労働市場への影響)強制送還の増加により米国生まれの雇用も減少する可能性
これまでみたような南部国境からの不法越境者数の大幅な減少や強制送還増加の影響は労働供給の減少を通じて労働市場に既に影響を及ぼしている。合法的移民と不法移民を合わせた外国生まれの労働力人口はコロナ禍に加え1期目のトランプ政権による厳格な移民政策の影響で20年4月に2,629万人に低下した(前掲図表1)。その後は21年1月のバイデン政権発足以降に急激な増加がみられ、2期目のトランプ政権発足後の25年3月には3,372万人と20年4月から743万人増加した。しかしながら、25年4月以降は減少に転じており、7月は3,207万人と3月のピークからは▲165万人の大幅な減少となった。また、米国の労働力人口に占める外国生まれの労働力人口のシェアも25年3月の19.8%から7月は18.7%まで低下し23年10月以来の水準となった。

一方、米国生まれの労働者と移民労働者の持つ仕事は補完的で経済的に結びついていることが多いため、過去の実証研究からは移民の強制送還は移民労働者だけでなく、米国生まれの雇用も減少させることが示されている。

米シンクタンクの経済政策研究所(EPI)は08年~14年に実施された大規模な移民取り締まりプログラム(Secure Communities)10の影響を分析し、1件の強制送還が1.24件の移民の雇用を喪失させるほか、0.96件の米国生まれの雇用も喪失させることを示した。

この試算を用いてEPIは、トランプ政権が毎年1百万人、4年間で4百万人強制送還した場合に移民の雇用が▲3.316百万人、米国生まれの雇用が▲2.571百万人、合計で▲5.887百万人の雇用が喪失すると試算した(図表7)。これは総雇用者数の3.6%に相当する。

また、EPIは業種別では移民労働者の割合が高い建設業でとくに影響が大きいとしており、建設業では移民の雇用が▲1.405百万人、米国生まれが▲0.861百万人の合計▲2.266百万人と建設業界全体のおよそ19%が喪失するため、建設業で労働力不足が深刻化することを指摘した。
(図表7)4年間で強制送還4百万件増加させた場合の雇用喪失(人)
 
10 移民取締りを強化するために、米国移民・関税執行局(ICE)、連邦捜査局(FBI)、州および地方の警察当局の間で指紋やその他の情報の共有を拡大したほか、地方の法執行機関が通常は釈放されるはずの逮捕者を最大48時間拘束し、ICEが退去手続きを促進できるようにした。同プログラムにより08年~14年に強制送還が45.4万人超となったことが報告されている。

3.今後の見通し

3.今後の見通し

これまでみたように2期目のトランプ政権は就任初日から大統領令による厳格な移民政策方針を示しており、移民執行や国境警備のための巨額の予算を成立させるなど厳格な移民政策を強力に推進している。これらの結果、南部国境からの不法越境者の減少や強制送還数の増加がみられ、外国生まれの労働力人口は大幅な減少に転じている。

足元の強制送還数はトランプ大統領が目標とする100万人を下回っているものの、予算措置に伴い強制送還のペースが上がっているほか、自発的な退去を促していることもあって今後も外国生まれの労働力人口の減少は続く可能性が高い。

また、強制送還の増加は移民だけでなく、米国生まれの雇用喪失に繋がるため、労働力供給の減少に拍車がかかる可能性が高い。

とくに、建設部門など移民労働力のシェアが高い分野を中心に労働力不足が深刻化することが予想される。また、建設部門では労働力不足から住宅供給が減少し、住宅市場に悪影響を及ぼそう。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

このレポートの関連カテゴリ

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【米移民政策と労働市場への影響-トランプ政権の厳格な移民政策に伴い、外国生まれの労働力人口は大幅減少。懸念される労働供給への影響】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米移民政策と労働市場への影響-トランプ政権の厳格な移民政策に伴い、外国生まれの労働力人口は大幅減少。懸念される労働供給への影響のレポート Topへ